第17話 策略
グラン王国のキールの街から東に位置する国『シンバーン国』。
城に王族が住まう場所があり、その一角に王子が住む区画がある。その一室で豪勢な椅子にふんぞり返り歳の頃は20代後半で顔、体ともに脂肪であふれている見るからに気持ち悪い男に、侍女と言う名目の半奴隷状態の女性達が半裸状態でマッサージを行っている。
「うっほっ!そこだっ!もっと強く揉め」
男が変な奇声を上げるが誰も咎める事はしない。
しかし、女性の力が強すぎたのか男が声を上げる。
「痛い!俺を殺す気か!」
男は右足を揉んでいた女性を蹴り飛ばす。
女性は蹴られた反動で後ろへ転がるが直ぐにその場に土下座をし謝罪する。
「もっ申し訳ございません!クリフ様!」
女性が謝るも気が収まらないのか男は立ち上がる。
そして女性の前まで歩くと腰に手を当てて叫ぶ。
「俺がまだ誰だか分かっていないようだな!俺はこの国の第2皇子だぞ!そんな俺に痛みを与えたお前には罰が必要だ」
女性は震えて再度謝罪するがクリフ王子は一括する。
「黙れ!」
そして王子が右手を右へ出すとすっとその手にムチが渡される。これは王子のいつもの遊びだ。人をいたぶりその者が苦しむ姿を見るのが趣味という最悪の趣味だが、この最悪の趣味を止めらる者は今はこの場にはいない。
そしてに王子がムチを振り上げた瞬間に扉がノックされる。
王子は「ちっ!」と舌打ちをした後、振り上げたムチを一度下ろし扉を開けるよう指示する。
扉を開けて入って来たのはこの国の宰相のジルアート。
年の頃は50歳で金髪の髪の毛をオールバックにした顔は優しそうな普通体形の男だ。
「失礼します。大変遅くなりましたクリフ王子」
宰相のジルアートは深々と頭を下げる。
クリフ王子は宰相を見るなりムチを捨て椅子に座り直す。
「俺の用事は分かっているなジルアート」
「はい、現在ライラ国に対して婚姻の打診をしておりますが、残念ながらまだ連絡は来ておりません」
「既に通達してから1か月は経っただろ?何故まだなんだ」
クリフは少し苛立っているのか不機嫌に問う。
「通常婚姻の締結には3か月は有します」
「それは建前だろ!そんな事を聞くために呼んだんではない!」
「失礼ながらクリフ王子は既に二人と婚姻しており、まだ二人共ご懐妊されてはいません。ですので出来ればご懐妊されてからの婚姻が望ましいかと」
「分かってないぞ。今の第1と第2夫人じゃ懐妊しないから若い娘を第3夫人に迎えようと言うのが私の考えだ」
「申し訳ございません。私の考えが浅はかでした。もう一度ライラ国には打診の手紙を送ります」
「ああ、頼むぞ。さがっていい」
「はい、失礼します」
そして宰相のジルアートがクリフ王子の部屋を出ると、部屋の中から女性の悲鳴が聞こえて来た。
それを聞きながらジルアートはため息をつく。
どうしてクリフ王子はああなられてしまったのか。昔はもう少し優しいお方だったのに。
ジルアートは速やかに宰相の自室に入りライラ国宛て書状を作成する。
そしてベルを鳴らす。
すると宰相専属の侍女が部屋に入ってくる。
「お呼びですかジルアート様」
「この書状をライラ国へ届けろ。大至急だ」
「はい、かしこまりました」
侍女は頭を下げジルアートより書状を受け取ると直ぐに部屋を後にした。
書状は早馬にてライラ国へと届けられる事になった。
*
場所は変わりシンバーン国に東西南に囲まれた小国ライラ国。
ライラ国の北は大森林に面していて、その南に小さなラーラの街がありさらに南にライラの城があるだけの小さな国。
ライラの国は元々はシンバーン国だったが数百年前に独立を果たして出来た国だ。
国の名前の由来はライラと言う一人の女性英雄から取ったと言われている。
この小さな国に対して大国シンバーンから名目上友好の証として姫の縁談が持ちかけられていた。
しかし、王と王妃はこの縁談には消極的だった。
理由は縁談相手があの有名な第2皇子のクリフ王子だからだ。
王子の暴虐武人の行動は有名で、例え婦人と言えども容赦ない仕打ちを行うと言う噂が絶えないからだ。当然その配下となるとさらに酷いと言う話だ。
シンバーン国からの縁談話から1か月、数度の会議を重ねてどのようにこの縁談話を断るかの話をしてきたがいい案が出ないでいた。そんな時にさらなる書状が届いたのだ。
書状を持って来たのはこの国の宰相であり、王の幼なじみであるフランドと言う名の男。
フランドは幼少の頃より王とは学友仲間であり、王がこの国でもっとも信頼する男だ。フランドは宰相と言う立場にあるが権力を一切振りかざす事なく、情報を重視する事により言葉にて反論する者達を説得し国を動かしてきた才に優れた男。
「フランドよ、またシンバーン国から婚姻の催促の書状が届いたとは本当か?」
会議場で王がフランドへ問いただす。
「はい、先ほどシンバーン国宰相のジルアート様より届きました」
「で、内容は?まあ、聞かなくても分かるが話せ」
「はい要約してお話します。以前お伝えした婚姻について第2皇子のクリフ王子から催促の話があり、3日以内に明確な日にちを伝えて欲しいとの事です」
「ちっ!あの腐れ王子め!常識と言う言葉をしらんのか!」
王は机を叩きながら叫ぶ。
「落ち着いて下さいあなた。常識が通じていたらこのような状態にはなっていませんよ」
隣から王妃が王に寄り添いながら優しくなだめる。
ここで宰相が声を上げる。
「どうでしょう、私達だけで議論するだけでなく王女様にも同席され、現状を把握されてはいかがでしょうか?」
「うむ」
王は顎に手を当て考えた末に了承を示す。
そして王の命令により王女アリシアがこの場に同席する事になる。
*
「お待たせしました」
王女アリシアがお辞儀をして会議の席に着く。
アリシア王女は歳は17歳で当然ながら容姿端麗で、背中まである金髪が美しい女性だ。
フランドはアリシア王女に敬意を説明し会議は続く。
少しの話合いの後にアリシアが声を上げる。
「もし、もしもの話ですが私が婚姻を断ればシンバーン国はどのような判断をされるでしょうか」
王はフランドへ目線を合わせ頷く。
フランドは王からの目線を受けて口を開く。
「私の想定ですがシンバーン国は直ぐには行動には起こさないでしょう。しかし、友好国ではなく敵国と認識して近い将来にこの国に進攻すると考えられます」
フランドの言葉を聞き一同が沈黙する。
「やはり、私が婚姻を了承すれば全てが上手くいくのですね」
アリシア王女は少し言葉を震わせながら発する。
会議に出席する一同がアリシア王女のその悲痛な表情に胸が締め付けられる。
その沈黙を破るようにフランドが声をあげる。
「お待ち下さい。私に案がありますがその前に昔話をお聞きください」
「フランドよ、そちの案と昔話は婚姻に関係があるのか?」
「ええ、もちろんです」
そしてフランドの昔話が始まった。
「今からおおよそ200年程前の話になります。場所はこの大陸より南にあるオーザリア大陸の西に位置するマダン王国。その国には我が国に隣接している大森林によく似たマダンの森と呼ばれる場所があります。その森でマダンの王族による定期的に狩りが行われていました。ある時に事件が起こりました。マダンの森に住む民が狩りをしていた際に民が放った矢が偶然狩りを行っていた王子の足をかすめる事故が起こりました。王は民に対して国で裁判を起こしました。王は表向きは裁判という手段を取りましたが裏では裁判は当然仕組まれていました。しかし裁判で王も予想していない事態が起こりました。王子が民の事を全面無罪でいいと言い出したのです。王は反対しましたが王子が一度口にした事に二言を唱える事は王家の恥と言い放った為裁判は決しました。裁判が終わった後民はもう一度王子に謝罪しました。その場にマダンの森に住む魔女が現れました。名前は名乗らなかったそうです。魔女はマダンの森の民を庇護したに置いているとの事です。魔女は王子の行動に感謝し王子の願いを何か叶えたいといいました。王子は少し悩んだ末に王子だと気づかれずに民の街を歩きたいといいました。魔女は王子の願いを叶える為に一つの魔道具を授けました。魔道具を発動すると丸一日認識が阻害され別の人間になれるものでした。王子はその魔道具を使って民の為の国づくりをしたそうです」
フランドの昔話が一区切りした所で王が口を開いた。
「その認識阻害の魔道具をどのように使うのか?」
「お待ちください。今から提案をさせて頂きます」
フランドは温和な雰囲気から険しい雰囲気に変え話し出した。
「最近北のラーラの街で魔物による被害が報告されています。そこでアリシア王女が魔物に殺された事にします」
「なっ何!」
王が声を上げるがフランドは話を続ける。
「王女にはそのまま大森林を通ってキールの街へ行ってもらい、そこからラファエルでグラン王国、南の大陸オーザリアのオーザリア王国、そして西に位置するマダン王国で魔女の弟子から魔道具を入手するまでが私の考えた案です」
「最後にでて来た魔女の弟子とは?」
王がフランドに問う。
「はい、マダン王国では王子の死後に魔女の弟子と名乗る少女が度々訪れているそうで、その魔女の弟子は使い方がよくわからない魔道具や薬などを売って、儲かった金でいろんな種類の大量の食糧を買っていくそうです」
「使い方よくわからない魔道具や薬を何故買う者がいるんだ?」
「なんでも、研究者の一部はそれを解析して何に使うかを判読した者がちらほらいるそうです。しかし、当然その者達は魔道具や薬の効果は一切話さないそうです」
「それでその魔女の弟子とは交渉出来るのか?」
フランドは王の質問に少し厳しい顔をして答える。
「申し訳ございません。現在、そこまでの情報は入っていません。しかし、ゼロではないかと私は思います」
王はフランドの言葉を聞き大きく息を吐き出し椅子にもたれた。
王が黙った所で騎士団長から声が上がる。
ライラ国の騎士団長も又王と宰相の学友仲間だが、この騎士団長は一番下から自らの力で這い上がってきた本当の実力者で、皆が認める猛者である。
「最初に大森林を通ってキールの街へ行く話だが、護衛はどう考えているのだフランド」
「はい、騎士団の者2名を護衛に着けようと考えています。当然一人は女性を希望します」
「王女を含めて3人であの大森林を無事に抜けれると思うのか?」
「正直、大変厳しい旅になると予想されます。私が考えた案の中でそこが最初で最大の難関ですが、逆に言えばそこさえ超えてしまえば後は問題ないかと思います」
「私はもう少し護衛人数を増やすべきだと思うが」
「私も最初考えましたがラファエルでの移動を考えると3人が一番見つかりにくいかと」
「それでは大森林を抜けるまであと3いや5人の護衛を付けて、抜けた後は又大森林で戻ってこさせればいいのでは?」
「大人数での大森林の行動は逆に魔物に発見されやすく、又行って戻るとなると危険を2度味わう事になり帰国は困難になると思います」
騎士団長はフランドの言葉は聞き発言を止めた。
フランドの言う通りだったからだ。部下の命をほいほいと捨てる訳にはいかないからだ。
騎士団長の話が終わった所でフランドは王女へと顔を向けた。
「王女は私の案をどう考えますか?」
王女はフランドから声を掛けられたが正直迷っていた。
大森林を超えられるのか。魔女の弟子と会えるのか。魔道具を手に入れられるのか。そして又この国に帰って来れるのかと。
「こっこの方法しか手はないのですよね」
王女は弱弱しい声で発言した。
「仮に王女が魔物に殺された事だけにしますと、その後お体を隠される場所が現在ありません。シンバーン国は当然王女が死んだとされる街へ行き聞き込みを行い、怪しいいや、怪しく思いシンバーン国内のラファエルやもしかしたらキールの街のラファエルまで抑えてくる可能性があります。ですので、本当に申し訳ありませんが、婚姻なさるか魔道具を手に入れ又この国に戻るかの2択だと私は思います」
「いや、もう一つあるぞ!」
騎士団長が声を上げるが直ぐにフランドが答える。
「戦争なぞすれば負けは確実の上、多くの国民が死にます」
フランドは騎士団長へ向け言葉を放った後、王へと顔を向け話す。
「王よご判断を」
王はフランドに言われ横に居る王妃の顔を見てお互いに頷く。
「最終判断は王女アリシアが判断する者とする。どのような判断にしろそれが最終決定とする」
王より最後の言葉が発せられた。
これは当然と言えば当然かもしれない。婚姻でも旅でも行うのは王女なのだから。
「わっわたくしは…婚姻したくありません。旅をし又この国へと戻ります!」
王女アリシアは、はっきりとした言葉で皆に伝えた。
フランドは立ち上がり声を上げた。
「王女は決断なされた。宰相フランドが命ずる。騎士団は護衛2名の選出及び旅の準備を急げ。情報部門はラーラの街での王女死亡及び偽装工作の準備を行え。王女専属侍女は旅の支度をせよ」
フランドは言い終わると王の顔を見る。
王はコクリと頷く。
「会議は終了とする」
フランドは会議の終了を宣言した。
そして命令された者は速やかに行動するのであった。




