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・開拓5日目(夜) クラウジヤ

 このビルド&クラフトの加護を使えば、相手の武装を盗むなんて簡単だ。


 ところでブロードアクスとなると両手持ちの戦斧だ。

 盗賊がこんなくたびれる武器を持ち歩くなんて、そんなの聞いたこともない。いたとしても相当の傾奇者だ。


「ないっないっ、ワシの大切な斧がないぞ!? あっ!?」

「お探しの斧とやらは、もしかしてこれのことかな? お、重っ……!?」


 インベントリから盗んだ斧を取り出して見せ付けてやろうとすると、そのあまりの重さに斧を地に突くことになった。

 コイツ、俺と同じくらい小柄に見えるのに、なんて馬鹿力なんだ……。


「返せ!!」

「それはこっちのセリフだね」


 ヤツが飛び付く寸前で、サーベルで斧を叩いてインベントリに戻した。

 敵は地面の上をヘッドスライディングで滑っていった。


「こりぁーっ、それはワシの斧じゃ!! 返せっ、返すのじゃーっ!!」

「やーだね」


「おのれっ、ならば力ずくでも取り返す!」

「やってみたら?」


 コイツ、力は凄まじいけど単細胞の馬鹿だ。

 まるでボールに夢中になったときのうちの犬みたいに、バカな敵は己の斧に飛び付いては、自らボロボロになってゆく。


「ほらほら、もっとがんばれ」

「ぬぅぅぅーっっ!! 出したり消したり汚いぞっ、貴様ーっっ!!」


 もはや戦闘ではなく、斧を取り返すことだけに頭が行っていた。


「ノアちゃんっ、そうやって苛めちゃダメですよっ!」

「そうだそうだっ、こんなの酷いぞ、貴様っ!」

「酷いのはそっちでしょ」


「ノアちゃんっ、めっ!」

「いや、ちょっと待ってよ。コイツ、ピオニーに大怪我させようとしたんだよ?」


「ピオニーは別に怒ってません。ノアちゃんが守ってくれましたから、全然平気です」


 怒ってないのか。それは困ったな……。

 そう言われてしまうと、コイツへの怒りがメチャメチャ鈍る……。


「お前、いいやつじゃな……」

「許すことから、全ては始まるですよ。きっとモンスターさんと、間違えちゃったんですよね」


「そうなのじゃ、わかってくれるか!」

「わかります。……ほら、こう言ってますよ、ノアちゃん?」

「……うん、ならこうしよう。こいつらが腹の中から、畑から盗んだ野菜を吐いて戻してくれたら許すよ」


「えーーーーっっ?!! 私たちのお野菜、食べられちゃったですかーっ!?」

「熟してるのはほぼ全滅」


「そ……そんな……」


 大怪我をさせられかけたことよりも、楽しみにしていた野菜を食われたことの方がピオニーには一大事らしい。

 暗闇の中で、悲しそうに目をT字にしていた。


「すまぬ……人の物なのはわかっておったが、腹が減っていて、つい……。それにあのトマト、あのトマトがあまりに美味すぎたのがいけないのじゃ!」

「ぅぅ……そんなに、美味しいやつだったですか……。ぅぅぅぅ……」

「許すことから全てが始まると言ってたわりに、未練たらたらだね」


「無念、なのです……」


 ところがそうしてグダグダといると、家の中からのそのそと小さな影がはい出てきて横に整列した。

 戦い――いや、俺とコイツの不毛なケンカに加わらなかったことからして、彼らに敵意はなさそうだった。


「クラウジヤ、ニョゴニョゴニョゴニョゴ……」

「ニョゴ、ニョゴゴ……」

「メ……ッ」

「なぁっ!? そんなっ、それはないじゃろっ!? だって、だってコイツが、ワシの斧を――」


「メ……ッ」

「メ……ッ、クラウジヤ」


 なんなんだ、こいつら……?

 もしかして、俺たちと言葉が違うのか……?


「ノアちゃん、なんか……言葉はわからないですけど、叱られてるように見えませんかー……?」

「それは奇遇だね、ちょうど同じ感想だったよ」


「へへへー、そうですかっ、やっぱり私たち仲良しですねー♪」

「いやなぜそうなる……。あー、もしかしてお前、クラウジヤって言うのか?」


 もう戦うような雰囲気でもなさそうだ。

 そうなると明かりが欲しくなってくる。それは相手も同じだったようで、火打ち石の音が何度か響いて、弱い炎が灯った。


「うるさいワシに話しかけるなっ、ワシはお前のことが嫌いじゃ! この苛めっ子め! 貴様のせいで、昔のトラウマが蘇ったではないかっ!」

「先にケンカを売ったのはそっちでしょ」


「モンスターと間違えただけじゃ!」

「こっちだってゴブリン扱いに傷ついたんだけど?」

「もーーっ! ノアちゃんっ、めっ、めっですよっ! 2人とも仲良くして下さい!」


 そういえば昔、俺と弟のイーサンがケンカをすると、うちの犬もこんなふうに仲裁をがんばってくれたっけ。ピオニーは犬っぽいな。


「わかったよ、もうケンカはしない。ほら、斧を返すよ」

「お、おぉ……ワシの、ワシの大切な斧……」


 斧を返してやると、クラウジヤも気持ちが落ち着いたのか静かになった。

 そんな中、奥の連中がうちの家から石炭の残りを持ってきて、それを両者の間に配置した。

 火が移され、赤い炎が暗闇から真実の姿を暴いてゆく。


「わっ、わぁーーっ!?」


 ピオニーが大声を上げるのも当然だった。

 そいつらはあのドワーフ族だった。


「なんじゃ、ドワーフ族か」

「……は?」


「同胞ならそうと言え、驚かせおって……。てっきりゴブリンかヒューマンどもかと思ったじゃろう……」

「いや、ちょっと待って? 何言ってるの、お前?」


 俺の知っているドワーフといったら、新大陸に生息する不気味な顔をした小人族だ。

 ところが本当のドワーフ族は、図鑑の挿し絵よりもずっと人間らしくて、男の方は特に愛嬌のある顔をしていた。


 身長は俺の首までしかなくて、骨格が横側に大きく毛深いところをのぞけば、姿は人間とそう変わらない。

 しかしその中で、クラウジヤは浮いていた。コイツだけ全くドワーフには見えなかった。


「何とはなんじゃ?」

「いや、そっちこそヒューマンでしょ?」


「この無礼者め。ワシのどこがヒューマンに見える」

「どこって、全部……? 毛がないし、ドワーフにしてはやけにでかいし、顔付きも俺たちと同じだ」


 クラウジヤはドワーフにしては体毛がない。

 それにドワーフにしては大きくて、俺と身長もほとんど同じだ。加えてこれはどうでもいい部分だけど、胸も突き出すようにドンと飛び出している。


「ドワーフの女はみんなこうじゃ」

「嘘だろ……」


 俺の読んだ図鑑だと、女もモジャモジャのちんちくりんだったぞ……。


「そういう貴様こそ、ヒューマンにしてはやけに小さいではないか!」


 禁句に触れたな。


「誰がチビだ!」

「わーっわーっわーっ、ダーメーですっノアちゃんっ! そんな喧嘩腰のノアちゃんなんて、ピオニーはもう見たくないですよっ!」


 というよりもっと根本的な疑問に気づいた。

 この状況において、なぜこいつらは、ピオニーという超越的な存在に驚かないのだろう……。


「んなぁっ?! よよよよ、よく考えたらなぜ絵が動いてるのじゃーっ!?」

「ヒィーッ?! コワイ、コワイ、悪霊ッ、悪霊ッ……!」

「ニョゴニョゴニョゴニョゴ……退散! ゴニョゴニョゴニョゴニョ!」


 ……いや、単にとんでもなく鈍いだけだった。

 ああ、なんかもう真面目に受け止めるのもバカらしいな……。


「事情はおいおい聞くとして、これは提案なんだけど」

「う、うむ……なんじゃ?」


「お腹も空いたことだし、よかったら今から一緒に夕飯でも作らない?」


 インベントリからマジックのように、ハムのブロック塊(2kg)を取り出して見せた。


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