・開拓1日目 加護『ビルド&クラフト』
約半月の船旅を終えて、俺は新大陸テラ・アウクストリスにやってきた。
その玄関口である港町ポート・ダーナは賑やかでぼちぼち楽しそうな街だったが、俺たち新参者に与えられる土地はもちろんそこではなかった。
「ここ一帯が貴方の領地になります。では失礼」
「いや、あの……お役人さん? ちょっと待って、ここっ!? 本当にここなのかっ!?」
「ついていないですね、他はもう少しマシなのですが、ここまでの外れ立地はなかなか……。それでは――」
「待って待って! 家はっ!? ねぇ、家は!?」
半月分の食料物資と共に、俺は広野のど真ん中でホロ馬車から下ろされた。
辺りには何もない。マジで何もない。木どころか枯れ草1本すら生えていなかった。
「自分で建てるに決まっているでしょう。がんばらないと野垂れ死にますから気をつけて下さい。では!」
「待て待て待て待て待て! 建てるって言ったって木材の姿がない! いきなりこれ詰んでね!?」
「え、ああ、まぁ……がんばって下さい」
これが噂のお役所仕事か……。
俺は荒れ果てた大地に両手両足を突き、遠ざかってゆく車輪の音に耳を傾けた。引き返してきてはくれなかった……。
「いや、いやこれって、草とか枯れてるじゃん……。開拓どうこう以前に、ここって開墾に全く適してないじゃん……」
確認に辺りをグルリと回ってみても、どこもかしこも荒れ地、荒れ地、カサカサに乾いた荒れ地だけだ……。
一応サツマイモの種芋と、ネギ、ラッカセイ、青銅のクワとオノ、半月分の保存食があることはある。
「舐めてた……新大陸舐めてたわ……。いや、でも、ここでどうしろと……」
水源がない。土もこう、いかにも栄養のなさそうな薄黄色だ。
こんな土で、いくら乾燥に比較的強い品種だとしても、本当に作物が実るのか……?
俺は小一時間苦悩した……。
・
「しかし父上たち、そろそろ俺の置き土産に気付いてくれたかな……」
しばらく放心状態で荒野に座り込んでいると、ふいに実家に残してきたイタズラのことを思い出した。
実はあのまま新大陸送りにされるのも腹が立ったので、俺は牢獄から屋敷に戻されたほんのしばらくの隙に、居間のワインボトルにちょっとした一手間を仕掛けておいた。
それは我が家の愛犬エドの協力なくしては成り立たない、ちょっぴりビターなスペシャルブレンドだ。
混入量そのものはほんの気持ち程度なので、あのボトルの下の方まで飲み切らなければ、ワインに沈められた怪しい固形物の存在に気づくことはないだろう。
俺をこんな地獄送りにした仕返しにしてはささやかだが、思い出すと多少の慰めにはなる。
「ははは……あいつらのマジギレ面を見るまでは死ねないな! よし、いっちょがんばるか! せいやっと!」
こうなりゃ野垂れ死ぬ前にどうにかするしかない! と覚悟を決めて、俺は硬く乾燥した大地に青銅のクワを振り下ろした。
「へ……?」
そしたらなんか――大地が消えた。
何を言っているのかわからないと思うが、俺だってよくわからない……。
とにかく、クワを振ったら硬く脆い手応えと共に大地がキューブ状に砕けて、それが光となって俺の中に消えていったように見えた。
「え? うわっ、な、なんだこりゃぁっ?!!」
意味がわからないので、隣の地面で同じことを繰り返してみると、先ほどと寸分違わぬ分量の土がまた光となって消えた。
そう、まるで世界は元々はブロックだったと言わんばかりに、ザクザクと大地がデリートされていった……。
「ん、んん、んんーーっ??? 俺はついに、ショックで頭がおかしくなったのか……?」
なぜキューブ状なんだ? なぜ俺の中に消えるんだ? 消えた土はどこに行ってしまったんだ?
「は、ははは、なんだこれ、ははははは……。あ、ダメだ、これダメなやつだ……。だってこれ、耕せねぇじゃん……」
事態のまずさに頭を抱えて俺は大地に膝を突いた。
「いや、凄いよ? よくわかんないけどこれって凄いよ? でも今はこんな意味わかんねー力、必要ねーっ!!」
畑を作れなきゃ餓死してしまうというのに、なぜ土が消えるし……。この状態でどうやって種芋を埋めろと?
あー詰んだ、ますます詰んだわ。順風満帆だった人生に、地獄の暴風が吹き荒れてるわ……。
……しかしそこまで苦悩してから、俺は今さらになって気付いた。『意味わかんねー力』それすなわち加護であると。
つまりこの現象は、俺のバグった加護が影響している可能性が高いのではないかと。
「あ……!? な、なんだこれ……」
そこまで確信すると、俺の目の前に青白く光る板が現れていた。
まるでそれは純度の高いガラスのようで、驚くべきことにガラスの中には文字が浮かび上がっている。
――――――――――――――――――――――――――
・荒野の土 ×7 /9999999 new!
・砂利石 ×1 /9999999 new!
・ジャガイモ(野生種) ×4 /9999 new!
・??????の魂 ×1 /?
―――――――――――――――――――――――――
それらの文字の下には、絵と数字が載っている。
例えば荒野の土はキューブ状になった四角い絵だ。
??????の魂というのはよくわからない。魂と言われたらまあ、そう見えなくもなかった。
「これ、触ると動くのか……? んなっ、なんだれこれっ!?」
試しに荒野の土の項目に触れてみると、そこが拡大された。
さらにもう1度パネルに触ると、今度は手に軽い手応えが返ってきた。
まるで何もない空間から引っ張り上げるように、俺の手には80cm四方のキューブになった荒野の土がくっついていた。
「どういう仕組みかわからないけど、これ、妙に軽いな……。おっ、1度出したら、置いたり重ねたりできるのか……」
キューブ化した荒野の土を階段状に並べてみると、どれもが寸分狂わぬ緻密さで整列されていた。
少しのズレも許せない神経質なやつには、こういうのはさぞ快感だろう。
「と、なると……。おおっ、芋だっ、芋が現れた!!」
同じ要領でパネルの中のジャガイモに触れると、だいぶ小ぶりだがジャガイモが4つも現れた。しかも丁寧に水で洗われたかのように、どの芋にも泥1つ付いてない。
「つまりこれは……大地を削り取って、それを自分の中に収納する加護……? 芋と土を自動的に仕分けしてくれるところがまた、便利だな……」
そうやって頭を整理すると、連鎖的に新しい疑問が浮かんだ。土を消せるならば、他の物も同じように消せるのか?
「へー、出し入れも自由ってことか」
結果は肯定だ。土で築いた巨人サイズの階段も、掘り出したジャガイモも、クワを振り下ろせば光となって俺の中に消えていった。
「しかし、これのどこが戦闘系の加護なんだ……? いや、だけど……まだよくわからないけど、この力があれば――」
これは凄い力だ。希望が胸にあふれた。
「超簡単に芋が手に入るってことじゃないか!!」
そうとわかれば手足り次第に掘るしかない。
俺は辺りザクザクと半ば遊び感覚で、浅く広く掘り進めていった。
【恐縮なお願い】
もし少しでも
「楽しい!」
「続きはよ!」
「こんなサンドボックスゲームをやってみたい!」
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