コミカライズ二巻発売記念番外編 ミリー隊長と楽しい休日を
今日はミリー隊長の家にお呼ばれしている。
朝から張り切って、お土産用のベリーパイを焼いてみた。
これまでになくよい仕上がりで、とってもおいしそう。
もちろん、ミリー隊長の分だけでなく、ディートリヒ様も分も焼いておいた。
粗熱が取れたあと、二個のベリーパイを箱に入れてリボンで結ぶ。
さっそく、焼きたてをディートリヒ様のもとへ運んで行くと、嬉しそうに受け取ってくれる。
「これは、メロディアの愛のパイだな」
「いえ、普通のパイですが」
ディートリヒ様はベリーパイが入った箱を胸に抱き、感激しきったようでいる。私の指摘など、耳に届いていないようだった。
「今日はトール隊長の家にでかけるのだったな」
「え、ええ」
ディートリヒ様に伝えたさい、駄々を捏ねるかと思いきや、「楽しんでくるように」とあっさり了承してくれた。
なんでも、嫉妬深い男は見苦しいという話を、ギルバート様から教えてもらったらしい。
寛大で余裕のある男を目指すディートリヒ様は、私を笑顔で見送ろうとしてくれる。思いっきり引きつっているけれど。
「今日はこのベリーパイの温もりをメロディアと思うようにし、胸に抱いて過ごしておこう」
「あの、ベリーパイは普通に食べてください」
このような話をしているうちに、出発時間となる。
もうひとつのベリーパイを持って、でかけることにした。
◇◇◇
フェンリル公爵家の馬車でミリー隊長の家に到着する。
ミリー隊長は笑顔で出迎えてくれた。
「メロディア魔法兵、久しいな」
「ミリー隊長も!」
ミリー隊長が腕を広げてきたので、ついつい胸に飛び込んでしまう。
優しく抱擁され、なんだか嬉しくなった――が、犬の唸り声が聞こえ、慌てて後退する。
「ぐるるるる!!」
「ひゃあ!」
蜂蜜色の毛並みを持つ大きな犬が、牙を剥きだしにしていた。
突然飛び出してきたので、驚いてしまう。
「こら!!」
ミリー隊長が怒ると、蜂蜜色の犬はビクッと驚いたような反応を示し、尻尾を股の中に入れて大人しくなる。
「メロディア魔法兵、驚かせてすまない」
「い、いえ。どうしたんですか、このわんちゃんは?」
「一ヶ月ほど前に、道ばたで拾ったんだ」
可愛らしい子犬を拾ったかのように、ミリー隊長は語る。
こんなごりごりの成犬を拾うなんて、よほどの犬好きでないとしないだろう。
そういえばと思い出す。
ミリー隊長は初めて狼化した私を保護してくれた。この犬よりも小さかったが、立派な成犬サイズだった。
あの夜、ミリー隊長がいなかったら、お馬さんたちと一夜を過ごしていただろう。
慈悲深いミリー隊長に感謝しかない。
「えーっと、このわんちゃんを、飼育されているのですね?」
「そう言ってもいいのだろうか?」
ミリー隊長は腕組みし、顎に手を添えて考える仕草を取る。
なんでも、このわんちゃんがミリー隊長の家にいるのは朝から夕方まで。夜になると、ふらっとどこかに行ってしまうらしい。
「不思議なわんちゃんですねえ」
「そうだな」
わんちゃんはミリー隊長を慕っているのだろう。私が一歩ミリー隊長に近づくたびに、牙を剥き出しにしている。
ミリー隊長の一歩後ろでしているので、バレないという巧妙な手口である。
なんとも賢いわんちゃんだ。
「今日はこのねぼすけと遊ぼうと思っていたのだな」
このわんちゃんはねぼすけ、という名前らしい。昼間、ずっと眠っているのでそう名付けたのだという。
「懐っこい犬だと思っていたのだが」
「もしかしたら、嫉妬しているのかもしれません」
ミリー隊長がそうなのか? と問いかけると、ねぼすけはそっぽを向いた。
「人の話す言葉なんて、わかるわけがないか」
「狼獣人ではあるまいし、ですね」
何かに驚いたのか、ねぼすけは突然跳び上がった。
「ん、どうした?」
ぶんぶんと首を振る様子が、なんでもないと訴えているように見えるのはきっと気のせいだろう。
「さて、これからどうするか」
「ねぼすけと遊びましょう」
「しかし、それは――」
「私、仲良くなる方法を知っているんです」
ミリー隊長の庭に転がっていたボールを手に取り、ねぼすけに掲げて見せた。
そしてそれを、庭の向こう側へと投げる。
ねぼすけは尻尾をぶんぶん振りながら、ボールを追いかけていった。
「メロディア魔法兵、さすがだな」
「犬心は詳しいので!」
そんなわけで、無事、ねぼすけと仲良くなれた。
ボールはお友達作戦、大成功である。
ミリー隊長の家で、楽しい時間を過ごしたのだった。
お察しのとおり、ミリー隊長の家の犬はメロディアと同じ狼獣人です。
ミリー隊長が主人公のお話を、いつか書けたらいいなと思っています。
タイトルは『王立騎士隊のたぐいまれなるモフモフ事情~異動先の部下が犬でした~』でしょうか。
予定は未定ですが、もしも連載を始める場合は、活動報告などでお知らせします。
話は変わりまして、コミカライズ二巻が本日発売となります。
ついに、ディートリヒの真なる姿が明らかに!? な第二巻です。どうぞよろしくお願いいたします。
またまた話が変わりまして
新連載もスタートしております。タイトルは、『私を嫌い、王家を裏切った聖騎士が、愛を囁いてくるまで』(https://ncode.syosetu.com/n4838hn/)です。よろしかったらぜひ!