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神様の手先の手先  作者: わやこな
秋にゆらぐ
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九話


 稀に、人ならざる存在たちの声を聞き取ることができるものがいる。

 それは、精霊であったり、さらにその上の存在であったり。いわゆるお告げを神様から受け取る、という人間もいる。

 滅多にいない能力であり、一般的には聞こえない声を聞くと言えば何らかの病か呪いかと疑われることが多い。

 さらには、その能力を発現するのは大抵が子どもだという。

 イマチがその才を持つかの真偽は、是である。報告をひとしきり聞いて、嫌そうにズヤウは結論づけた。


「認めたくはないが……間違いなくシギ様だろうな」

「でしょうとも。あの御方の容姿に偶然掠っているとは考えられないですね」

「ええと、キンキラで腕がたくさんの神様がシギ様?」

「神というか、ええまあ。我々にとっては神に等しい御方ですとも」


 ミレイスの疑問にカイハンが答える。

 ミレイスが見たことがあるシギはアセンシャにも勝るとも劣らぬ美貌の男だったはずだが、違う姿にもなれるということだろうか。アセンシャも色んな魔法を使えるし、同等の存在でもあるシギならばおそらく可能に違いない。なにせ、ミレイスにとってアセンシャは万能の女神に等しい御方なのだ。

 そこまで考えて、なるほど、ミレイスにとってアセンシャのような存在ということかと納得する。

 その間も、ズヤウとカイハンによる情報交換は続いて、淡々と進んでいる。


「なぜその王子に声をかけたんだ。いつもの気まぐれか?」

「ああ、それはわかります。助言のおつもりですよ、ミレイス嬢への」

「いつ聞いた」

「あの子どもと会ったときですね。うまく使って早く道具を回収してこい、だそうです」

「せっかちな」


 思い返すとイマチと話しているとき、カイハンの反応は歯切れが悪かった。その時にでも言葉を聞いたのかもしれない。これまでアセンシャやシギの伝言を何度かカイハンを通して聞いたのだ。となると、カイハンはイマチと同じような聞く能力があるということなのだろう。


「巻き込まれた以外は、何もなかったか」


 ズヤウがミレイスのほうを向いて言う。先ほどまでの道程を思い出して、首を横に振る。紙に書かれていた物はすべて買えたし、変わった出来事は報告でした通りのことだった。


「それならいい」


 心配してくれたのだろうか。ふい、と顔を逸らされたが、悪い気はしなかった。


「シギ様が仰るとおりだとしたら、私はイマチくんのところに行って、道具を探すのを手伝ってもらうよう頼めばいいのかしら」

「そう簡単にいくといいのですが、あの子の頼みが面倒そうなのですよ、ミレイス嬢」


 カイハンが考えるポーズをとって、それから両手を叩く仕草をした。にこりと幼いながらも華やかな顔が笑って言う。


「すこし歴史のおさらいしましょうか」


 カヒイの都、現執政官について話しましょうか。

 そう言って、報告後に始まったのは、カイハンによるちょっとした授業だった。少年の姿になるまやかしの魔法を解いて、砂利を用いて臨時の説明会である。

 水の国の堅牢なる都市として有名なカヒイには、水の国から執政官が任命されて統治している。

 現在は、テネスナイ・ダスィア・ミクノニス前王太后。

 テネスナイが洗礼名、ダスィアが名、ミクノニスが姓だ。ここでの洗礼名とは、王族であるという儀式を行うと与えられる名前のことである。

 前王太后は由緒正しい水の国王家の血筋であり、本人の能力も高い。

 彼女が王妃であった頃は、水の国の黄金期であったと語られることが多い、他国でも有名な女性だ。事実、前王太后の代、その前の代は安定した治世であったと書にも記されている。

 その前王太后が、なぜ水の国王都ではなく元別国であったこの街に来たのかというと、これもまた街中でまことしやかに話されている噂話がある。


 現在の水の国王家は簒奪者である。

 前王と王妃を弑して、椅子を奪い王朝を塗り替えた。


 実際に、水の国王家は前代は病没や事故死となっており、当時の筆頭貴族が貴族議会の推薦を経て戴冠している。

 前王太后の唯一の子は前王のみであり、他の側妃が成した子らは前王が即位後に、順々に貴族家へ婿なり嫁なりと下っていった。その中の一人が、推薦を受けた現王陛下である。仲が良いとはいえない関係は公にも明らかで、即位と共に僻地への退去を前王太后は命令されたそうだ。

 水の国では、彼女を惜しむ声もあったことにより、せめて大都市をと与えられたのがこのカヒイの都。さらにもう一つ二つ小さな街があるが、前王太后が居を構えているのはこの街の中心部なのである。

 そしてその前王太后は、最近幼い孫の教育を、と末の王子を一人引き取ったという。

 それが、あの王子。

 王の第14子、それも王宮の下働きである女から生まれたという王子である。


 本来であれば、見向きもされない程度の地位だが、水の王家の子どもたちは恐ろしいほど短命なのか次々と亡くなっているため、そこそこの地位にいるようだ。

 イマチが言った通り、現在生き残っている王子はイマチ含めて四人、王女が一人である。王宮内での権力争いだとまことしやかに言われていたり、簒奪したゆえの呪いだとかと言われているそうだ。

 そんな場所におけるわけがない、と強硬して前王太后がイマチを引き取ったのが昨年のこと。

 よほど仲が悪いのか、引き取るまでに相当に揉めたらしく、未だに王家より干渉を受けているとのことだ。

 それは王子が幼いながらも人格に優れていて、特別な才能があるからと言われているが、前王太后はそれを否定してこの街に引きこもっているという。


「――ですので、末位とはいえ、あの王子わりとやっかいな種なのですよ。それに後ろ盾はこの御方で、今の水の王家と関わるのでさらに面倒でもあります。簡単に面会は難しいでしょうね」

「では、お屋敷にこっそり行くのはどうでしょうか?」

「いい着眼点です、ミレイス嬢。実は昨日、調査に行っていたのですが、様子を見るに難しいかと。それに後々ばれるとやっかいでもありますから、大変遺憾ではありますが、表立って行動できるように信頼をしてもらう必要があります」

「そうなの……」


 残念だが、楽は出来そうにない。しかしそこで落ち込んではいられない。せっかく助言をもらったのだ。ミレイスは両手を握りしめて決意を込めて声に出す。


「そうね、シギ様は私に頼まれたのだから、私が頑張らないといけません!」

「いいのか」


 ズヤウが口を挟む。なんのことだと見れば、さらに続けて言われた。


「お前、水の国に記憶が関わっているんだろう」

「きっと大丈夫。それに、私がアセンシャ様以外で偉い地位の人と知り合ったことはないはずです」

「いや……それは」


 言いづらそうなズヤウの視線がカイハンに向かう。カイハンはカイハンで、ズヤウを見ていた。ミレイス以外は何かわかっているような雰囲気である。


「どうかした?」

「いや、なんでもない。僕もついていこう」

「それがいいでしょう。ズヤウは愛妻家の旦那様ですし。ねっ、ミレイス嬢」

「おい、鳥頭」

「はいっ。私、この街ではズヤウの妻役を務めてみせます!」


 張り切って言い切れば、ズヤウは言葉を詰まらせていた。反論を言おうとして失敗したような、そんな様子だ。カイハンはからからと笑ってミレイスに言う。


「明日、私があの王子を誘導してきましょう。向かうより来てもらうほうが楽でしょうし。場所は……ああ、下町の北方面に良い場所がありました。ズヤウならわかるので、二人で来てくださいね」

「時間はいつがいいかしら」

「では、午後に。今日と同じ時間帯は警戒されているはずです。私が来るまで、近くを散歩でもしていてください」

「わかったわ」


 うんうんとうなずいてから、ズヤウを見る。


「つまり逢い引きして待てってことで、あっていますよね? よろしくお願いします、ズヤウ」

「……おい、カイハン。鳥頭。どうしてくれる」


 途方に暮れた声でズヤウに指さされた。

 違ったのだろうか。アセンシャの恋物語や街中で男女の観察をしていて確証をもっていることなのだが。

 ミレイスもカイハンを見る。鳥の頭だけの姿で空中を転がって、カイハンはにこやかな調子で言って、頷いた。


「あっていますとも!」

「まて、ふざけるなよこの鳥! あれ以上のことをしながら歩けと!?」

「あれ以上? 一緒に歩くだけでは駄目なのね?」


 立ち上がり文句を言うズヤウに問いかければ、卓上に両手を置いたままズヤウはミレイスのほうを向いて、そして黙り、また座って突っ伏した。


「ズヤウ? 私、変なことを言いましたか?」

「んんっ、く、ふふ」


 おろおろと伏せたズヤウに近寄れば、カイハンの忍んだ笑いが後ろから響く。


「いやあ、本当に、末永く仲良くしてもらいたいものです」

「え、ええ。私もそう思うわ」


 わからないながらも肯定する。くぐもった「勘弁してくれ」というズヤウの声は、本気で嫌がっているというようには聞こえなかった。




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