そんなに見つめられても
夕食後、父の書斎を訪れました。
ソファに促されて座ると、父が話し始めます。
「リリーはクロムウェル騎士隊長の出自と家の事情は知っているね」
私は頷きました。
レオナルド様は庶子の出です。しかし、その背景は少し複雑です。
お父様は現クロムウェル伯爵。お母さまは元男爵家の娘と聞いています。
お二人は恋人でしたが、婚姻関係を結ぶことはできませんでした。
それは、クロムウェル伯爵に恋をしたマーガレット様が強引に結婚を迫り、お二人を引き離してしまったからです。
マーガレット様とは、王弟の母方の従妹にあたる方で、当時マーガレット様のおじい様はとてつもない権力を持っていました。
しかし、結婚したものの、お二人にお子様は恵まれず、マーガレット様はお心を病んでしまい療養先でお亡くなりになったと聞いています。
そのあと、レオナルド様の存在が分かり、クロムウェル伯爵が引き取ったのです。
それは、レオナルド様が8歳の時でした。
クロムウェル伯爵は再婚されずに現在は領地に住んでいらっしゃいます。
ちなみに、父とクロムウェル伯爵は古くからの友人で、父は当時の状況をよく知っています。
そのため、レオナルド様のことは幼いころから知っています。
父が、少し悲しそうな目で私に伝えてきます。
「彼の生い立ちは貴族のそれとは違う環境だった。そのため、彼にしかわからない感情も抱えていると思う。
それが、今、彼にとって結婚の壁となっているのだよ。それでもいずれ乗り越えなければいけない時がくる。」
父が少し目を和らげながら、私に伝えてきます。
「リリー、人は本当の意味で他人を理解することはできない。しかし、寄り添って、気持ちを軽くすることはできる。
お前には、それができると思うんだ。」
しばしの沈黙が流れました。
私は最初、何を言われたのか理解できませんでした。
(お父様は、何を言っているのですか。
私のどこを見てそんな風に思われたのですか。
協力して欲しいってことってそれですか。
小娘が大人の男性にそんなことできると思っているのですか。)
様々な疑問が頭に浮かんできます。
父が優しい目をして私を見つめてきます。
産まれたときから貴族として生きてきた私です。
何をどうしていいのかわかりません。
黙っていてもいけませんので、とりあえず聞いてみます。
「レオナルド様にもご事情があること、わかりました。
しかし、貴族の世界しか知らない私は、どうすればよいのでしょうか。」
私の返答を聞いて父は少し嬉しそうな顔になりました。
「まずは、彼ともっと話をするのはどうだい。
そうだ、彼はアンディとランディの送り迎えをしてくれているから、彼らを連れ帰った時に、
一緒に散歩に誘ってみるのはどうだ。」
父は、名案だな!とばかりに私に訴えてきます。
私は立て続けに出される父の考えに頭が追い付かず、目が点になって固まってしまいました。




