・開拓6日目 ドワッ、ドワーフ男だけの土の家 - 13×13 -
「何から何まで奇妙な連中じゃな」
「それ、俺とピオニーのこと? そこはお互い様でしょ」
「はっはっはっ、何を言うのじゃ。動く絵と、なんでも出したり消したりする男とワシらが同列のわけがなかろう」
「……それはまあ、言われてみればそうかもね」
お腹もいっぱい。建築の方針も決まった。
昨晩決めた予定通りに、クラウジヤと男ドワーフ3名がここを離れて採集に出かけることになった。
「ではワシらは行く」
「そう、気を付けてね」
「ワシらは貴様に助けられた……。この恩は必ず返すつもりじゃ。だから、採集はワシらに任せよ」
「ありがとう、こちらこそ手伝ってくれて助かるよ」
残る男ドワーフ1名は、荒らした畑の掃除や世話、沼の水の蒸留をお願いした。
ドワーフたちが採集し、俺とピオニーが設備やアイテムを作る。あまり俺たちにフェアとは言えないけれど、今はこれでいい。
「それはこっちのセリフじゃ。ではな!」
「うん、いってらっしゃ――おっとっ」
出発する彼らに手を振ろうとすると、勘違いしたクラウジヤにハイタッチされた。
けどこれはこれで庶民らしくて憧れていたやつだ。こうしてやってみると悪くない。
俺はドワーフたちの背中を見送った。
「渡してきたですよ」
「ありがとう。こっちも建材集めに入ろうか」
「そうですけど……。クワ、ほんとにドワーフさんにあげちゃって、よかったですかー?」
「別に問題ないよ。必要になれば新しいクラフトから作れるし、今はこれがあるからね」
ポート・ダーナで買ったツルハシを取り出して見せた。
いかにも持ってみたそうな目だったのでピオニーに差し出すと、彼女は得意げにそれを肩に担いだ。
「そうでした、これがあったんでしたっ。へへへ、これはいいものですねー、意味もなく、あちこち掘りたくなりますねー♪」
「じゃあ俺たちも行こうか」
「はいっ、全軍全速前進です! ピオニーが隊長ですよ!」
「じゃあ俺は将軍ね」
「えーーーっ?!」
目的地は西の丘。ここから石切場との中間辺り。
あそこ一帯を削り取って、平たく整地しつつ建材である『荒野の土』を確保する。
「あ。でもノアちゃん、インベントリの整理、しなくていいですか?」
「もう済ませたよ」
「えーっ、いつの間に……!?」
「在庫の確認ついでに昨晩ね」
「ノアちゃん……。ちっちゃいのに、しっかりしてるです……」
「体格は関係ないでしょ」
「そうだけどそうじゃないんですよ! ちっちゃいのに偉いと思ったのですよ!」
「それ、全く褒め言葉になってないから」
いつだって黙ることのないピオニーとなんでもないことを話しながら、西の丘に向かった。
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アイアンインゴット ×100/9999
→ ×0(倉庫に)
木綿生地 ×50 /9999
小麦粉 ×200/9999
→ ×0(倉庫に)
ハム ×48 /9999
干し魚 ×50 /9999
砂糖 ×50 /9999
→ ×0(倉庫に)
精製塩 ×49 /9999
→ ×0(倉庫に)
オリーブ油 ×22 /9999
→ ×0(倉庫に)
ツルハシ ×1
→ ×0
??????の魂 ×1 /?
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【倉庫・石の倉庫】容量:75キューブ
木材 ×2 /9999999
繊維 ×31 /9999999
アイアンインゴット ×100/9999 new!
小麦粉 ×200/9999 new!
砂糖 ×50 /9999 new!
精製塩 ×49 /9999 new!
オリーブ油 ×22 /9999 new!
開拓物資 ×残り5、6日分
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これ以上は倉庫に入らなかった。しかし5枠も空いていればまあ問題ないだろう。
・
「しゅごいですねっ、さくさくですねっ! あっ、モグラさんが見つかったらピオニーに言うですよ?」
「そのセリフ、ここにきて4回目なの覚えてる……?」
「えっへんっ、正しくは5回目なのです! モグラさんが見つかったら言うですよ?」
「わかったよ……」
道具の重さが少し変わった程度で、何が変わるのかと人は思うかもしれない。
けれどこうやって繰り返し振り下ろす道具となると、数百グラムの重さの差がジワジワと作業に響いてくる。
もっと簡潔に言えば、これは楽だ! 楽ちんだった!
「ドワーフさんたちのお家、どんな家にしましょうかー?」
「そこは俺なりに考えてあるよ。低い家がいいって言ってたから、天井含めてキューブ3段の家にする」
「あっ、そうでした! いいですね、そういうちっちゃいお家もいいですね!」
「ピオニーの頭が天井に引っかかったりしてね」
「そ、そんなに大きくないですよ、私……っ!?」
「さあどうだろう。結構ギリギリに見えるけど」
天井の高さはキューブ2つ分、つまり160cmだ。
……男は男、女は女のドワーフの掟は、彼らの身長の差も理由にあるのかもしれない。
「それでも、ピオニーは無理矢理にでも入りますよ!」
「天井に頭ぶつけないようにね」
「はいです。でも楽しみですねっ、小さなお家楽しみですねっ!」
「そうだね。君がいつもそうやってはしゃいでくれるから――いや、やっぱり何でもない。天井が低い分、建材を節約できるから広く作ろう」
「もーっ、途中で言い掛けて止めるのはダメですよ、モヤモヤしますよっ、ちゃんと言うですよっ」
「やっぱり言わない。それより個室を4つ、物置を1つ、広い居間を1つって感じでどう?」
「おお、お部屋付きはいい考えですね!」
「だよね。だったらうちにも作る?」
「私のお部屋……?」
「そう、ピオニーの、ピオニーだけのプライベート空間」
「ううーん……。ピオニーはそういうの別にいらないです。あ、でももしノアちゃんがお部屋欲しいなら、ピオニーと一緒で全然いいですよ」
作業の手を止めて、汗を拭いながら午前の空を見上げた。
雲は薄くまばら、今日もカラカラで雨なんて降る気配もない。
「聞いてますか、ノアちゃん?」
「聞いてるよ。少し絶句してただけ」
「ぜっく? なんか驚くところとかあったですか?」
「まあ多少。けど確かに、独りで寝るのは寂しいね」
「そうですか、そうですよねっ。じゃあ、私がノアちゃんと一緒に寝てあげるです♪」
「ありがとう、助かるよ」
ますますピオニーが犬っぽく見えてきた。
俺はもう1度額から汗を拭うと正面にツルハシを振り下ろして、大地を光に変えて己の中に飲み込んでいった。
「ああそうそう、じわじわ芋が集まってるから言うけど、ピオニーのアップグレードはどうする?」
「へ……なんの話ですか?」
「昨晩レシピが追加されたみたい。クラフトの項目を見てみて」
「新しいレシピですか? えと……えーーーっっ?! お芋……50っ?!!」
「あ、そっちに驚くんだ……」
「こ、これは、これは悩みますね……。お芋50を引き替えに、私のパワーアップですか……。むぅぅぅ……」
「一応、俺のコレクションも消費するんだけど……?」
「はぁ……。せめてお芋の消費が半分で、宝石が2倍だったらよかったですね……」
「それに同意はできないかな。……で、ピオニーはどうしたい?」
お喋りなピオニーが黙り込んでしまったので、俺はこれ幸いと建材集めの方に熱中した。
掘れば掘るほど畑で使うミミズや、ピオニー強化に使える芋が集まってゆく。一振りが一石三鳥ともなると、それだけで楽しいものだ。
「やってみたいです……」
「わかった。じゃあ、今日からはポテトをメニューから抜こう」
「ふぐぅ……!?」
「俺だって貴重なコレクションを放出するんだ、お互い我慢しようよ」
「そうでしたね……ありがとうございます、ノアちゃん……。私も、断ポテト、堪え抜いて見せるです……」
「大げさだね」
「全然大げさじゃないですよっ、私は本気で苦悩してるですよっ!?」
「知ってる」
ピオニーと喋りながらひたすら丘を削り取った。
・
さてこんなものだろう。そう思いツルハシをインベントリに戻そうとすると、それがどうも入らなかった。
そこで持ってとツルハシをピオニーに差し出して、自分のインベントリを開く。
「終わりですか?」
「うん、必要数が集まった。建築に入ろう」
俺は削り取った丘から辺りを見回して、自分の仕事に満足した。
これでうちの家からの見晴らしがもう少しよくなりそうだ。
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荒野の土 ×409 /9999999 new!
石材 ×3 /9999999 new!
砂利 ×12 /9999999 new!
銅鉱石 ×3 /9999999 new!
魔獣の骨 ×1 /9999 new!
ミミズ ×35 /9999 new!
芋(野生種) ×34 /9999 new!
木綿生地 ×50 /9999
ハム ×48 /9999
干し魚 ×50 /9999
??????の魂 ×1 /?
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ん、魔獣の骨……? なんでこんな物がうちの領地に……。
こんなもの持ち帰っても仕方がないので、インベントリを操作して捨てた。
「ピェェーッッ?!!」
「ははは、こりゃ驚いた……。けどいくらなんでも、これデカ過ぎないか……?」
するとそこに現れたのは、キューブ1つ分はあろう巨大な頭蓋骨だった……。
熊か何かだろうかと、空想の中で逆算してみると体長4,5mはありそうだ。
ならばと予定を変えて、その魔獣の骨は獣除けとして持ち帰ることにした。




