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・草のベッドとドキドキの夜

「美味いっ、美味いっ、こんなに美味い魚は初めてじゃ! ピオニー、やはりそなたは天才じゃっ!」

「オレ、サカナ、好キニ、ナッタ! ウマッ、ウマッ、ウママッ!」


 ピオニーの焼いたアジの干物は、どうにも奇妙だったけれど味の方は絶品だった。

 加えてこれはピオニーの調理によるドット絵化の影響なのか、フォークで骨から身をはがそうとしてみると、なんとなんの抵抗もなくするりと身だけがはがれ落ちる。


「ピオニー、天才! ピオニー、毎日、食ベル」

「ピィッ!? た、食べないで下さいぃぃーっ?!」

「もしかして内心では、彼は本気で君を食べたいと思っているのかもね」


「ギャーッッ、止めて下さいよ、ノアちゃんっ! あんまり怖いこと言うと泣いちゃいますよっ!?」


 芯まで焼けた白身を口に運ぶとしょっぱい海の味がする。

 脂の乗ったその身はホロホロで、骨に悩まされないだけで魚はこんなに美味しくなるのかと、たかが干物に俺たちは感動していた。


 さらには完食すると、冗談みたいに綺麗な魚の骨(ドット絵)が残るのだから笑ってしまう。

 そのお手軽さと美味さに、調理者ピオニーにありったけの賞賛が向けられるのもまあ当然のことだった。


「ゴメン、ヒューマンコトバ、ムズカシイ……」

「ひぃ、ひぃ……ビックリしたですよ……」

「しかしこう、しょっぱい物を食べると酒が欲しくなるのぅ……」

「クラウジヤ、ダメ。ソレ、ガマン」


「わかっておる、つい言いたくなっただけじゃ……」


 彼らは現状、俺とピオニーに依存しなければ暮らしていけない。

 酒が飲みたいと思っても贅沢はできない。そこはまあ、そうなのだけど。


「今度交易に行ったときに何かお酒を仕入れてくるよ」

「ニョゴッ?!」

「い、いいのかっ!?」


「程度にもよるけど、切り詰めた生活ばかりしていても楽しくなんてないよ。酒が手に入ったら、みんなで飲もう」

「オォ……酒、飲ミタイ! 酒、ズット、飲ンデナイ! 酒、飲ミタイ!」

「ノア、イイ女!!」


「ノア、オレタチ、女神!!」

「そこ、何度否定しても譲らないのな、君ら……」


 ピオニーはスープをすすりながら、このテラスから西に広がる星空を見上げている。

 どうやら彼女は苦いお酒には興味がなさそうだった。



 ・



 楽しい晩餐を終えると、倉庫から素材を引き出してドワーフの土の家に向かった。

 せっかく素材があるのに、彼らの寝床を作らない理由はない。


―――――――――――

・草のベッド

  材料

   繊維  ×1

   葉や茎 ×20

―――――――――――


――――――――――――――――――――――

【倉庫・石の倉庫】容量:75キューブ

 木材   ×3   /9999999

 繊維   ×32  /9999999

    → ×31(草の家に)

 アイアンインゴット  ×99 /9999

 小麦粉        ×200/9999

 砂糖         ×50 /9999

 精製塩        ×49 /9999

 オリーブ油      ×22 /9999

 草          ×21 /9999

          → × 1(草の家に)

――――――――――――――――――――――


「あ、こっちの方がよかったな……」

「それはあの花のベッドのことか? ワシはあっちの方が好きじゃぞ」

「ピオニーもです! あっ、だけどなんか2つもできてるですよー!?」


――――――――――――

 草のベッド ×2 new!

――――――――――――


 そう、インベントリ画面に『×2』の表記があった。

 取り出してみると3×3の狭い個室になんとか入りそうなちょうどいいコンパクトさだ。早速個室に1つ設置してみた。


「ノア、アリガト! ノア、コレ、トテモ、ヨイ!」

「オレタチ、ノア、大好キ! コレ、オレ、ホシイ!」


 基本の材質は植物の繊維で、それが綱のように編まれて寝具の形になっている。


 ベッドだけではなく掛け布団まで付いていて、それぞれの表面には小さくやわらかなクローバーが無数に生えている。触れてみるとサラサラとしていて肌触りがとてもよかった。


 しかも不思議なことにそのクローバーは妙に頑丈で、試しに指で圧迫してみてもすぐに元の形に戻っていた。


「気に入ってくれてよかった。これは人数分量産したいところだね」


 男ドワーフたちは早速ベッドに腰掛けて、やわらかな寝床の誕生に興奮していた。

 それを尻目に俺は隣の部屋にもう1つのベッドを配置した。


「ノアちゃん、余裕ができたらピオニーの分もお願いしてもいいですかー……?」

「ダメ」


「えーーっ、なんでーっ!?」

「あ、当たり前じゃっ! ワシとノアが2人だけで寝ることになるじゃろうが……っっ!」


「あっ、そういうのいいですねー♪ ふふふー、なんだか恋愛小説の1ページみたいですねー♪」

「れ、恋愛……?! な、ななな、なぜそうなるっ!」


 そこはきっとギャップ萌えというやつだ。

 クラウジヤが見た目以上に恥じらい深い女性なので、そういう方向に繋げて見てしまう気持ちもわかる。


「ふんすふんすっ、とっても良い反応ですねー♪」

「答えになっておらんっ、ワ、ワシをおちょくると後が恐いぞーっ!」

「草のベッドの余裕ができたら俺が使うよ」


 今夜も女の子2人と同じベッドで眠ることになる。

 嬉しいシチュエーションなのかもしれないけれど、この前は寝返りを打ったところにピオニーのだらしないヨダレがたれていて、冷たさにハッと目が覚めてしまった。


「あ、私いいこと思いつきましたよ! 今日はクラウちゃんを真ん中にして寝ましょうっ、ノアちゃんと私でー、クラウちゃんをはさむのですよーっ」

「なっ、なっ、んなぁぁーっ?!」

「君ね……。毎度ながら悪意がないところが、なおさらたちが悪いよ……」


 ともかくやるべきことはやった。会話が落ち着くと俺たちは自宅に戻った。

 6人で7×7の広い家で暖炉を囲んだり、水のテーブルに腰掛けて語り明かしたり、楽しい夜を過ごした。


「ま、待てっ、無理じゃっ、絶対に寝れん! ノアの隣は無理じゃっ!」

「ピオニーはここを譲りませんよー? 諦めて、真ん中に寝るですよ、クラウちゃんっ♪」


 眠くなったと言って男ドワーフたちが家に帰った。

 そしてピオニーがベッドの左端を真っ先に占領すると、俺とクラウジヤは、お互いに強烈に意識せざるを得なくなった……。


「ピオニーは俺と一緒に君を囲みたいだけだよ」

「ふふふー、ノアちゃんはわかってますねー」


「まあね」

「ワ、ワシなんかを囲んで何が楽しいのじゃ……。そ、そなたは、平気なのか……?」


「平気なわけがないでしょ。自分と同じ背丈をした美人さんが自分の隣で寝てくれるなんて、それが男として嬉しくないわけ――あ、いや、やっぱりナシ。今のは撤回する」

「美人……? そなたからワシは、美人に見えるのか……?」


 賞賛をお世辞と思わないところに彼女の素直さを感じた。

 半分は驚き、もう半分は喜びを隠しきれない純朴なその表情に、嘘だらけの貴族の世界で生きてきた俺は好感を覚えた。


「うっかり言葉が出てきただけなんだ」

「つまりー、お世辞じゃないぜー! ってことなんですねー♪」


「君のせいで事態がこんがらがってるのに余計なことを言わないでよ……」

「だってだってー、クラウちゃんがかわいくて!」


 あえて言葉を繰り返そう。悪意がない分、メチャクチャたちが悪い……。


「かく言う、ワ、ワシの目からも……ノアが、長身の立派な美形に見える……。ドワーフの感覚じゃが……そう見えるぞ……」

「それ本当?」


「うん……」


 それはつまり俺を男として見ているということで、それこそ立派な失言ではないだろうか。

 しかも不覚にも俺は、長身で立派と言われたことに喜びを覚えてしまっている。


「ふんすふんすっ」

「ベッドが足りぬのじゃ、仕方なかろう……」


 ピオニーがポンポンとベッドを叩くと、クラウジヤがついに観念して真ん中に寝転がった。


「ノアちゃんもくるですよー。クラウちゃん、おっぱい、やーらかいのですよー?」

「んなぁぁーっっ?! そ、そそそっ、そういうことを言うなこのバカ者ーッッ……!」

「ベッド、早く増やさないとヤバいな……」


 真っ赤に染まったクラウジヤをピオニーと囲んでベッドに寝そべった。

 クラウジヤがあまりに動揺するので、反対にこっちは羞恥心が薄れてきた。


「明日もがんばりましょうね、ノアちゃん、クラウちゃん」

「うん、がんばろう」

「無理じゃ……絶対、無理じゃ……。こ、こんな、こんなの寝れん、寝れるわけがない……。ぅ、ぅぅ~~……」


 クラウジヤには悪いけど、今日は昼寝をしなかったのでその先はぐっすりだった。


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