・開拓4日目(朝) 草のベッドとレンコンさん
昨晩あの後、クラフト『草のベッド』を試してみた。
せっかく遠征で材料が手に入ったのに、久々の肉料理にテンションが上がっていたのか、俺たちは食後のお喋りにも夢中でこれの存在をすっかり忘れていた。
「ワクワクしますね! ドキドキしちゃいますね! きっと、素敵なベッドになりますよっ!」
「ピオニー、いちいちそうやって評価のハードルを上げないでよ」
「ノアちゃんが作る物ならなんだって素敵になるですよ!」
「けど」
「今までだってそうだったです! さあ、始めましょう!」
「だけど草のベッドっていう名称からして、間に合わせの粗末なやつだと思うんだけど……」
「作る前からそんなこと言ったらダメですよー。あっ、お花とか付いてるのとかいいですねー♪」
「花か。ちょっとファンシー過ぎる気もするけど、それはそれで文化的で悪くないね」
「むふふ、ノアちゃんはお花が好きですよねー」
「ピオニーには負けるよ」
「またまたー♪」
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・草のベッド
材料
繊維 ×1
葉や茎 ×20
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クラフト画面にアイテムをセットして、良い物ができますようにと祈りながら決定ボタンを押した。
すぐに画面がインベントリへと自動的に切り替わり、そこに『花のベッド』とやらが追加された。
材料さえ集めれば、ボタン1つで完成してしまうところが少し味気ない。
「あれ……?」
「花のベッド! 花のベッドって書いてありますよっ、ノアちゃん!」
「そうみたいだね……。どういうことだろう……」
「早く置きましょう!」
花のベッドを選択すると、大成功品との補足が加えられていた。
よくわからないけど、ついていたってことだろうか。
「はーやーくーっ!」
「わかったわかった。後日、この土の部屋も少し広げたいところだね」
ベッドは想像していたよりも大きいようだった。
部屋の端っこに設置してみようとしたけれど、これは想定以上に巨大だ。
「焚き火をどかしてくれる? なんか、やたらでかいよこれ……」
「お任せあれ!」
ピオニーが石炭を退かすのを待ってから、花のベッドを設置した。
「おっ、これはなかなか……。まるで絵本の世界だね」
「ふんすふんすっ、ノアちゃんでかしたですよ!! ピオニーは、こういうのが憧れだったです!!」
それは植物のツタで覆われた不思議なベッドだった。
カスミソウやプリムラ、白から青までの花々が飾りたてるようにベッドから咲いていて、確認に寝具の部分に触れてみると、スベスベとやわらかな弾力が返ってきた。
「わぁぁーっ、このベッドッ、なんだかぷるぷるしてますね!」
そう、まるでブドウの実のような弾力だった。
もしこの表面を切り裂いたら、本当に果肉が現れるのかもしれない。
「よっこいせっと」
「あーっ、ちょっとノアちゃんっ!? それは私のベッドですよーっ!?」
「昼間はああ言ったけど、これだけ広ければ問題ないね。ピオニーもおいでよ」
「ほ、本気ですか、ノアちゃん……?」
「こんなの見せられたら、床で寝るなんて誰だって嫌だよ。俺はここで寝る」
「そうかもしれないですね……。じゃ、じゃあ……ふ、ふつつか者ですか?」
「いや疑問系で言われても」
「ぅぅ……パニックですよ、いっぱいいっぱい、ですよ、こっちは……っ。お、おじゃまします……」
俺たちは同じベッドに入って目を閉じた。
ピオニーも最初は恥ずかしがっていたけれど、水に浮いているかのように快適なその寝床は、俺たちを瞬く間に眠りの世界へと導いていった。
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繊維 ×32 /9999999
→ ×31(花のベッドに)
草 ×32 /9999
→ ×12(花のベッドに)
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早寝の快眠だった。おかげでこうして今日は、真っ暗闇の夜明けに目覚めることになった。
ピオニーはまだベッドから起き出してこないので、朝の冷え込みに身を震わせながら1人で倉庫整理をしていった。
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石材 ×300 /9999999
石炭 ×48 /9999999
荒野の土 ×133 /9999999
銅鉱石 ×0 /9999999
→ ×8(倉庫から)
蒸留水 ×1 /9999999
繊維 ×31 /9999999
→ ×0(倉庫へ)
草 ×12 /9999
→ ×0(付近に配置)
小さな壷 ×62 /9999
武具の破片 ×0 /9999
→ ×47(倉庫から)
??????の魂 ×1 /?
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【倉庫・石の倉庫】容量:75キューブ
木材 ×2 /9999999
繊維 ×0 /9999999
→ ×31(インベントリから)
銅鉱石 ×8 /9999999
→ ×0(インベントリへ)
武具の破片×47 /9999
→ ×0(インベントリへ)
開拓物資 ×保存食は残り5、6日分
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一通りの倉庫整理を終えると朝日が昇っていた。
目を擦りながらピオニーが家から姿を現して、状況的にあり得ないことを言った。
「眠れなかったです……」
「俺はぐっすりだったよ」
「知ってます……。何しても、起きなくて、大変でした……」
「ふーん……? それより朝食の準備をお願い。俺は畑に水をあげてくるよ。そしたら出発だ」
「ピオニーも一緒にお水あげるです……。昨日の夜、畑にお花、咲いたんですよー?」
「花……? それはきっと寝ぼけてたんじゃないかな。昨日まで双葉だったのに、それが花を咲かすなんてそんなの魔法どころじゃないよ」
「見ればわかるですよ」
池まで行って、クワで沼の水をキューブ6つ分採集した。
それからそれをピオニーと半分に分けて、畑まで持って行った。
「あ、本当に咲いているね……」
「ほら言ったとおりです。この調子なら帰ってきた頃には、美味しいお野菜が食べられそうですね」
「いや、そんなバカな……」
「ノアちゃんの作った畑ですよー、何があっても不思議じゃないですよー?」
中央の畑のツルの長い作物は、大きくその茎や葉を伸ばして、夜明け前の蒼い世界で黄色い花を咲かせている。
左の畑はどうやらトウモロコシ、右は豆か何かかもしれない。
「いやおかしいでしょ、こんなの……」
「ふんすふんすっ、お野菜ができたらシェフが腕をふるうですよっ!」
もしかして自分は寝ぼけているのではないかと顔を両手で叩いてみた。だけど困った。これは夢ではない。なんと現実の出来事だった……。
「何してるですか?」
「葛藤と混乱。たった2日で作物が実るなんて信じられない。しかもこれで、畑レベル1だなんて……」
「へへへ……。きっとレベルが上がると、メロンとかー、オレンジとかー、アップルパイが生えるですよっ!」
「夢みたいな話だね」
「はいです! 期待してますよっ、ノアちゃん!」
「さすがにアップルパイの木は無理でしょ……」
俺たちは沼の水(上澄み)を畑に投げ入れて、朝食のために家へと引き返した。
今日の朝食は、昨晩に作っておいたポテトと蓮根と干し肉のスープだった。
「レンコンさんシャキシャキ甘々ですね。遠征してよかったですねー♪ お肉もやわらかほろほろですねー♪」
「……これで見た目さえマシなら、もっとよかったんだけどね」
「えーーっ?!」
ただし調理者ピオニーにつき、その煮込み料理はご多分に漏れずドット絵クオリティだった。




