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・開拓4日目(昼) 前線基地グレイアーク

 こうして俺たちは家の入り口を荒野の土で塞いで戸締まりをすると、ここより東にあるポート・ダーナへの旅に出た。

 ポート・ダーナは本土との交易が最も活発な土地なので、そこまで行けば品物が高く数が売れ、必要な物資が安く大量に手に入る。


「それじゃピオニー、しばらく()に入っていてくれる?」

「いいですよ、ノアちゃんの中なら街までラクチンですから」


「いや、ピオニーみたいなのが街の通りを歩いていたら、俺たち兵隊に囲まれちゃうって」

「ほへー、そうなんですかー?」


「そうなんだよ。休憩時になったら外に出すから我慢してね。そのおわびに街に着いたら、美味しい物をごちそうするよ」

「それはとても楽しみです!」


 ピオニーをインベントリに収めて、ついでに邪魔ったい腰のサーベルもインベントリに入れた。クワと斧は今回は持っていかない。


 さあ出発だ。キャラバンも真っ青の大物量の交易品をインベントリに積んだ俺は、散歩感覚の手ぶらで荒野を走り出した。


――――――――――――――――――――――

 荒野の土 ×133 /9999999

    → ×123(戸締まりに)

 ピオニー ×0

    → ×1

――――――――――――――――――――――



 ・



 小柄さは大きなハンディキャップだ。けれど持久力においては、俺のような軽い体格の者が勝る。

 止まらないランニングで荒野を駆けて、開拓済みの村村を通り抜けて、昼には前線基地グレイアークまでやってきた。


 ここは軍の駐屯地にして開拓の根城で、流通の中継地点としても近隣の開拓民たちで賑わっている。

 その大通りにいかにも美味しそうな出店を見つけたので、タコスとスイカを注文してインベントリに収めると、グレイアークの外壁を出た。


 グレイアークで何かを仕入れてポート・ダーナで卸せば輸送コスト分だけ手堅く儲かるだろうけど、あいにく商売ができるほどの手持ちなんてなかった。


「待ってたですっ! お肉っお肉っ、あまーいスイカも選ぶとは、ノアちゃんわかってますね!」

「中から見てたんだね。はい、どうぞ」


「あちちっ、出来立てホカホカですね! これならノアちゃんは、パン屋さんにもなれそうですね!」

「お、本当だ。やっぱりインベントリに入れると時間が止まるみたいだね。……ピオニーは例外みたいだけど」


「ごちそうさま!! デザートお願いします!」

「ちょ、早……っ」


 カットスイカもあっという間にピオニーのお腹に消えて、その後は食べ終わるまでピオニーに羨望の目を向けられたけれど、残りの旅があるので俺は譲らなかった。


「ポート・ダーナではどこかに宿泊するつもりだから、そのときは料理を部屋に運んでもらおう。もちろん好きなだけ頼んでいいよ」

「絶対! 絶対ですよ!?」


「宿が見つかればね」

「見つからなかったら?」


「……野宿かな」


 お腹が落ち着くのを待ってから、俺はまた新大陸テラ・アウクストリスを走り出した。



 ・



 ホロ馬車で2日はかかる道のりも、手ぶらのランニングならば1日でどうにかなった。

 だけどさすがに疲れた。今日はどんな宿でもいいからベッドでゆっくりしたい……。


「待てそこの子供、身分証明書はあるか?」

「え……ああ、これ?」


 ところがポート・ダーナの東門を抜けようとすると、槍で武装した門衛に道を阻まれた。


「む、紙が新しいということは新入りだな。居住地は――グレイアーク西部!? ずいぶんと……遠くからきたもんだな……」

「そう、とんでもない外れ立地をあてがわれちゃってね。このままじゃどうにもならないから、ここの物資が入り用なんだ」


「グレイアーク西部といったら、モンスターの跋扈する終わりのない荒野ではないか……。こんな小さな子に、上はなんて酷なことを……」

「いや、俺これでも18歳なんだ。それよりどこかに手頃な宿を知らない? 安くてご飯が美味しいところが理想なんだけど」


「すまない……」


 門衛さんは苦い顔をして俺から目をそむけた。


「可哀想だが、この実績では街には入れないんだ。1000ルーン以上の納税を今すぐできるならば、取り次げるが……」

「そんなお金持ってないよ」


「だろうな……。ならば引き返すといい」


 ……困ったな。そんなルールがあるなんて誰も教えてくれなかった。

 見上げてみれば、街の外壁は高さ3m半はあるだろうか。

 戦いで何度も使われたのか、かなり損傷しているように見える。


「言っておくが、この辺りで夜明かしはよした方がいい。ポート・ダーナはモンスターに付け狙われていてな、この近辺は西の開拓地よりも危険だ」

「親切にありがとう、兵隊さん。別のつてを探すことにするよ」


「……ごめんな」

「兵隊さんは良い人だね。……そうだ、ちょっと待ってて」


「ん、なんだ……?」

「……本当は売り物だけど、よかったらこれどうぞ」


 付近の木陰に隠れて、インベントリから小さな壷を取り出して、彼に手渡した。

 それから来た道を引き返して、ポート・ダーナの西門からこちらが見えなくなったら、森林の中にUターンした。


「彼には悪いけど、ここで素直に帰るわけがないよね」


 森林から再び外壁に迫り、警備の薄い部分を探した。

 港に近付くに連れて地形が沈んでゆき、外壁が高くなっている。高い防壁ゆえか、どうもその辺りは監視の目が少ない。


「その気になれば、こんなのどうとでも突破できるけど……」


 あの防壁をビルド&クラフトの加護で削ってしまえば、いとも簡単に入り込める。

 けれども防壁の上に監視の目がある以上、目撃されたときのリスクの方が大きそうだ。


 上手くやれば防壁をビルド&クラフトして、通過した後に防壁を元通りの位置に戻せるのかもしれないけれど、まだそこまで使いこなせる自信がない。


 かといって土を積み重ねて階段を作っても、それこそ犯行現場に巨大な証拠を残すようなものだ。もちろん騒ぎになるだろう。


「……となると。海か」


 そこで俺は海の中に荒野の土を配置して、濡れないように衣服をインベントリに突っ込むと、海の上をパンツ1枚で歩いて渡ることにした。

 いざやってみるとこれが意外と簡単もので、足下に手をかざしながら土を配置してはその上を歩くだけだった。


 海上に築かれた街の防壁を抜けて、港の内側まで入り込んでしまえばもうこっちのものだ。

 ずいぶんと手間をかけることになったけれど、俺はついにポート・ダーナへの潜入に成功した。……もちろん、到着した後は服を着た。



――――――――――――――――――――――

 石材   ×300 /9999999

 石炭   ×48  /9999999

 荒野の土 ×123 /9999999

    → × 28(海の道に)

 銅鉱石  ×8   /9999999

 蒸留水  ×1   /9999999

 小さな壷       ×62 /9999

          → ×61

 武具の破片      ×47 /9999

 ピオニー       ×1

 ??????の魂   ×1  /?

――――――――――――――――――――――


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