・開拓8日目 ネビュロスの呪いと、芋の鍵
「はひっっ?!!」
ベッドから飛び起きると、全てが酷い悪夢だったと気づいたです……。
「なんじゃ……どうした、ピオニー……?」
「クラウちゃん……っ。ああよかったですっ、全部夢だったですね……っ」
でもノアちゃんだけが起きてこない。
息はしているけど、どこか苦しそうに見える。
私は震える手でノアちゃんのおでこに手を当てて、変てこなことですけどノアちゃんの高熱にホッとしたです……。
「なんじゃ? 息が荒いな、ん……な、こやつ熱があるぞっ!?」
「変な話、するです……。私、ノアちゃんが死ぬ夢、見たです……」
「なんだと……? それはなんとも、不吉な話じゃな……。
」
「夢じゃないかもしれないです」
「む、何をやっておる……?」
「こうしろと、クラウちゃんが言ったですよ……」
暖炉から石炭を壷に移して、ノアちゃんの肌を照らした。
クラウちゃんは夢の中のクラウちゃんと同じように、その病気を知っていたです。
「なんてことじゃ……。これは、これはいかぬな……」
「はい……これで死んだですよ、ノアちゃん……。へへへ……私に、一目惚れしてたかもって、白状して死んだですよ……」
「つまり、予知夢を見たということか……? よし、もっとその話を聞かせよ。ワシはどうしていた?」
「隔離っていうのをやったです。でも、次の日の夜に、死んじゃったですから止めた方がいいです」
「ぬぅ……たった1日で死ぬとは軟弱なやつめ! それでは治癒術使いを呼ぶいとまもないではないか!」
「困ったですね……」
私とクラウちゃんは真夜中の世界で、部屋のテーブルに腰掛けてその後も話し合ったです。
答えは出なかったです。あまりに病状の悪化が早すぎて、普通の方法じゃ無理だとクラウちゃんは言うです。
「ぅぅー……。ノアちゃん……」
「おい、ダメだ、ピオニー。ノアには近付くな」
「イヤです! その言葉はもう聞きたくないですっ! 私はノアちゃんを助けたいだけなのですよっ!」
「……む、起きたか?」
「え。あ……っ」
クラウちゃんが驚くのでノアちゃんを見ると、眠っているのにノアちゃんのインベントリが突然現れていたです。
それが私たちの目の前で勝手に動き出して、なんでわからないですけど、ピオニーのアップグレード画面になったです。
―――――――――――――――
・アップグレード:特別な村人
宝石 × 4
芋 × 25
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「れれれ……?」
「なんじゃ、何かわかったか?」
「お芋が半分になってるです」
「この画面の必要数のことか?」
「でも宝石の数が2倍になってるかもです……」
「それは……なんともがっかりな話じゃの」
「でもでも、これなら足りるですよ? ここにあるお芋をノアちゃんの中に入れたら、アップグレードできちゃいます」
私はノアちゃんやクラウちゃんみたいに難しく考えるのは苦手なのです。
直感に身を任せて、これをポチッとやるのが正しい気がするです。
「ノアが知ったらさぞガッカリしそうじゃが……このままだと死ぬだけじゃな。芋と宝石を入れて押してしまえ」
「へへへー、そうしゃいましょうかー。んしょんしょ、ノアちゃんの中にお芋を入れてー、宝石も入れてー」
「むぅ、もったいないのぅ……」
「美味しいお芋が残りますよー?」
「はぁ、もったいないのぅ……」
「ではでは、ピオニーのアップグレード。押しちゃいますよー、ポチッ!」
どうかノアちゃんに加護をくれた神様、私にノアちゃんを救う力を下さい。
私はノアちゃんのいない世界なんて嫌です。ずっと、ノアちゃんと笑って暮らしたいのです。ただそれだけでいいのです。
「お、おおっ?! ピオニー、そなたなんか光っておるぞっ?!」
「おおーーっ?! ホントですっ、私光っちゃってますよーっ!?」
私はピカピカの虹色に光って、それから強い力が流れてくるのを感じたです。
そしてなんと! ノアちゃんを一目惚れさせたあの姿に戻れたですよ!!
「……だ、誰じゃお前っ!? ま、まさかっ、そなたピオニーか!?」
「へへーんっ、どやーっ!」
「か、かわいい……ワシよりかわいい……。なんじゃその美貌、反則じゃろっ!」
「きっと、この姿はノアちゃんが望んだ姿なのですよー。ピオニーは、100%ノアちゃんの好みでできているのです!」
「なっ、なんじゃってーっっ?!」
「勢いで言ってみただけなのです」
画面を見てみると、ノアちゃんのランクが上がったときみたいに文字がいっぱい出てたです。
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<ピオニーはグレード2にランクアップした!>
<ピオニーの変身時間が5分に延長された!>
<クラスチェンジが可能です。以下の2つから選んで下さい。>
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・ノーブル
収穫:所属する勢力の農作物の生産量10%アップ
代謝:所属する勢力の民の回復力20%アップ、食欲5%アップ
・ファイター
戦士:本人の全フィジカル能力50%アップ
調合:薬草、毒消し草のクラフトが解放
――――――
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文字を追ってゆくと、そこに希望があったです。
きっと神様が私の願いを聞いてくれたんだって、私はあふれ出る涙を拭ったです。
「断然、ノーブルじゃな」
「えーーーっっ?!」
「ピオニーがいるだけでワシらの飯が増えるのじゃぞ! ノアも本望じゃろうて」
「ダメですよーっ、ファイターにしてノアちゃん助けるお薬作るですよっ!?」
「うむ、言ってみただけじゃ。他にない、そっちのファイターとやらを選んでみよ」
「はいです! 私、戦うドット絵ちゃんになるですよっ!」
そういうことで私は、画面の中の『ファイター』をポチッとしたです。
たちまちにノアちゃんから細かな光が私の中に流れてきて、ピカーンッとまた光ってついにファイター・ピオニーになったのです。
「のぅ、ピオニー……。そこでなぜドット絵に戻る……」
「あ、戻っちゃってますねー。1日5分ってあったですから、時間切れかもです」
「あの姿でノアを看病してやれば、大喜びで元気になりそうなものじゃがなぁ」
「そんなことよりお薬作っちゃうですよ。なんだか、ノアちゃんを直すお薬が頭に浮かんできたです」
「おおっ、ならば材料を集めねばな!」
「では葉っぱを集めてきて下さい。材料はお芋と、あと葉っぱ色々と、お芋でどうにかなりそうです」
「なんじゃそりゃ……」
「ファイター・ピオニーのお薬調合は、お芋が鍵なのです!」
「ノアもノアでムチャクチャな力じゃが、そなたには負けそうじゃの……」
この後、私とクラウちゃんはドワーフさんたちの家を訪ねて事情を伝えたです。
今度は私がノアちゃんの看病に残るです。
夜明けにノアちゃんが目覚めて、それからみんなが材料を集めて戻ってきたお昼まで、ずっとずっとノアちゃんを看病して、必ず治ると励ましたです。




