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神様の手先の手先  作者: わやこな
冬のひしめき
33/59

三話


 豪華な部屋だった。

 ミレイスが起きた部屋よりも格段に上だとわかる。

 壁は落ち着いた色が塗られ、天井は様々な絵が描かれている。天井からは花と風を模したデザインの照明具が吊るされ、淡く輝いている。おそらく魔法で明かりがつけられているのだろう。

 窓が少ないのは、防犯のためなのだろうか。たっぷりとした毛織物のカーテンが垂らされ、外気によって揺れる窓の振動で僅かに揺られていた。隅にあるのは天蓋付きのベッドで、いろいろな道具や本が転がっているのは部屋の持ち主の仕業に違いない。

 そして、その部屋の中央で豪奢な丸テーブルに座っている子どもの姿が二人。

 正確には片方は子どもではないが、見た目の姿だけでいうなら、釣り合って見える。片方はイマチ、片方はカイハンだ。

 二人はミレイスたちが入ってきたのを見て、歓迎の言葉で迎えてくれた。


「おお、よく来たな! 目が覚めたようで何よりだ」

「お久しぶりです、ミレイス嬢。元気そうな貴女を見られるとは、本日一番の幸いです」


 ズヤウに従って近寄れば、椅子を引いて座るよう促された。テーブルをちょうど囲んで四つの椅子にそれぞれが腰掛ける。


「本日の勉強は止めにしよう、カイ。女性をもてなさないといけないぞ」

「またもっともらしいことを言うようになって……フロウリー卿、よろしいです?」


 カイハンがわざとらしく肩をすくめて言えば、壁際にじっと立っていたフロウリーが呆れたように言う。


「カイハン殿が殿下を見られるようになってから、多少はマシになっていますので。まあ、本日はこれくらいが殿下の限度でしょうな」

「む、フロウリー卿。おれは褒められて伸びる男だぞ。もっと褒めろ」

「マシになっている、が褒め言葉ですな、殿下」


 すまし顔で答えたフロウリーはまた姿勢を正して黙った。

 イマチは不満げにフロウリーを睨んでからカイハンを見たが、カイハンは手元の本を閉じて脇に避けた。よくあることなのだろうか、慣れた様子でイマチの視線を見ないふりをしている。

 次にイマチはズヤウを見たが、すぐに褒めてはくれないと察したのかミレイスに視線の訴えが来た。


「ええ、と……イマチくんはがんばっているのね? お勉強、大変かしら」


 とりあえずで褒めれば、ぱあっと表情が明るくなった。


「ミレイスは話がわかるな! そうなのだ、大変なのだぞ!」

「大変なのに、がんばるのは凄いことだわ」

「そうだ、凄いぞ、俺は」


 きらきらと目が輝いている。これでいいのだろうか。


「甘い」

「甘いですよ、ミレイス嬢」

「甘いですな」


 すかさず周りからダメ出しが飛んできた。しかし、イマチは機嫌が上昇したのか、にこやかに話題を切り替えた。


「ところでだな、ミレイス」

「はい」

「そなた、おれ付きの女官か姉か、選んでくれ」

「はい?」

「一応、どちらとも取れるような噂は、カイが流布してくれているからな。好きなほうで良いぞ」


 満面の笑みで言われて、ミレイスは左に座っているズヤウを見た。


「……あの、ズヤウ」

「ああ、もちろん。ズヤウと夫婦であることはばっちりしっかり、余すことなく広めていますからね! 安心してください、ミレイス嬢。ズヤウもとってもとっても貴女を心配していましたから、説得力抜群でしたよ。ね、ズヤウ」


 助けを求めて声を掛けると、ズヤウではなくカイハンから助け船が入った。いや、助け船というよりも楽しんでいるような声と言葉である。

 ズヤウは大きな溜息で返事をした。


「そうそう、我々のここでの身分もお教えしておきましょうね。まず我らは御方々の使いっぱしりです。まあ、これは事実です」

「ええ」


 こくりと頷けば、カイハンは自身に向かって手のひらを胸にあてる仕草をした。


「ですが表沙汰にはできません。というわけですので、私はイマチ殿下のご学友……適当な貴族籍がありましたのでそこを使わせていただいてます。大体は勉強を見てますね」

「カイは物知りだが、厳しいぞ」


 こそりとイマチが付け加える。ミレイスには十分に優しく教えてくれたが、王子ともなると厳しくいくのかもしれない。うなずいて続きを促す。


「ズヤウは殿下の護衛ですね。近衛師団に名前だけ仮所属してもらっています。もっと交流してもらいたいところですが」

「しない」

「とまあ、こんな調子ですので。たまに殿下たちの訓練を見たり、団のほうで暴れて指導しています。もっとしてもらっていいのですが」

「しない」


 ちらちらズヤウに振りながらのカイハンの言葉はことごとく却下されている。壁際のフロウリーは苦笑していた。この部屋の護衛ではあるが、大分気楽で打ち解けているのだろう。ズヤウたちのことも知った様子だ。ミレイスがフロウリーを見れば、実はと教えてくれた。


「ズヤウ殿は、御役目さえなければ勧誘したいほどです。引き留めることは叶わぬので、諦めておりますが」

「ほら。もっと顔だして、指導でもして差し上げたらどうです? ここの者たちが強くなれば、結果的に楽できるんですから」

「そう言って僕に色々と押しつけたのはどこのどいつだ。僕が今いくつ掛け持っていると思っている」

「おや? そうでしたっけ」


 笑いながら言うカイハンに、ズヤウは息を吐いた。

 護衛の名目で、イマチの稽古、師団での出稽古、さらにはイマチ配下に取り込まれた抵抗軍たちの練度上げの稽古、その上で街中の様子を探るなどとあれこれしているらしい。緊急時の執政官の護衛もすることもあるそうだ。それに加えてミレイスの世話や様子も見ていたとくれば、頭が下がる思いである。


「それで、ミレイス嬢なのですが」

「はい」

「あの杯。水の国特有の儀式道具だそうで」

「ええ、そうみたい」


 肯定すれば、カイハンは一瞬目を丸くして、すぐにまた笑顔に戻った。


「記憶にあるようですね。その道具に反応して倒れた貴女を見た執政官殿がですね、貴女に見覚えがあると言いまして」

「私に?」

「正確には、貴女の母君らしき方だそうですが、覚えは?」

「いえ……私は母とあったことはないの」

「失礼」

「気にしないで、カイハン。むしろ、私があなたたちに迷惑をかけてしまったんじゃ」


 シギの腕輪をしているのに、他者からそう指摘されるとは、ミレイスが倒れたのはよほどの事態を引き起こしたのだろう。

 まやかしやごまかしの魔法は、注意深く怪しんでみれば破れてしまうのだ。その時にミレイスの意識はなかったが、たくさん迷惑をかけてしまったのではないか。その奔走をカイハンやズヤウはしてくれたのかもしれない。


「あまり気に病まなくていい」

「ええズヤウの言うとおり。どちらにせよ、東の御方に道具を献上するときに大分騒ぎになりましたからね!」

「本当にな」


 カイハンたちは二人してうなずきあっている。イマチも同意をした。


「金腕の君さまから御礼の言葉をいただいたからなあ。館の者たちで気の弱いものなど、気絶していたぞ。近衛にもうろたえていた者がいたな? フロウリー卿」

「は。不甲斐ない……鍛え直しをしていますので」

「いや、あれは東の御方が悪い。短気を起こして、無理矢理言葉を繋いできたのが悪い」

「おかげで、ただ者じゃないと見られて得となったはいいのですけどねえ……納得いきません」


 しみじみ言い合う様子に、置いてけぼりを食らう。ミレイスが眠っている間に、色々と起こってしまったのは確かなようだ。

 かみ砕いて説明を聞いたところによると、ミレイスが倒れてズヤウが対応したその後で、シギから催促があったそうである。

 カイハンが回収してそれをもらっていいかとテネスナイにイマチとともに謁見室で相談しているところ、急にシギからの託宣が降りた。

 手元にあるなら、早くよこせ。

 そう言って、カイハンの手から杯が消えた。直後、イマチが受信したシギの言葉から「酒を入れるとさらに酩酊が深まって素晴らしい」との賛辞があったそうだ。つくづく気ままな方だと思わずにはいられない。上位の存在ともなれば、雑破に磨きがかかるのだろうか。

 ともかく、このことからミレイスが責任を感じなくてもよいと言われた。

 ズヤウたちが注意を払って目立たないようにとあくせくしていたのが、一部には暴露されて、少々やさぐれてしまっているだけだから気にするな、と。


「さて、話を戻しましょうか。それで、貴女の母君らしき人をご存知なことから、ミレイス嬢は王家関係者ではと話が持ち上がりました」

「可能性としては、おれの腹違いの姉上であるというものだな。おれはほぼ間違いないと思うぞ。あの王なら、ほかにも子がいるって思ってたからな」


 だからミレイスがこうもイマチになれた調子で話していても、叱責を受けないのだ。そして畏まった様子で館の者たちが接してくれているのも、こういうことが背景にあったから。納得したが、ミレイスは待ったの声をあげた。


「そうだとしても、その私は、死んでしまったの。それに、名前がなかったから定かじゃないと思うわ」


 ミレイスは夢で見たことをかいつまんで説明した。

 瞬間、部屋の中の空気が重く固まった。




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