コミカライズ発売記念番外編 謎の大魔法、ワンワンサークルとは!?
今日も今日とてフェンリル騎士隊に、原因不明、未解決事件が持ち込まれる。
「次々と犬が誘拐される、ワンワン誘拐事件だと!?」
ディートリヒ様が、神妙な顔で叫んだ。
なんでも番犬として庭で飼っている獰猛な犬のみ、忽然と姿を消しているらしい。
被害のあったのは、貴族の家ばかり。その一覧を眺めていたギルバート様がハッとなる。
「地図はありますか?」
「え、あ、ここにあります」
慌てて地図をテーブルに広げる。ギルバート様は羽根ペンとインクを手に持ち、被害のあった家を次々と丸で囲んでいった。
「や、やはり――!」
「こ、これは――!」
フェンリル公爵家の兄弟は何かに気づいたのか、ハッとなる。
私は首を傾げるばかりであった。
「どうしたんですか?」
「これは、魔法です!」
犬が誘拐された家から家を線で繋げていくと、魔法陣が完成するという。
「これは五百年以上前に造られた大規模魔法、ワンワンサークルです!」
「な、なんですか、その、ワンワンサークルというのは?」
「犬至上主義魔法です。犬を崇める気持ちが生まれ、犬を見れば平伏したくなるという、非常に危険な魔法なのですよ!」
「そ、そんな!!」
魔法には十五頭の犬が必要らしい。ただ、犬の命を媒介にするわけではなく、愛でて気持ちを高めるために必要とするらしい。
「では、誘拐された犬達は、生きているというわけですね?」
「ええ、おそらくそうかと」
ホッと胸をなで下ろす。
私自身が狼獣人だからか、犬を他人だとは思えないのだ。
「しかし、どうしてワンワンサークルという、とんでもない魔法が生まれたのですか?」
「それは――」
なんでも、五百年以上前に犬が大好きな王様がいたらしい。その王様が、国民に対してこれまで以上に犬を大事にするよう、魔法使いに命じて作らせた魔法だという。
「ワンワンサークルが展開された国は、酷いありさまでした」
「で、でしょうね」
犬を崇める人々は働かずに犬を信仰し、街は野良犬に荒らされて壊滅寸前。
即座にワンワンサークルは解かれ、その後禁術となった。
「この魔法陣から推測するに、次なる標的はこの家になるでしょう。十五軒目、最後の家です。ここの犬が誘拐されたら、ワンワンサークルが完成してしまいます」
「だったら、一刻も早く犬を保護するしかない!」
大急ぎで準備し、現場へと急ぐ。
貴族達が住まう住宅街の一角に、十五軒目の家があった。
そこでは犬を飼育しており、庭には二米突を超える超大型犬が飼育されていた。
「グルルルルウ」
大きな犬は私達を見るなり、獰猛な唸り声をあげる。
敷地内にやってきたディートリヒ様を警戒しているようだ。
「あの、ディートリヒ様。あの犬を誘拐するのは無理なのでは?」
「いや、可能としているのだろう。これまでも、超大型犬が誘拐されていたようだ」
「そ、そうだったのですね」
ひとまず超大型犬は別の場所に連れていき、ディートリヒ様が身代わりを務めることとなった。
「しかし、こちらのお宅の犬はブチ柄で、ディートリヒ様は真っ白い犬なのですが、騙せるのでしょうか?」
「問題ない! ギルバート、私にブチ柄を書き込め!」
「承知しました」
ギルバート様は幻術を用いてディートリヒ様が超大型犬に見えるような魔法を施す。てっきり、ディートリヒ様の体に直接ブチ柄を書き込むものだと思っていたので、ホッと胸をなで下ろした。
それにしても、犯人はいったいどのような手を使い、犬達を誘拐していたのか。
私達も幻術で姿を消し、犯人を待ち構えることにした。
あっという間に夜になる。その間に、私は狼と化してしまった。だが、そのほうが都合がいい。真っ暗闇の中でも、周囲がよく見えるから。
犯人は――現れた。
なんと、空を飛んでやってきたのだ。
「わんちゃーん、いいこでしたか~」
全身を覆うマントを着ているので外見はわからないが、声色から四十代から五十代くらいの男性であることは確かだろう。
「ほーら、おいしいお肉がありますよー」
犬を誘拐する手法は、肉で手懐けるという、ごくごくシンプルなものだった。
「君が来てくれたら、魔法が完成するんだよー」
事件の犯人だという言質は取った。すぐさま、確保にかかる。
ディートリヒ様が立ち上がり、男に唸った。
「うおおおおお!」
「え、え、ど、どうしたの!?」
驚いて尻餅をついた瞬間、ギルバート様が男性を魔法で拘束する。
「ここまでです!」
「うわあ!!」
あっさりと、ワンワンサークルを展開させようとした犯人は逮捕された……。
「貴族達が、犬を大事にしないことが許せなかったんだ。こんなに可愛い犬達を、外で飼育し、番犬として利用するなんて!」
騎士達に拘束された男は、叫び続ける。
「いつか作ってやるからな! 犬の楽園を!」
「うるさい! さっさと歩け!」
なんというか、危うく王都が大変な事態になるところだった。
無事解決できてよかった。
「私達超大型犬の可愛さが招いた事件だったか」
「そのようですね、兄上」
仲睦まじい兄弟の発言はスルーした。
今日も、王都は平和である。