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・開拓8日目 大理石のプール - 臨時インベントリ -

「ノアちゃんノアちゃんっ、見て下さい! なーんにもないですねーっ!」

「そうだね」


「なーんにもないところがー、面白いですねーっ♪」

「そうかもね」


 何もないことを楽しめるなんてピオニーは上級者だ。

 荒野は行けども行けども何もなかった。


 そんな中、ドワーフの地図を頼りに俺たちは道なき道を進む。

 彼方に見える特徴的な断崖が、この手書きの地図通りのものならば目的地の大理石までもう少しだ。


「あそこにある岩山、鷹さんの形ですっ!」

「それも地図の通りだね」


 ドワーフたちを受け入れて大きな得をしたと思った。

 俺たちには地図を作る才能も発想もなかった。


 人が増えるということは、人の発想がそれだけ増えることなのだと、ウィンザーラッド家の元嫡子として考えさせられる。


「待って。ここに簡単なランドマークを作っておこう」

「らんど……なんですかー。それー?」


「遠くから見つけられる目印だよ」

「あっあっ、それならピオニーが作るですよーっ、ノアちゃんは休んでて下さい!」


「もう身体は大丈夫だよ」

「そういう問題じゃないです。私が作りたいだけなのです」


 ピオニーが俺のインベントリから余った石材を取り出すと、それを組み合わせてアーチを作った。

 高さはキューブ4つ分。これだけ大きければ遠方からでもよく目立つ。


 俺はピオニーの作ったアーチを、炭で手描きの地図に描き加えた。

 特徴的な地形がなくて迷うならば、目印になるランドマークを作っていけばいい。


「やったですっ、ピオニーの作ったやつが地図に載ったですよーっ」

「下手でごめんね」


「そんなことないです。かわいいですよ、ノアちゃんの絵」

「そうかな……」


「そうですよーっ。ドワーフさんたち、明日からはこれを見ながら冒険するです。きっと喜ぶのですよー」


 ドワーフの地図を頼りに俺たちは荒野を進んだ。

 ちなみにこの地図はメモ帳から切り取られた模写だ。ドワーフたちは今もどこかで、何かしらのランドマークを見つけてはメモ帳へと記しているだろう。



 ・



 開拓地を離れてざっと1時間後、俺たちは地図を頼りに大理石の鉱床へとたどり着いた。

 確かにこれは大理石だ。気品ある白い輝きが俺たちを魅了していた。


「ほわぁぁ……でっかいですねー……」

「うん、これは予想以上かな」


 この崩れた岩場は一面が大理石で構成されている。

 いったいどれだけの大理石がここから採集できるのか、俺にはとても想像も付かない。


「素敵ですね」

「そうだね、まるで黄金のようだ」


「おーごんですかー?」

「これをポート・ダーナで売ったら俺たちは大金持ちだ。よし、掘ってみよう!」


 つるはしを振ると、大理石は白い光となって俺の中に消えた。

 インベントリを確認すると、ちゃんとそこに『大理石』とある。


「ほどほどに、ほどほどにですよー? ここで倒れたら、ノアちゃん持って帰れないですからねー?」

「それもそうだね。ほどほどにしよう」


 これだけ高価な物だと買い手に限りがある。この大理石はゆっくりと少しずつ売っていこう。


「それにしても綺麗なのです……。こんなに綺麗な石でプールを作っちゃうなんて、そんなの素敵過ぎなのです……。ほわぁっ?!」


 採集の手を止めて、インベントリからキューブ1つ分の大理石を取り出して置いてみた。

 さらさらとした冷たい触り心地だ。白昼に浮き上がるようなその白さは、古来より数多くの権力者を魅了してきただけのことはあった。


「これは期待していた以上かも」

「私、いいこと思い付きました! これでお家を建てるのもいいですねっ!」


「いいね。その酔狂、悪くないよ」


 そこからは先はいつもと変わらないピオニーとの採集風景となった。

 白い黄金を求めて俺がつるはしを振り、ピオニーがキューブ化した大理石の上で労働を励ましてくれた。



 ・



「ん……」

「どうしたですかー、ノアちゃん? 疲れたならすぐ休むですよー?」


 200。いや300は集めたいと張り切っていると、なんだか変な感じがして手を止めた。

 大理石だけを狙って採集をしていると、岩山に底の浅い洞窟が生まれていた。


「さっきから変な音しない?」

「音ですかー?」


「うん、まるで何かが地面をはいずるような――あ」

「ぴゃぁーっっ、ワ、ワニィィーッッ?!」


 変だと思ったら俺たちはテラアウクストリス・クロコダイルの群れに囲まれていた。

 その数、ざっと20体だ。


「すぐにシェルターを作る、ピオニーはこっちに」

「待つです! ここは生まれ変わったピオニーにお任せあれなのです! シャキーンッ!」


「ちょ……」

「ノアちゃんは下がってるですよー。ワニさんくらい、ノアちゃんのお手をわずわわせるまでもないのですよー」


「それを言うなら煩わせるな。それより下がって、そいつらは危ないからダメだって」

「ちっちっちっ……とうっ、へんしんっ!!」


 ペラペラの紙だったピオニーが人型に変身した。

 彼女は腰の剣を抜き、ピカピカに輝くメタルバックラーを構えて――


「ちょっダメだって!」

「成敗なのです!」


 戦術もへったくれもなしにワニの群れへと正面突撃をしかけた。

 俺も剣を腰から抜きながら、ピオニーの背中を追いかけた。


「ワニさんごめんなさいっごめんなさいっ、えいえいえいえいっっ!」

「な、なにそれ……」


 ピオニーの動きは素人も同然だった。だが強かった。

 あらゆる攻撃を左手のメタルバックラーが阻み、右手の剣が少しでもワニにかすると、なんとワニが光となって消滅していた……。


 ピオニーの盾に激突すると、まるで衝撃が跳ね返ってくるかのように敵が体勢を崩す。

 そこを狙って俺もビルド&クラフトの加護を使って、ワニを片っ端からインベントリに回収した。


 不利を悟った群れが逃亡を図るのに1分もかからなかった。


「へへーんっ、思ったより強かったですねー、私。あ……っ」


 ピオニーの姿が元のドット絵生物に戻るのも同様の一分未満だ。


「アップグレードで成長したのは認めるよ。だけど敵のど真ん中に突っ込むのだけは止めて、こっちは君が食いちぎられるかと背筋が凍ったよ……」

「むふふふー、心配してくれてるですかー?」


「反省しないならインベントリ内のワニを君に投げ付ける」

「ピィッッ?!」


「言っておくけど本気だよ」

「ノアちゃん……恐ろしい人なのです……。心配させてごめんなさい……」


「わかってくれたならいいんだ。明日からは剣の特訓も予定に入れよう。確かに強かったけど酷い振りだった」

「ホントですかーっ!? はい、よろしくお願いします、ノアちゃん師匠!」


 現金なピオニーについ表情が緩んでしまって、俺は彼女に背中を向けて採掘に戻った。


 ピオニーが倒した敵はアイテムに変わる。彼女の臨時インベントリにワニ皮とワニ肉が入っていることに気付いたのは、大理石を300個集めて帰宅したその後だった。


――――――――――――――――――――――

【インベントリ】

 荒野の土   ×47  /9999999

 石材     ×13  /9999999

      → ×3(目印に)

 大理石    ×300 /9999999 new!

 石炭     ×23  /9999999

 ミミズ        ×40 /9999

 芋(野生種)     ×14 /9999

 木綿生地       ×45 /9999

 ハム         ×45 /9999

 干し魚        ×48 /9999

 ??????の魂   ×1  /?

――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――

【ピオニーの臨時インベントリ】

 ワニ肉        ×4  /9999 new!

 ワニ皮        ×4  /9999 new!

――――――――――――――――――――――


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