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・開拓1日目 美少女ドット絵生物ピオニー

「あれっ、なんだ、壊せないぞ……?」


 ところがあるタイミングを境に、急に土を崩せなくなってクワが地面に跳ね返された。

 さっきの光るガラス板――パネルはどこに消えたのだろう。そう心に思い描くと、パネルは既に俺の目の前に浮かんでいた。


――――――――――――――――――――――

 荒野の土 ×191 /9999999

 砂利石  ×14  /9999999

 錆鉄   ×10  /9999999 new!

 銅鉱石  ×8   /9999999 new!

 武具の破片      ×41 /9999 new!

 ジャガイモ(野生種) ×19 /9999

 ミミズ        ×103/9999 new!

 モグラ        ×4  /9999 new!

 ??????の魂 ×1 /?

 ????の破片 ×1 /? new!


〈警告:インベントリがいっぱいです。〉


――――――――――――――――――――――


 どうやらこのリストはインベントリという名前で、そこには10種類までしか入らないらしい。土や鉱物なら1種類あたり1000万近くも持てるというのに、妙に融通が利かないシステムだ。


「なら何かを捨てればいいのか? げっ、ミミズが100匹……お、俺の、中に……? モ、モグラまでいるぞ!?」


 モグラは明確な害獣なので駆除するとして、ミミズ、ミミズを100匹もこの手から出すのは生理的にこう、無意識に指先が震えてしまうほどに恐ろしい……。


 しかしこの『??????の魂』というのはなんだ?

 知らないうちに『????の破片』というのも増えているな……。


「……よくわからないし捨てるか」


 パネルに手を伸ばして、俺は邪魔なゴミアイテムを取り出そうとした。

 だが困った、何度試しても一向に出てこない。


――――――――――――――――――――――

〈警告:それを捨てるなんてとんでもない!〉

〈警告:それを捨てるなんてとんでもない!〉

〈警告:それを捨てるなんてとんでもない!〉

〈警告:しつこい、諦めろ!〉

――――――――――――――――――――――


 どうやらこのゴミアイテムは捨てられないそうだった……。


「いやなぜ……? 出せる物と出せない物の基準がわからない……。はっ?!」


 そこで最悪の可能性に気付いた。


「ま、まさか、ミミズまでこのまま出せないなんてことはないよな?!」


 力を使えば使うほどに芋と引き替えに、ミミズやモグラが俺の中にたまっていくとするならば、きぼぢ悪いのでこんなもう力使いとうない!!


 俺はパネルを素早く操作してミミズの項目を選び、使い方も覚えてきたので取り出す個数を最大数103匹にして『お願いします、俺の中から出て行って下さいミミズさん!』と祈った。


「ウ、ウオァァァーッッ?!!」


 よかった、ミミズはちゃんと捨てられた……。

 手のひらから滝のように103匹のミミズがゾゾゾゾゾ……と束となって流れ落ちるその感触は、俺の背筋を凍り付かせた。


「うっ、ううっ、手がグチャグチャ……ヤ、ヤバい、ちょっと今、ガチで泣きそう……」


 ミミズさんをキャッチアンドリリースしたおぞましい現場から逃げるように離れて、俺は腹いせと検証に目の前の岩へとクワを振った。

 すると岩まで光となって俺の中に消えていた。


――――――――――――――――――――

〈累計11種類のアイテム収集を確認。〉

〈加護・ビルド&クラフトがランク2に成長しました。〉

〈以下のクラフトが開放されました。〉


・畑レベル1

  材料

   土   × 16

   ミミズ × 20


・バラック小屋

  材料

   木材  × 30

   石材  × 20

   繊維  × 10


・特別な村人

   土   × 50

   芋   ×  5

   ????の破片 × 1


・標準的な村人

   土   × 50

   宝石  ×  1

――――――――――――――――――――


 さらにはパネルが独りでに現れて、クラフトとやらを紹介してくれた。

 隠された条件を達成するとランクが上がり、機能が増えるということなのだろうか。


「クラフトってなんだ? せっかくのミミズ、全部捨てちゃったぞ……。あれ、回収するのもやだなぁ……」


 脱力気味にパネルを操作した。

 これは触れたまま手を上に滑らせれば画面が下に移動して、その逆ならば上に戻るらしい。


 試しに特別な村人の項目を見れば、土、芋、????の破片の表記の下に、これみよがしなスロットが配置されている。


 その四角いスロットに振れてみると、なんとインベントリの中身が自動でそこに補充された。


「なんて複雑な……。これのどこが戦闘系の加護なんだ……」


 全ての指定素材をこのスロットに入れてみると、その下にOKボタンが現れた。


 貴重な芋を5つも消費することになるけれど、こうもヒントが少なくては試行錯誤してみないことには何もわからない。一思いにOKを押してみた。


「う、うわっ?!」


 すると俺の手のひらから荒野の土が、芋が、宝石のような赤い何かが凄まじい勢いで飛び出した。


 それらが俺の目前で渦巻きながら黒い影に変わってゆき、ゆらゆらと揺れて人の形をとった。さらにはまたたく間に色合いを持ってゆき――


「え、女の子……?」


 それが赤い頭巾をかぶった人間の女の子に変わった。

 クラフト・特別な村人とは、まさかの人間を作り出す力だった。


 髪は淡い薄桃色。背は小柄な俺よりも頭1つ分も大きくて、肌は白く透き通るように光を受けて輝いている。


 ゆっくりと開かれたその瞳はエメラルドのように美しい碧眼だ。それは見れば見るほどに可憐な女の子だった。いや、ところが――


「な、なんじゃ君っっ?!!」


 見とれていると美少女が消えた。ポンッと白い煙が上がってそれが彼女を包み込むと、あんなにもかわいかった女の子が、意味の分からない物体に変わっていた……。


「ふぅ、狭かったーっ」


 それは直立する紙か何かだ……。世にも奇妙な姿をした、人ならざる平面生物がそこに現れていた……。


「……えへへ、聞いちゃいますか、それー?」

「こ、この紙、喋るぞ……」


 紙が喋った……。紙は甘ったるくてかわいらしい声をしていた。


「紙じゃないよーっ」

「じゃあなんだよ……」


「ふふふ、聞いてくれますかっ、私はなんとーっ! ドット絵ちゃんなのですっ、ふんすっふんすっ!」

「ドット……? ああなんだ驚いた、つまりただの動く点画か……」


「はいそうなんですよーっ、私はただの、動く点画ちゃんなのでーすっ!」

「ほー、そうか……それは珍しい」


 俺は書き割りのように垂直にそそり立つ変な紙から目をそらして、辺りを見回した。


「あれーっ、何かお探しですかー?」

「うん、ちょっと火種が欲しくて」


「あ、わかりました! さっきのお芋を焼くんですねー!」

「いや違う、君」


「へ?」

「君を焼き払う火を起こすの手伝ってくれない?」


 ここで孤独に夜を明かすのが怖いとはいえ、俺は存在してはならないものを生み出してしまった。

 これはきっとモンスターのたぐいだ。騒ぎになる前にしっかりと焼いておこう。


「えーーーーっっ?! ち、違いますよぉーっ、私、悪いドット絵じゃないよぉーっ!」

「悪い点画はみんなそう言うんだ。いいから、君を焼く薪を集めるのを手伝ってよ」


「お前じゃないですっ、私はピオニーです! 焼いたら熱いじゃないですか、可哀想じゃないですかっ! 止めましょうよー、そんなことーっ!」

「俺はノア。ノア・ウィンザーラッドだ。……不覚にも焼いたら可哀想な気がしてきたところだけど……けど、やっぱり焼き払うべきだろうね」


「ギャーッ、お役に立ちますからお願いしますっ! おトイレ掃除でもなんでもしますから焼かないで下さい、ノアちゃん!」

「君……。さも当然のように人をちゃん付けしてきたな……」


 なんて馴れ馴れしい紙だ。吹き飛ばしてやろうかと息を吹きかけてもその紙はなびきもしない。

  

「ふんすっふんすっ、私のことはピーちゃんって読んで下さいね!」

「君なんかオッちゃんで十分だ」


「わーいっ、じゃあ、私はノアちゃんをノアちゃんって呼びますねー♪ ノアちゃん、これから末永くお付き合いして下さい♪」


 嫌味が通用しない上にマイペース過ぎる……。

 これが特別な村人? 特別に変な村人の間違いだろう。いや紙である時点で村()ですらない……。


 なぜ俺はこんな変なやつに懐かれてしまっているのだろうか。

 声だけはかわいいが、姿は印象画をも超越する自立式の生けるミステリーだ……。


「なんか、急に頭が痛くなってきた……」

「えーっ、大丈夫ですかー!?」


 動く自称ドット絵ピオニーは、なんというか遠近感が全くないというか、見ているだけで頭痛を誘発する何かがあった。


 あんなにも綺麗だった桃色のショートカット、碧眼、白い肌は、今やただの正四角形の集合体だ。


「ごめん、ちょっと離れて……。ピオニーを見てたら、なんかクラクラしてきた……」

「はっ?! も、もしや、それは――一目惚れ!!」


「それは絶対に違う」


 しかしこうして話してみると明るくて面白いやつだ。


 歩く絵という時点で、ほとんどもうお化けのたぐいと変わらないような気もするが、お化けにしてはあまりに人間らしいというか、ぶっちゃけ超アホっぽい。


「またまたー、照れなくてもいいじゃないですかー♪」

「この世のどこに、紙に恋をする人間がいるんだよ……」


「わぁ、なんだかそういうのロマンチックですね!」

「ホント人の話聞かねーやつだな、君……」


 自称ドット絵は目を星のように輝かせた。

 ……怖ろしく変なやつだが、どうも無害そうだ。こんなでも荒野で夜を明かす話し相手にはなる。


 俺はピオニーを焼くのを止めて、特別な村()として協力を願い出た。


「それはそうとお願いがあるんだけどいいかな?」

「どうぞどうぞ! ノアちゃんのためなら私、火の上だって歩いて見せますよーっ!」


「いや、君がやったら燃えるだろそれ……。じゃなくて、今から家を建てるのを手伝ってくれないか?」

「うんっ、もちろんいいよーっ!」


 即答だ。ピオニーは明るくていいやつだった。

 見ていると遠近感が狂って、目がショボショボしてくる一点をのぞけばな……。


 いや、もしかしたらコイツ、紙ではないのかもしれない……。

 ピオニーは風になびきもしなければ、折れ曲がったりもしない。常に垂直を保つ不思議な存在だった。


――――――――――――――――――――――

 荒野の土 ×141 /9999999

 砂利石  ×14  /9999999

 錆鉄   ×10  /9999999

 銅鉱石  ×8   /9999999

 武具の破片      ×41 /9999

 ジャガイモ(野生種) ×19 /9999

 モグラ        ×4  /9999

 ??????の魂 ×1 /?

――――――――――――――――――――――


【恐縮なお願い】

 もし少しでも

 「楽しい!」

 「続きはよ!」

 「マイクラやってみたい!」


 と感じて下さったのならば、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】を押していただけると嬉しいです。どうかよろしくお願いします。

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