・開拓6日目 ドワッ、ドワーフ男だけの土の家 - 百合って、なんですかー? -
男ドワーフの家は、13×13×3の構造にしよう。
平たく住みよい床になるように地面を削って、その上にキューブ化した荒野の土を敷き詰め直すことにした。
「ねぇねぇ、ノアちゃん? なんでわざわざこんなことするです?」
「家を建てた後、地面に何か問題があったら困るでしょ。例えば、底に空洞があったりとか」
「ほへー……空洞、あるですか? それ、ダメですか?」
「うん、そこに水や土砂が流れ込むと、家が傾いちゃったりするんだよ」
それに土台を作っておけば水はけもいいし、洪水対策にもなる。おまけに家が少し高くなって見晴らしまでよくなる。
「ノアちゃんは頭いいですねー」
「素直にそう思えるところが、ピオニーのいいところだよ。……けど、真後ろに土をどんどん配置するのは止めて、怖い」
「だってだってー、こうしなきゃ近くでお喋りできませんよー?」
「お喋りより仕事に集中してよ……」
作業は倉庫の床を作ったときと同じだ。
俺が掘った陥没の中でツルハシを振るって、ピオニーがキューブ化した荒野の土で大地を埋め直す。
それを真横でやられたら、うっかりで埋めら立てれてしまいかねない……。
今回の土台造りは広く場所を取って、15×15の範囲を整地した。
「ぷはぁっ……喋らないでいるのって、大変ですね……。ゼェゼェ……」
「呼吸まで止める必要はなかったと思うけど……」
「そうなのですか? だけど空気を吸うと、ピオニーは言葉が自然と出てくるです……」
「んなわけないでしょ。バカなこと言ってないで、次の工程に入るよ」
「はいです! はぁ~っ、ノアちゃんとお喋りできるって幸せです!」
「ブレないね、ピオニーは」
笑顔いっぱいのピオニーに見つめられながら、俺はコの字になるように荒野の土を1段だけ並べていった。
1片はキューブ13個。これがドワーフの家の外壁だ。
「あっ、わかったですよっ。その上にピオニーが土を乗せてくですね!」
「ときどき、君が俺の心を読んでるんじゃないかって疑うことがあるよ。……それでよろしく」
「お任せあれ、将軍!」
「将軍? なんの話?」
「えーーーっっ?! さっきの話ですよーっ!?」
「ああ……。ピオニー隊長」
「はい、なんでありましょうか、ノアちゃん将軍!」
「このノリ、まだ続いてたんだね……」
外壁をピオニーにお願いして、続けて俺は内側の壁をキューブで描いた。
個室の容積が3×3になるように、キューブを2段に並べて、出入り口となる部分だけを残す。
内壁に80cmなんて非常識な分厚さは不要なので、荒野の土を1/2に割ってはそれを並べていった。
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■ 個 ■ 個 倉 ■
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■ ■ ■
■ 個 ■
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■ 居 間 ■■■■■
■ ■ ■
■ 個 ■
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こんな感じに並べてゆく。□は内側が完成してから外壁にする予定だ。
「おおーっ、お部屋です、お部屋が5つもありますね!」
「あ、うん。でも別にピオニーが住むわけじゃないのにそんな――」
「何言ってるですかっ、ちっちゃいドワーフちゃんたちがここに住むですよっ!? 想像しただけでも楽しいですっ!」
「ああそう。それはまあわかるけど、手を先に動かそうよ」
「こっちはもう終わっちゃったです!」
「じゃあ、そっち側の外壁を作ってくれる?」
「お任せあれ! ふふふっ、お家造りは楽しいですねー、ノアちゃんっ!」
「砂場遊びの延長線って感じだけど、否定はしないよ」
「早く完成させて、早くドワーフちゃんたちに見せてあげたいですねっ」
「そこも同感かな。これはきっと喜ぶ」
ピオニーの不思議な話術に乗せられて、しばらく話していると最後のキューブをはめ込んでいた。
これで内側の壁は完成だ。振り返ればピオニーの手により外壁はもう完成していたので、後は屋根を仕上げるだけだった。
「今回は結構広いから手分けしない?」
「そうですね、さんせーです!」
外壁にそって1/2化させた土で階段を作り、壁の上に上った。
「そっち側はノアちゃん! こっちはピオニー! さあ競争ですよーっ!」
「競争はしない。人んちの屋根なんだから、そこはしっかりやろうよ」
「えーー……ノアちゃんのそういうとこ、つまんないです……」
「つまんなくて悪かったね。じゃお先に」
「へっ?! あっあっあっあーっ、ずるいっ、ノアちゃんそんなの汚いですよぉーっ?!!」
慎重に丁寧に素早く、俺たちは屋根をしいていった。
一辺が10mを超える建物はこれで初めてで、内部構造も複雑だ。それもあって完成時の達成感は思わず胸が熱くなるほどのものだった。
「ピオニーの勝ぃ~ん!」
「別に競った覚えはないよ」
「嘘です、嘘、嘘! ノアちゃん、後半本気でした! 追い抜かれるかとピオニーは冷や冷やでしたよっ!」
「さあ、それはどうかな」
抜けたりはしないだろうかと、キューブの上を1つずつ歩いてみた。
ピオニーも真似をしてくれたので、点検はすぐに終わった。歪みもきしみもしない完璧な強度だ。
「もし2階を作るなら居間に柱を立てた方がいいだろうけど、今のところはこんなものかな」
「ノアちゃんノアちゃんっ、みんなお昼を食べに帰ってきたみたいです! おーいっ、お家ができましたよーっ、おーいっっ!!」
ピオニーが大げさに両手を振って、結局待つのが我慢し切れなくなったみたいで駆けて行くのを、俺は屋根に腰掛けて見送った。
するとピオニーのテンションにあてられたのか、ドワーフたちが嬉しそうな叫び声をあげてこちらに駆けてきた。
「ノア、天才!」
「ノア、神様!」
「コレ、俺タチノ、家!? イ、良イノカ、ノアッ?!」
「凄イ! 中、部屋アル! 俺タチ、部屋!」
そんなテンションに俺までちょっと影響されてしまって、ついに子供みたいに得意げに屋根から飛び降りてしまった。
そう言われると作った自分も嬉しい。こんなに喜んでくれるとは思わなかった。
たかだか人のために家を建てただけで、こんな感動とやりがいが感じられるなんて、今までの俺は知らなかった。
「ワシは貴様を見誤っていたようじゃ……」
「というと?」
問い返すと、興奮気味のクラウジヤに両肩へと手を置かれてしまった。
「貴様は最高じゃ! 路頭に迷っていたワシらに、こんな立派な家を建ててくれるなんて……貴様は最高にいいやつじゃ! ありがとう、ノア!」
「クラウジヤ、君もなかなか大げさ――うわっ?!」
さらには感激のあまりに抱擁までされた。
ドーンッと突き出た彼女の胸が当たって、俺は生理的な興奮による赤面などの目立つ症状に困らされた。
「仲良しですね、仲良し♪」
「オオ、百合ダ……」
「尊イ……」
「惜シイ……コレデ、ノア、男ダッタラ……」
クラウジヤは抱擁を止めない。
こいつもピオニーと同じ感情で生きる人種で、この抱擁は感謝の感情表現なのだと、羞恥心混じりに俺は感じた。
「な、何言ってんの、君ら……。俺は最初から、男だっての……」
「ノアちゃん、ノアちゃん。百合って、なんですかー?」
「ピオニーは知らなくていいよ」
「えーーーっ?!」
こうしてドワーフの家が完成して、俺たちは興奮が冷めぬまま昼食を共にした。
・
パネルを操作して、ドワーフたちにクラフト画面を見せた。
倉庫で肉や魚を保存するために大きな壷がちょうど欲しかったので、彼らの前で荒野の土を『大きな壷』に変えて、取り出して見せた。
「おお、要するにあの畑は、この奇跡の力で作り出したということなのじゃな……!? なんと、凄まじい力じゃ……」
「へっへーんっ、これがノアちゃんの凄いところなのです!」
男ドワーフの方は飲み込みが少し悪かった。
しかしクラウジヤの言葉にやっと納得して、ワンテンポ遅れて――
「ニョゴッ?!」
「ニョゴニョゴニョゴニョゴッ?!」
「ゴニョォーッ?!」
ちょこまか動きながら、メチャメチャに驚いてくれた。
「まあそんなわけで、草、繊維、木。この辺りを見つけたら持ち帰ってくれると嬉しい。みんなもベッドが欲しいでしょ?」
それが3×3の部屋に入るかどうかはわからない。
レアではない通常版の『草のベッド』を1度クラフトしてみるしかないだろう。
「枯れ木とか、ちっちゃな枝とかでもいいみたいです。ノアちゃんの中に入ると、1つの塊になるみたいですよっ」
「ワカッタ! 集メル!」
「ノア、楽シイ女!」
「クラフト、クラフト!」
だから俺は男だと言っても、彼らはまるで聞かなかった。
「ヒゲ、ナイ、男ハ、女」
んなわけあるかよ……。
「もしかして、ノアちゃん……女の子だったですか……?」
「んなわけあるかっ!」
ああ……変な連中ばっかりだ……。
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荒野の土 ×409 /9999999
→ ×38(建築と整地に)
石材 ×3 /9999999
砂利 ×12 /9999999
銅鉱石 ×3 /9999999
魔獣の骨 ×1 /9999
→ ×0(畑の前に)
ミミズ ×35 /9999
芋(野生種) ×34 /9999
木綿生地 ×50 /9999
ハム ×48 /9999
干し魚 ×50 /9999
??????の魂 ×1 /?
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