・開拓3日目 荒れ地に水を求めて - 蓮 沼 フナ ナマズ -
諦めずに北上してゆくと、道中で新たな繊維や木材を手に入れたり、巨大なウチワサボテンを見つけることになった。
そのサボテンは高さにして4mほどはあるだろうか。胴回りも分厚く、ただただ立派だ。
「でっかいですねーっ!」
「ちょっと待っててね」
「へ……何するです? おわぁっ?!」
護身用のサーベルを抜いて、幹を傷つけないようにサボテンの支脈を狙って俺は天高く跳ねた。
「いてててっ……サボテンって本当に針だらけなんだな……」
「ノアちゃんって……ノアちゃんってもしかして、とっても凄い人だったですか……?」
「見直した?」
「はい! あんなところまで飛べるなんて、ノアちゃんの前世はモモンガなのです」
「なんで俺はナチュラルに小動物に例えられてるんだろうね……。あ、それよりこれをどうぞ」
採取したサボテンの皮をサーベルで削いで、一塊をピオニーに手渡した。
水分にあふれるその果肉は、得体が知れなかろうと今の俺たちには生唾ものだ。
「がぶっ! ほわーっ、これっ、みずみずしくて美味しいですっ!」
「少しもためらわずに食べたね……。ん……ちょっと青臭い気もするけど、意外とこれはいけるね」
「生き返ります……。はぁ、あと少しで、カラカラに干からびるところでした……」
「俺の目からは、既に干からびているように見えるけど」
「ひゃぁっ、お、女の子突っついたらダメですよっ?!」
残りは取っておくことにして、インベントリの中に収めた。
「うーん……平面のくせに感触はやわらかいんだから変な感じだ……。あ、ところでだけど」
「あっあうっ、はうっ、あうぅぅっ?! もぉーっ、ノアちゃんっ、こんなのいけませんよっ、こういうのっ、セクハラですよっ!」
「そんなことどうでもいいからこっちきて。あっちの方角に何か見えない?」
ピオニーの手がふさがっているので、ピオニーの腰を抱いて小さな丘を上った。
……最初はスケベ心なんてなかったけど、やっぱりこれ、女の子みたいだ。さっきのはよくよく考えればまあ、セクハラだったのかもしれない。
「ノアちゃんって、色々無自覚です……」
「そっくりそのままピオニーに返すよ。それよりほら、あれ見てよ。あれって――」
「大変! 水ですっ、湖がありますよ、ノアちゃんっ!!」
「やっぱりそうだよね? あれ、水の反射だよね……?」
「行きましょう、ノアちゃん! これで水浴びができますねっ!」
「……水浴び? その身体で? しわくちゃになったりしないの?」
「えーーーっ、ノアちゃんは私をなんだと思ってるですかー!」
「……紙?」
「違いますっ、ピオニーは紙じゃなくて、ただこう……自分でもよくわかんないですけど、ペラペラしてるだけの人なのです!」
サボテンの果肉をかじりながら、俺たちは駆け足になった。
どうもピオニーは、自分でも自分の正体がよくわかってないみたいだ。
・
その湖は俺たちの希望だった。水浴び、飲料、煮物料理に魚。多くの希望がそこにあったはずだった。
けれどもそれは湖ではなく――ただの泥混じりの沼だった……。
「目をつぶってるから先に浴びていいよ」
「ぅぅ……。そういう冗談は嫌いです……」
「ま、そう都合良く綺麗な真水が手に入るわけないよね。やっぱり自力で地下水を掘り当てるのがいいのかもしれない」
「そですね……そかもしれませんね……。はぁぁ……」
沼には蓮の花が咲いていた。
ここまでの駆け足が徒労に終わってしまったけれど、その薄桃色の花びらは清らかで美しい。
泥だらけの水底で力を育み、泥が美しい花となるのだから蓮という植物は面白いものだ。
「はー、オハナキレイ……」
「綺麗だね。持って帰りたいくらいだ」
「そうですね、だったら……だったらこれっ、持って帰りましょうっ! ノアちゃんなら、できると思います!」
「え……。ああ、なるほど……」
たとえ話のつもりだったけれど、そう返されて俺は地べたから跳ねるように立ち上がった。
そうか。目の前の物が気に入ったのなら、全てをビルド&クラフトして、持って帰ってしまえばいいのだと気付いた。
「ノアちゃんはー、あのテラスでご飯食べながら、蓮の花を見たくありませんかー?」
「それは素敵だね」
「そうでしょそうでしょ! じゃあ、やっちゃって下さい、ノアちゃん!」
沼の水も上澄みはある程度澄んでいる。備蓄の水が尽きている以上、この水を蒸留するしかないだろう。燃料の石炭ならばたっぷりある。
クワを沼の水面に振り下ろした。
「うん……これはかなり面白いかもしれないね」
「思った通りです! ガンガン堀りまくっちゃいましょう!」
「うん!」
水面にクワがぶつかると、軽い手応えと水音が返ってきて、けれども水しぶきは欠片も飛ばなかった。
水がキューブ上に切り出されてゆく。それが青白い光となって俺の中に消える。
まるで水がゼリーみたいだった。キューブ上に切り出された水面は、液体の性質を無視して個体のように振る舞っている。
「ノアちゃんなら、沼の底まで探検できちゃいそうですね!」
「おっかないから今回は止めておくよ。もしこの断面が液体に戻ったら、沼の底に沈んで戻ってこれなくなるかも」
「ふふふー、ノアちゃんと一緒にいると楽しいです。水槽の中にいるみたいですねー!」
沼の岸辺を掘ってゆくと、ピオニーの言う通りの世界があった。
彼女はゼリーのようになった垂直の水面を突っついて、不思議そうにしては笑っていた。
「あんまり深いところに行かない方がいいよ。いつまでこの加護の力が続くかわからないんだから」
「そうですけどー、ノアちゃんは、見えない世界を見せてくれるのです。これ、なんでしょうかね!」
「……多分、蓮根かな? インベントリを見てみてくれる?」
「レンコン……? あっ、本当です、レンコンってありますよーっ! あと、フナさんとナマズさんも入ってます!」
「……マジで? うわ、本当だ」
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荒野の土 ×158 /9999999
沼の水 ×71 /9999999 new!
繊維 ×29 /9999999
→ ×32
草 ×32 /9999
ナマズ ×2 /9999 new!
フナ ×19 /9999 new!
蓮 ×7 /9999 new!
蓮根 ×7 /9999 new!
サボテンの肉 ×1 /9999 new!
小さな壷 ×62 /9999
??????の魂 ×1 /?
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蓮根は美味しそうだけど、ナマズとフナはちょっと困る……。
ナマズの方は泥抜きをすれば美味しいらしいけれど、そんな設備はうちにはない。
「凄いですねー、ノアちゃんはー、お魚屋さんにもなれちゃいますねー♪」
「フナなんて野良犬も食べないんじゃないかな……。鮮度は抜群だろうけど」
「じゃあ、連れて帰って飼いましょう」
「かつてこれほどまでにダイナミックなアクアリウムがあっただろうか……。カリスマ庭師も真っ青だね」
「アジとか、カツオとか、マグロも穫れるといいですね!」
「どんな沼だよ、それ……」
ところが魚釣りならぬ豪快魚掘りをしていると、クワが弾き返された。
よくよく確認してみればインベントリがいっぱいだ。
「持ちますよ?」
「じゃあナマズ――」
「蓮ちゃんがいいです」
「わかったよ」
ピオニーはまた俺のインベントリを勝手に操作して、蓮を自分に移動させた。
……よく考えたら俺のこの加護、セキュリティ面がガバガバだ。
ともあれ何が見つかったのだろうかと期待を込めて、弾かれた沼の水へともう1度クワを振り下ろした。
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テラ・アウクストリス・クロコダイル
×1 /9999 new!
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【恐縮なお願い】
もし少しでも
「楽しい!」
「続きはよ!」
「マイクラやってみたい!」
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