・開拓6日目 分厚く大きな土の家の内装作り - 煙突と夕飯の香り -
「ノア……どこに行っておったのじゃ……」
「クラフトでフォークと皿を作った。それをドワーフのみんなの家にも置いてきたんだよ」
「皿じゃと……? そなたの力は何でも――んなぁっ、は、白磁じゃとぉっっ?!!」
「ふぁぁ……なんですかー? せっかく、気持ちよく寝てたですよー……?」
「見よっ、白磁じゃっ、白磁じゃっ!」
「はくじー? ほ、ほわぁぁーっ、ちょっと寝てたらピカピカのお皿ができてるですっ!?」
こいつら結構寝起きがいいなと思いながら、俺は入り口側の壁に寄った。
暖炉を作るならばこの辺りがいいだろう。石材を取り出して、それを半分に割って、それでキューブ1つ分の燃焼スペースを囲った。
少し不格好かもしれないけれど、これで下の部分は完成だ。
後はその上に煙突を作ってゆけば、煙を家の外に逃がすことができる。火力を上げても煙くないってことだ。
80×40cmキューブを使って、天井まで続く煙突を作っていった。
「それはもしや暖炉じゃな!?」
「あっあっ、よく見たらお外がもう夕方です! ドワーフちゃんたちが帰ってくる前にご飯、作らないといけないですよ!」
「今日はクラウジヤに任せてみたら?」
「嫌じゃ。ワシのよりピオニーの料理の方が美味いのに、なぜわざわざ晩飯を貧相にせねばならん」
「普通の見た目の晩御飯に飢えているからに決まっているよ」
「ならノア、そなたが自分で作れ」
「料理なんてしたことないよ」
「だったら諦めるのじゃな」
「そうですよー、諦めて私のドット絵料理を食らうがいいですよ」
たまには普通の見た目の食事をしたいと思って何が悪い。
あのカクカクした正方形の塊でできた料理が、下手な美食よりもよっぽど美味しいからこっちは困っているのに。
「わかった、自分で料理するくらいなら諦めるよ」
「なんじゃその結論は……」
「俺が作ったら見た目も味も酷くなるに決まってるよ」
「どういう後ろ向きの自信じゃ!」
「じゃ、ちょっとそこの天井の先に煙突を建ててくるよ」
「煙突! いいですねっ、そういうのあると、私も楽しいと思いますっ!」
話を打ち切る形でピオニーに笑い返すと、俺は裏の階段から屋根の上に上った。
クラウジヤは水の蒸留があったことを思い出したようで、蒸留装置に石炭をくべたり、水を入れ替えたりしていた。
まず暖炉の真上にあるキューブを取り外した。
それを半分に割って、片方を戻すと80×40cmの穴が残った。後は下の暖炉と同じ要領で、ハーフサイズのキューブを組み合わせて煙突を伸ばしていった。
キューブを4段積み重ねると、少し不格好ではあるけれど『石の暖炉と煙突(間に合わせ)』が完成した。
「うむ、これはなかなかカッコイイではないか!」
「わぁぁーっ、高い高い煙突さんですねー!」
クラウジヤは壷にたまった蒸留水を手に、高くそそり立つ煙突を見上げていた。
ピオニーの方は畑から収穫してきたのか、トマトとえんどう豆を両手に抱えている。
「ようやく家らしくなってきたって感じだね」
「ノアちゃんノアちゃんっ、早速ですけど、この暖炉でご飯作ってもいいですかっ!?」
「もちろんいいよ、どれだけ分煙できるかテストもしたいし」
「やったーっ、待ってて下さいね、ノアちゃん!」
「くふふ、今夜の夕飯は美味くなりそうじゃのぅ……」
しかしこうして一仕事終えてみると、やることがなくなってしまった。
この状況で2階の建築に入るとピオニーがブーブーと騒ぐことくらい見えている。そこで俺はインベントリを開いて、夕飯までの間に何か他にできることはないかと考えた。
「ノアちゃーんっ、火点けてみましたけどー、煙突さんはどうですかー?」
家の中からピオニーの声が響いた。
「ん、ああ、うっすらと煙が上がっているよ」
「ノアの言葉を借りるようじゃが、いかにも文化的じゃな……」
「うん、よくわかるよ。煙突から煙が上がるのを見るだけで、こんなに嬉しい気持ちになるなんて、今日までずっと知らなかった」
「わぁぁ、本当に煙がお空に上がってます、これ、素敵ですね……っ。ずっと、こうして見ていたいくらい……」
「料理が焦げるよ」
天井から飛び降りて、代わりに暖炉の前に立った。
ハムとレンコンとエンドウ豆のスープだろうか。大きな壷の中でドット絵化したハムとレンコンらしき物体が泳いでいた。
「ノアちゃん、今日はお魚も付けましょう」
「……魚だけでも、クラウジヤに焼いてもらわない?」
「嫌じゃ、ワシはドット絵化した焼き魚を見たい」
「なら――ならそうだな、1つ提案があるのだけど」
家の中にクラウジヤを手招くと、ピオニーも一緒に付いてきた。
「この床、そろそろ石材に変えて、その上に綿織物を敷くっていうのはどう?」
「おおーっ、ノアちゃん、そのために織物いっぱい買ったでしたかっ」
「ダメかな?」
「いいですよ。もし気に入らなかったら、ノアちゃんの置き換えの力で、ブワーーッて戻しちゃえばいいことですよ」
「土の方がワシは落ち着くのじゃが、織物を敷いた床も捨てがたいな。ブワァーッというのはよくわからんが、やってみせてくれ!」
「なら決まりだね。クラウジヤはこの布を敷いて。ピオニーは引き続き料理をお願い」
「あいあいさーっ」
「なっ……!? これだけの量の布を、どこで手に入れたのじゃ、ノア……」
「ポート・ダーナで買ったんだ。それじゃ、床を石に変えるね」
「変える……? 床を掘って石材を敷き直すのでは――んなぁぁっっ?!!」
オブジェクト置き換えの力で、床に触れては3×3を石材に変えて歩いた。
クラウジヤはよっぽどそれが驚いたのか、固まったまま目を見開いて俺を見ている。
「ビックリするですよね……。触られたら石にされちゃうかもって、普通は思うですよね……」
「ち、違うのか……?」
「効果対象は、既にキューブ化した物だけみたい。さ、次は敷物だ。床に並べていこう」
・
必要のない部分は生地を切断して、部屋中の床に織物を敷き詰めた。
白い綿織物が床いっぱいに広がると、土の上に座って石炭を囲んでいたあの頃とは別物の光景になった。
「お部屋、かわいくなったですね!」
「こうなるとソファとかも欲しくなるね。……レシピなんてないけど」
「ワシは土のままでも別によかったが、これはこれでかわいくて住み良いのじゃ」
「そういう割に、メチャメチャ嬉しそうな顔だけど?」
「気のせいじゃ」
暖炉の炎が部屋を薄暗く照らし、スープのいい匂いが家の中に充満している。
石炭の煙でいつもは煙かったけれど、今日は空気が美味しい。
その中で何よりも温かく感じたのは、ピオニーとクラウジヤの笑顔だった。
広く立派になった我が家の姿に、幸せと希望が広がってゆく感覚を俺たちは共有した。
「2階や井戸は明日にお預けかな」
人をダメにする魔法のテーブルとイスに腰掛けると、半強制的な休息が取れる。
料理をするピオニーと、几帳面に敷物の調整をするクラウジヤと言葉を交わしながら、夕食の完成を待った。
・
それから少しすると、そこにドワーフたちが戻ってきた。
「素材、ミツカッタ!」
「ノア、タダイマ! ノアノタメニ、オレ、ガンバッタ!」
「チガウ! オレハ、モットガンバッタ! コイツ、ウソツキ!」
「ミョゴッ、ミョゴミョゴッッ!!」
「ゴニョッ?! ミョゴッ、ミョゴォーッッ! ノア、気ヲ付ケロ、コイツ、オマエ、狙ッテル!」
「逆! オマエガ、ノア、狙ッテル!」
彼らに手を振って家に招くと、若干の動揺のともなう口論が始まっていた……。
「いいないいなー、ノアちゃんいいなー。ドワーフちゃんたちに、モテモテですねー」
「俺はホモじゃない……」
「ふふふ、安心せよ。こやつらはそなたを、イイ女として見てしまっているだけで、厳密な意味ではホモではないのじゃ」
そんなのは詭弁だ。
仮にそうだとしても、こいつらは厳密ではない意味でのホモだろう……。
「俺は男だって、女なんかじゃないよ……。お願いだから信じてよ……」
「チガウ……。コンナニ、カワイイ、男、イルハズナイ!」
「ヒゲナイヤツ、女! ヒゲナイ、ノア、女!」
この場でズボンを下ろしてやろうかと軽率な衝動に駆られたけれど、元貴族のプライドが下品なことはするなと俺を引き止めた。
「いいこと思い付きましたよー。ノアちゃんが、おひげを生やせばいいですよー」
「それができたらそうしているよ……」
クラウジヤが同情するように俺の肩に手を置いた。
「体毛を気にせずに済むとは、なんと羨ましすぎる体質なのじゃ……」
いや、それは羨望の方だった。
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【ドワーフ採集隊の本日の成果】
木材 ×1
繊維 ×1
草 ×21
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これだけあれば草のベッドが作れる。
がんばってくれた彼らのために、ベッドを作ってあげることにしよう。
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荒野の土 ×69 /9999999
石材 ×123 /9999999
→ ×110(煙突建設に)
石炭 ×20 /9999999
ミミズ ×40 /9999
芋(野生種) ×41 /9999
木綿生地 ×49 /9999
→ ×45(自宅の床に)
ハム ×48 /9999
→ ×47(食事に)
干し魚 ×50 /9999
→ ×49(食事に)
??????の魂 ×1 /?
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【倉庫・石の倉庫】容量:75キューブ
木材 ×2 /9999999
→ ×3
繊維 ×31 /9999999
→ ×32
アイアンインゴット ×99 /9999
小麦粉 ×200/9999
砂糖 ×50 /9999
精製塩 ×49 /9999
オリーブ油 ×22 /9999
草 ×21 /9999 new!
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