・開拓2日目 初めての家具、そして畑 2/3
「わぁっ、いっぱいできましたね! これだけあれば、お花とかいっぱい飾れますね!」
「もしかしてピオニー、これを植木鉢にするつもり? だけどこの辺り、花とか見かけないよ?」
「なら遠くまで行って探しましょう!」
「遠征か」
数はともかく実物はどんな物だろうかと、インベントリからテーブルの上に『大きな壷』を移してみた。
「おお……まんまるですね、まんまる!」
「思っていたほど大きくはないね。これなら料理道具にもなるかな」
「これもスベスベです。スリスリ……」
「だから夢に見そうな奇行は止めてくれって言ってるでしょ……。なんか、ヘビみたいだから……」
「もーっ、酷い言い方ですね!」
「ピオニーの身体がへんてこ過ぎるんだよ」
次に『小さな壷』の方も出してみると、こちらは手のひらくらいの丸い壷で、口が大きくて食器の代用品になってくれそうだった。
2人分はあった方がいいだろうとさらにもう1つ取り出してみると、そちらは上薬を塗ったかのようなクリーム色だ。
「こっちの地味な方がピオニーの食器ね」
「えーーーっ?! ずるいですっ、そんなの横暴ですっ! 私もそっちのかわいいのがいいです!」
「そう、だったこれはピオニーにあげる。俺はもっと良さそうなのを探してみるよ」
さらにインベントリから小さな壷をまるで手品みたいに出してゆくと、これが実に様々な色合いがあった。特に驚いたのは桃色の壷だ。
「そ、それ……それ欲しいです……」
「でもピオニーはそっちのクリーム色にしたんでしょ?」
「そ、そうなんですけどぉ……やっぱり、ピンクがいいかもしれないです……」
「ふーん……どうしようかな。俺には似合わないし割っちゃおうかな」
「ノアちゃんっ! 私をいじめて楽しいですか!?」
「まあ多少はね」
ピオニーのクリーム色の壷と、桃色の壷を交換した。
今夜は焼いた芋を、この壷に入れてから食べることにしようか。
余った壷の方は、いっそ街まで持って行って売ってしまおう。
「へへへ……これ、かわいいです。ホントにかわいいです……! ありがとう、ノアちゃんっ、今夜が楽しみですね!」
「だけどずいぶんと不思議な色だね、それ」
「そうですね! スリスリ……」
さて、ではそろそろ動き出すことにしよう。
このまま夕暮れまでだらだらしたいと気持ちを堪えて、ゴツゴツとした石のイスから立ち上がった。
「おでかけですかー? 私は、そんなに一生懸命、働かなくてもいいと思いますよー?」
「だったらピオニーだけここに残ったらいいよ」
「えーーーっ!? 行きます、一緒に行きます、行かせて下さいっ!」
「というか、しばらくはそこの土を掘り返すだけだから、屋根の上からでも眺めていてよ」
「ほへー……。何を集めるですか? 土ですか? 壷いっぱい作って、がっぽし大儲け作戦ですか?」
「それも考えたけど、ああいうのは作りすぎても簡単には売りさばけないから、慎重にいきたいかな」
「じゃあ、何集めるですか?」
「ミミズ」
「ギャーーーッッ?!!」
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・畑レベル1
材料
土 × 16
ミミズ × 20
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そういうわけで、次なるクラフトは俺たちの生命線、畑だ。
不健康な保存食と芋漬けの生活から少しでも早く脱却するためにも、今日中に畑を作っておきたい。
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荒野の土 ×31 /9999999
→ ×25(壷(大)と壷(小)のクラフトで消費)
石材 ×25 /9999999
石炭 ×23 /9999999
砂利石 ×15 /9999999
錆鉄 ×10 /9999999
小さな壷 ×64 /9999
→ ×62(食器へ)
大きな壷 ×4 /9999
→ ×3(ジャガイモの保存壷に)
??????の魂 ×1 /?
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・
浅く広く大地を削った。荒野の土ならばクワの一撃で壊せるので、今回は黙々とクワを上下に振り回して、必須のキーアイテム『ミミズさん』を回収していった。
雨季がきたら、この陥没に水が貯まってくれたらちょっと嬉しい。
それとどうやら、ミミズは地表部分に集中して暮らしているようだ。
深いところを掘ると『黒土』とやらが一定割合で手に入るようだったけれど、ミミズの方はというと全然だった。
昨日のミミズを捨てなければよかったと後悔したのは、まあ言うまでもない。
・
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荒野の土 ×25 /9999999
→ ×206
黒土 ×0 /9999999
→ ×16
石材 ×25 /9999999
石炭 ×23 /9999999
砂利石 ×15 /9999999
→ ×21
錆鉄 ×10 /9999999
→ ×15
ミミズ ×60 /9999
小さな壷 ×62 /9999
大きな壷 ×3 /9999
武具の破片 ×5 /9999
??????の魂 ×1 /?
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西の空がレモンのような薄黄色に染まり始めた頃、ようやく目標数の調達が完了した。
ミミズは極力持ち越したくないので、後半はインベントリを開きっぱなしにしてピッタリ必要数になるまで大地を削った。
では素材もそろったことなのでさっと作ってしまおう。
インベントリからクラフト画面の『畑レベル1』の項目に切り替えて、土16とミミズ20をスロットに入れた。
後は確認ボタンを3回連打するだけで、畑レベル1とやらが3つも完成していた。
「あれ、なんかいい匂いがするな……。あ、まさかピオニーのやつ……」
家の方に目を向けると、軒先から黒い煙が上がっていた。
アイツ、俺に断りもなく芋を焼いているようだ。
「そんなにお腹が空いてたの?」
「あ、お帰りっ、ノアちゃん! ミミズさんは、取れましたかー?」
「うん、どうにかなったよ。もうクラフトも済ませて畑はインベントリの中に収まっているよ。ところで、君は何をしているのかな?」
「お芋を焼いてました! ほら見て、こっちがノアちゃんの分!」
「ああ……。ごめん、てっきり俺、ピオニーが盗み食いをしているのかと思ってたよ。晩ご飯の支度をしてくれていたんだね」
「えっへんっ! だって暗くなってからじゃ、あそこのテラスで食べられませんよー?」
「テラス? ああ、言われてみれば家や部屋っていうより、あそこはテラスって言った方が合ってるね」
「ほら見て下さい、こんなにお芋がホクホクですよー。今すぐご飯にしちゃいますかー?」
「そうだね、畑の設置が終わったらそうするのも――って、ナンジャコリャァァッッ?!!」
「え、焼きポテですけどー?」
補給物資に混じっていた小さなガーゼで、壷の口は保温されていた。
そこで焼き加減はどんなものだろうとそれをはがしてみると、そこには得体の知れないナニカが詰まっていた。
「いや、まあ、そう見えなくもない……。いやだけど……」
「だけどなんですかー?」
「これっっ?! 君と同じドット絵じゃねーかっっ!!」
調理者がドット絵生物だったのが悪いのか、焼きポテトは細かな正方形の集合体になり果てていた。
「なんだそんなことですかー、なんかドット絵になっちゃいましたねー♪」
「ましたねー♪ じゃねーよっ?! どうすんだよこれっ、ちゃんと食える物なのか……!?」
「食べれますよー? なんで食べれないと思うですかー?」
「なんでって……食べ物の形してないし……。少なくとも、人間が食べていい物には見えないよ……」
「じゃあ、あーんして下さい。勇気が出ないならピオニーが食べさせてあげますよ」
「い、いや……」
「あーんっ♪」
「え、ええっ……? ちょっと待ってっ、待ってっ、まだ心の準備が……ムグッ?!!」
「どうですかー?」
「あ……美味しい。へー、ピオニーって料理上手いね。……見た目はアレだけど」
奇妙なことに、ドット絵化した焼きポテトは絶品だった。
視覚情報はこんなにもシンプル極まりないのに、味わいは甘く繊細だ。もっと食べたいと腹が鳴るほどに、それは不可解な味わいに満ち満ちていた。
「ノアちゃんは素直じゃないですねー。あ、畑、見せてくれますかー?」
「そうだった。実は予定地も決めてあるんだ、こっちきて」
ピオニーの手を引いて、家から東側に出た。