・開拓5日目(夜) ドワーフの掟(ガバガバ)
疲れていたのか、翌朝目覚めるとベッドに残っていたのは俺だけだった。
分厚い土の家を出ると既に食事が完成していて、畑に水がまかれ、不思議に思って確かめるとインベントリから食材が少し消えていた。
「セキュリティって、なんだっけ……」
「大丈夫ですよー。勝手にノアちゃんから出したり入れたりできるのは、ピオニーだけみたいです」
「つまり手持ちが減っていたら、ピオニーの仕業だと思えばいいってことか」
「はっ!? あれ……これってもしかして、言わない方がよかったやつですかーっ!?」
「そうかもね」
「起きるのが遅いぞ、ノア! さあ朝食じゃ!」
クラウジヤとドワーフたちは一晩の夢ではなかった。
俺たちは昨晩のように同じテーブルを囲んで、立ち食いで蒸したポテトとトウモロコシ(ドット化)をかじった。
赤く熟したトマトは瑞々しく、かぶり付くと甘酸っぱい果汁があごを伝う。
「ふぉぉーっ、蒸すだけでコーンがこんなに美味しいなんて、これはどうなってるんでしょうかねーっ、ノアちゃん!」
「こうなることはわかっていただろうに、なんでピオニーに料理させたんだ……」
「ワシは美味ければなんだっていい。むしろこのカクカクした見た目こそ面白いではないか」
「そう? だけどこいつの料理って、なんだか立体感がなくて目がショボショボしないか……?」
「問題ナイ」
「ピオニー、美味シイ」
「ピオニー、食ベタイ」
「ぴぃっ?! えっえっえっ、ピオニーを食べないでほしいですよーっ!?」
今の、異種族に言われたら超怖いセリフトップ3に入るな。
「クラウジヤ、翻訳しやってくれる?」
「はっはっはっ、朝から愉快愉快! 『ピオニーの料理は美味しい。ピオニーの料理をもっと食べたい』と我が同胞は言っている。言葉足らずなやつらですまん」
「ゴメン。ヒューマン語、難シイ……」
「はふぅぅ……そうでしたかー……。ああよかった……食べられちゃうかと、思ったですよ……」
謎のドット絵料理は、昨日に続いて今朝もドワーフたちに好評だった。
それは賑やかで爽やかで、和気あいあいとした良い朝食だった。
・
美味しい朝食でお腹もいっぱいになったことだし、さあ新しい1日を始めよう。
昨晩は狭い土蔵の家にすし詰めだったので、目下の目標はもちろん新たな住宅の建設だ。
そこで要望をドワーフたちに聞いてみた。
「え、本当に石造りじゃなくていいの……?」
「土、オチツク。石、硬クテ、冷タイ」
「土蔵コソ、理想」
「ふーん……」
「クラウジヤ。ニョゴニョゴニョゴニョゴ……」
「ニョゴニョゴ……」
しかしドワーフ語はよくわからないな……。
俺には全部ニョゴニョゴとしか聞こえないんだけど、どうやって文脈を聞き分けているんだろう……。
「む、むぅ……。だ、だが……ニョゴニョゴ……」
「ニョゴニョゴ?」
「なぁっ!? しかし、しかしそれはっ、ニョゴニョゴニョゴ……ッ!」
「ニョゴォ、ニョゴッ!」
「バ、バカなっ!? 何を考えているのじゃ、貴様らはっ!?」
傍から見るとふざけているようにしか見えないのだけど、なんだか見た感じ揉めているみたいだ……。
「何を揉めてるの? 戸惑っているところ悪いけど、翻訳してくれる?」
「い、言えん……」
「そう言われても、要望がわからないとちゃんとした家を作れないよ。あ、ちなみに土蔵が好きって気持ちは、今ではとてもよくわかるかな」
不思議と土の家の方が暖かみがあって落ち着く。
大地と一体となって生きている感じがして、それに石よりも土の方がずっと秘密基地っぽい。
ただ新大陸の過酷な気候を考えると、石造の方がずっと安心だろう。
「クラウジヤ、ソッチ、住ム」
「待て! ワシは納得しておらんぞ!」
「掟、守レ。男ハ、男。女ハ、女」
「ねぇ、らちが明かないから説明してよ。こっちはその通りに作るからさ」
「くっ……。それが、あのじゃな……。ドワーフには、いくつかの掟があるのじゃ……」
「どんな?」
「さっき言っておったじゃろ……。男は男、女は女じゃ……」
「全然わかんないな、どういうこと?」
「昨日までは緊急事態じゃったから、ああするしかなかった……。じゃが本来の我らは、男は男、女は女で、住居を分けるのがルールじゃ……」
「なんで?」
「知るかっ、それが掟だからじゃ!」
「変なの。……ああでも、それはある意味で合理的なのかな。男と女じゃ仕事が全然違うし、痴情のもつれや、夫婦ケンカもそれだけ減りそうかな」
それで幸せかどうかは、他種族の俺にはわからないけど。
それで上手くいっているならそれでいいんだろう。
「で、どうすればいいの?」
「う、うん……。こやつらは、男同士4人で暮らす家が欲しいと言っておる……。作ってやってくれ……」
「天井、低ク、低クク、ナ!」
「わかったよ、低くね。それでクラウジヤの方はどうするの?」
「え……。そ、それは……」
ところがそこにもうの1人の空気を読めないやつが戻ってきた。
「ただいまですっ! ただいま草さんの水やりが終わってピオニーが帰りましたよーっ! お家造りのお手伝いは、私に任せて下さいねっ! 特に屋根は、この私に!」
「お帰り。雑草に水はあげなくいいって、君には何度言えばわかるのかな……」
「何言ってるです? 雑草じゃないですよー? みんな、育てばお花と実を付けるです。楽しみですねっ!」
「そう言ったって、雑草は雑草でしょ……」
「違います。葉っぱはみんなお花です」
まあ……そうだね。
理屈の上ではどんな植物も確かにお花だね、ピオニー……。だけどそうじゃない……。
「はははははっ、ピオニーはやはり面白いやつじゃ! 雑草もまた花、正にその通りじゃの!」
「無責任に味方しないでよ……。それで、クラウジヤは独りで住むの?」
「え? えーーっ、そんなのダメですよーっ! 独りで暮らすくらいなら、ピオニーたちと一緒に住みましょうよーっ!?」
「ま、それもありだよね。独りは寂しいよ、特にこんな土地ではね」
「そうですよ、一緒に暮らしましょう、クラウちゃん!」
そうとなるとこっちの増築もがんばらないとな。
人間が5人も増えるとなると、家具の手配だけでも大変だろう。
ポート・ダーナから持ち帰った物資を考えれば、倉庫も大きくしたいところだ。
「しかし、迷惑ではないか……?」
「そんなことないですよーっ、一緒にお喋りしながら寝ましょうね!」
「俺も別に気にしないよ。君さえよければあそこで一緒に暮らそう」
ピオニーのお喋りっぷりはちょっと俺の手に余る。
そこにクラウジヤがきてくれたら、もう少しのバランスが取れそうだ。
「そうか、なら……すまぬがお邪魔するのじゃ……」
「ニョゴニョゴニョゴニョゴ……」
「ニョゴゴ……」
「これ、なんて言ってるんだ?」
「うむ……。要約すると、ノアが女ドワーフそっくりで良かったと言っているようじゃ」
「へ……? 男は男、女は女って……そういうことかよっっ?!!」
ドワーフの掟は掟と言うわりにガバガバだった。
全身を体毛に覆われていない俺は、クラウジヤに近いこの身長もあいまって、彼らの目から見ると女ドワーフに見えてしまうらしかった……。
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アイアンインゴット ×100/9999
木綿生地 ×50 /9999
小麦粉 ×200/9999
ハム ×49 /9999
→ ×48(朝食に)
干し魚 ×50 /9999
砂糖 ×50 /9999
精製塩 ×49 /9999
オリーブ油 ×22 /9999
ツルハシ ×1
??????の魂 ×1 /?
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