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・開拓6日目 憧れは二階建て

 腹も膨れて話もまとまったので、俺たちはそれぞれの持ち場に戻ることになった。


「いってらっしゃい、ワニには気を付けてね」

「ワニじゃと? わははっ、もし見かけたら倒して肉と皮を剥いできてやろう!」

「はわわ……あ、あれを、やっつけちゃうですか……。クラウちゃん、しゅごひ……」


「君ならわけないだろうね。頼りになるよ」

「ふんっ、頼りじゃと? 昨晩あれだけワシをやり込めておいて、よく言う……。貴様のせいでこっちは自信を失いかけたぞ……」


 クラウジヤは口を尖らせて抗議した。


「ごめん」

「ワシを負かせたくせに謝るのは禁止じゃ!」


 相手の武装を問答無用で奪い取るこの能力は、対人においてはイカサマも同然だろう。

 不思議なのはなぜバグって使いこなせなかった加護を、新大陸にきた途端に使いこなせるようになったのかという不可解な部分だ。


「だけど素手同士だったら負けていたよ」

「うむ、ならば今度は素手でやりあおう!」


「負けるとわかってるのにやるわけがないでしょ……」

「負けて悔しいワシを勝たせてくれ」


「やだよ」

「クラウジヤ、ゴニョ、ゴニョニョ……」


 ところが出発前にそんな無駄話をしていると、ドワーフの1人がクラウジヤに何かを言い始めた。


「む……? ゴニョ、ゴニョニョ?」

「ニョゴッ、ゴニョゴニョ……ッ!」


「なんじゃ細かいやつじゃな……。おいノア、こやつが採集のついでに地図を描くと言っておるぞ?」

「わっわっ、地図ですかっ!? はいはいはいっ、私ドワーフちゃんの地図見てみたいですっ、ぜひ作りましょう!」


 地図。その発想はまだなかった。

 確かにこうして役割を分けてゆく以上、地図による情報共有は必要不可欠と言ってもいい。


 何せこの辺りの地形といったらどこもかしこも荒野ばかりで、目印らしい目印がない。遠征先からこの開拓地に戻るだけでも一苦労だ。


「ニョゴォ、ニョ……ニョゴォ……」

「『ペンは石炭で間に合わせる。紙の代わりになる物が欲しい』と言っているぞ」

「えとえと……だったらノアちゃんが半分に切り出した石、持ってくとか……?」


 それはまたなんてパワフルな地図だろうか。もちろんそんな案は却下だ。


「メモ帳とペンでもいいなら、俺が使ってたのがあるよ」

「ニョゴッ!?」


「ちょっと待ってて、そこの倉庫から取ってくるよ」

「ノアちゃんでかしたのです! むふふ、ドワーフの地図……。はぁっ、いいですねいいですねー♪」


「そうかもね。ドワーフの地図というのは、なかなかに悪くない響きかも」


 倉庫から万年筆とメモ帳を取り出して、それを嬉しそうに駆け寄ってきたドワーフの男に手渡した。

 するとすぐに彼は仲間に取り囲まれて、製紙された薄く頑丈な紙と、インクを内蔵したペンを持つ人気者になった。



 ・



 俺たちの午後の仕事は我が家の増築と、そのための建材集めだ。


「さて、まずはピオニーの意見を聞きたいんだけど」

「よろしい、このピオニーが聞いてあげましょう」


 増築については既に大まかな構想があるのだけど、ピオニーの意見も取り入れたい。

 だってそっちの方が楽しいに決まっているからだ。


「普通に増築するだけじゃ、つまらないと思うんだ」

「ほぅほぅ、そうですかー?」


「そうだよ。せっかくこんなぶっ飛んだ加護なんだから、俺たちもそれだけぶっ飛ばないと」

「でもでも、蓮のお池を当たり前みたいにあそこに移しちゃった時点で、十分にぶっ飛んでる気がするですよー?」


「うん、あれには驚いたね。もしかしたら海だってここに移植できてしまうのかも」

「わーいっ、もしそうだったら、お魚さんがいっぱい釣れますねっ!」


 食い気優先のところがピオニーらしいな。彼女は両手を上げて喜んだ。


「それでどんな家に住みたいか希望はある?」

「2階が欲しいです!」


「それは俺も考えたけど、2階の用途は?」

「何言ってるですかー? そんなの、後で考えればいいことですよー?」


 後でって……さすがはピオニーだ。俺が踏み留まってしまったところを平然と突き進む。

 無計画ではあるけれど、あそこに2階を建てたら屋上からの見晴らしが最高だろうな。


「で、他には?」

「お水でもいいですから、お風呂が欲しいです!」


「いいね、それも欲しい。だけどもし作るなら、俺は公共風呂とかの方がいいかな」

「こうきょ……なんですか、それ……?」


「みんなで入れる大きなお風呂だよ」

「みんなで入るですか!?」


「公共風呂なんだから当然だよ」

「わぁぁーっ……いいですねっいいですねっ! 私、クラウちゃんと一緒に入ってみたいです! ……だって、あの下が具体的にどうなってるか、一度見てみないといけないのです」


「いや、そういうことを言われても、反応に困る……」


 ともあれ、将来これだけは作るリストに公共風呂も追加だ。

 この土地の水資源の貧弱さからして、いつ叶う夢なのやらわからないけれど、風呂好きとしてはなんとしても実現したい。


「でも……」

「うん、現状はお風呂に回す水がないのが問題だよね」


「そうじゃなくてですね、ノアちゃん……。ドワーフのおじさんたちと一緒に入って、大丈夫ですかー?」

「なんで?」


「ノアちゃん、女の子だとまだ疑われてますよ……?」

「だったらそこは男だと見せつけるチャンスだと思うよ」


「おぉ……ノアちゃん、大胆ですね、大胆……」

「それよりもう要望は打ち止めかな?」


「あっ、まだあります! 暖炉っ、暖炉が欲しいですっ!」

「暖炉か。いいね、いかにも文化的だ」


 今までは地べたに石炭を置いて、それを夜の暖房や明かりにしていた。

 だけどそれでは火が目の前にあって危ないし、床だって黒く汚れてあまりよくない。


「じゃあやることは3つだね。居住空間の拡張と、石の暖炉の設置。そしてその上に見晴らしのいい2階を作る!」

「はいっ、夢がいっぱいですね! さーっ、午後もがんばりましょうか、ノアちゃん!」


「うん、がんばろうね、ピオニー」


 ふいに思った。全てはこの笑顔のせいなのだと。

 貴族として何不自由ない生活をしてきた俺が、こんな土地で不自由ばかりの生活をしているというのに、今日まで自分のことを惨めだと感じたことは1度もない。


 きっとそれは彼女が笑ってくれるからだ。

 ちょっとした物を作るだけで、ピオニーはいつだって大げさなくらいに喜んでくれた。


「ふんすふんすっ、さあ行きますよ! まずは石を集めちゃいましょう!」

「ついでに綺麗な宝石が見つかるかもしれないしね」


「ノアちゃんはキラキラに目がないですねー」

「宝石好きに男も女も関係ないよ」


「ふふふー♪」


 そんなことは言ってないと、ピオニーに笑われてしまった。

 先走った早足で右に左に蛇行するその姿は、愛らしい反面やはりどうにも平面的で、世界から浮いているような奇妙な光景だった……。


――――――――――――――――――――――

 荒野の土   ×38  /9999999

 石材     ×3   /9999999

 砂利     ×12  /9999999

      → ×0(ドワーフの家の軒先に)

 銅鉱石    ×3   /9999999

 ミミズ        ×35 /9999

 芋(野生種)     ×34 /9999

 木綿生地       ×50 /9999

 ハム         ×48 /9999

 干し魚        ×50 /9999

 ??????の魂   ×1  /?

――――――――――――――――――――――


 仲間と交代でこちらに残った男ドワーフと会った。

 彼は玉石などの形のいい石をより分けて、砂利道を作ってくれるそうだ。


コミカライズ版「超天才錬金術師1巻」が15日に発売します。

もし書店で見かけたら手にとって見て下さい。キャラが生き生きと可愛く描かれています!


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