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コミカライズ&2巻発売決定記念番外編 メロディアとディートリヒのデート

物語序盤くらいのエピソードです。

 ある穏やかな午後――ディートリヒ様から呼び出しを受けた。


「メロディア・ノノワールです」

「ふむ、入られよ」


 こうして呼び出しを受けるのは初めてだ。なんだかドキドキする。

 相手は犬の姿をしているとはいえ、王族の血を引く公爵だ。

 私に不思議な力がなかったら、一生会うことのない高貴なお方だろう。


 ディートリヒ様は神妙な面持ちで、私を見つめていた。

 何か、事件でもあったのか。

 それとも、私がルー・ガルーの狼獣人だと気づいたのか。


 どくん、どくんと胸が高鳴る。

 沈黙が、苦しい。

 私が胸を押さえると、ディートリヒ様の表情も険しくなっていく。

 溜めが、あまりにも長すぎた。

 我慢できずに、急かしてしまう。


「あ、あの、ご用件はなんでしょうか?」

「ああ、すまない」


 ディートリヒ様は深呼吸するような動作を見せてから、若干挙動不審な態度で話し始める。


「えーー、そのーー、おっほん。メロディアよ」

「は、はい」

「私と、デーーーーートに行ってくれないだろうか?」

「でーーー……え?」

「デーーーーーートだ」

「デーーーーーートですか?」

「そうだ」


 デーーーーーートってなんだ? と疑問符が浮かんだが、冷静になって考えてみると、逢い引きデートだと気づいた。


「あの、私に用事って、もしかしてそれですか?」

「ああ、そうだ」


 膝からくずおれそうになる。

 デートのお誘いならば、無駄に溜めずにさらっと誘ってほしかった。

 ちらりとディートリヒ様を見たら、なんだか恥ずかしそうにしている。

 もしかして、先ほどのはもじもじしている時間だったのか。

 はあと、盛大なため息をつきたくなる。


「どちらに行かれるのですか?」

「もっぱら庭だな」

「庭……」

冬薔薇ふゆそうびが美しいから、見て回ろうぞ」


 フェンリル家の庭には、品種改良した冬咲きの薔薇を植えているらしい。

 たしかに、窓から見たら美しかった。きっと、近くで見たらもっときれいだろう。


 しかし、しかしだ。

 犬の姿のディートリヒ様と庭に行っても、デートではないのではと思ってしまう。

 端から見たら、犬の散歩だ。


「だめ……だろうか?」


 ディートリヒ様は耳をぺたんと伏せ、うるうるとした目で私を見つめる。

 そういうふうに聞かれたら、断れないだろう。


「わかりました。えっと、私でよければ、ご一緒させてください」

「メロディア! 感謝するぞ!」


 そんなわけで、私はディートリヒ様とデートの約束をした。


 ◇◇◇


 三日後――ディートリヒ様とのデート当日となる。

 朝からルリさんにたたき起こされ、風呂に入るようにと言われた。


「えっ、なんでお風呂?」

「今日は、旦那様とのデートなので、身なりを整えたほうがいいかと」

「は、はあ」

「デートのあとも、何があるかわかりませんので」


 犬とデートを終えたあと、何があるというのか。

 脱力し、突っ込む元気もなかった。


 ルリさんの手でピカピカになるまで磨かれ、お風呂から上がったあとは体を拭き、髪も丁寧に乾かしてくれた。

 いい匂いがする香油を塗り込んだら、肌や髪はツヤツヤになる。

 化粧も、美しく施してくれた。


「ドレスも、本日のために新調いたしました」

「え!?」

「旦那様からの、贈り物です」


 名付けて、〝メロディアと私の、初めてのデート記念ドレス〟らしい。

 貴族の考えることってわからない。

 混乱しながらも、ドレスに袖を通す。

 髪は丁寧に編み込まれ、後頭部でまとめた。シルクのリボンを、仕上げに結んでくれる。


「旦那様が、庭の東屋でお待ちです」

「な、なぜ、そこで?」

「待ち合わせをしたいそうです」

「そ、そうですか」


 一緒のお屋敷にいるのに、なぜ待ち合わせをしたいのか。

 約束の時間まであと三十分ほどある。まだまだ余裕があるなと庭を覗き込んだら、待ち合わせ場所の東屋が見えた。

 目を凝らすと、そこに白い犬がお座りの姿勢で待っている。


「も、もういるーーーー!!!!」


 そんなわけで、慌てて東屋を目指したのだった。

 窓から見たら近くに見えた東屋だったが、庭から目指すと結構遠い。

 十五分ほど歩いた。

 ぜーはーと、肩で息をしながらディートリヒ様のもとにたどり着く。


「おお、メロディア。早いな」

「は、はあ。その、お待たせしました」

「いいや、私もちょうど今、来たところだ」


 全力で嘘である。

 いったいいつから待っていたのか。あとで、傍付きの従僕に質問してみたい。


「しばし、ここでひと休みしようぞ」


 ディートリヒ様が合図を出すと、どこからともなく侍女が現れる。

 グラスに葡萄ジュースを注いでくれた。

 ちょうど喉がカラカラだったので、ありがたい。一気に飲み干す。


「いい飲みっぷりだ」

「!」


 ディートリヒ様の言葉を聞いて、ハッと我に返った。

 一気飲みだなんて、はしたなかっただろう。


「す、すみません。もっとお上品に、飲むべきでした」

「いいや、自由に飲んでいいと思うぞ。私は気にしない」

「ディートリヒ様」

「私は、こうだからな」


 ディートリヒ様の前にグラスが置かれ、葡萄ジュースが注がれる。

 それを、舌で舐めとりながら飲んでいた。


「このように、犬だから、人間のときのように飲めぬのだ」

「そ、そうでしたね」

「だから、メロディアも気にするでない!」

「ディートリヒ様……」


 そういえば、ルリさんが言っていた。

 ディートリヒ様は飲食する姿を見られるのが恥ずかしいので、誰にも見せない、と。

 もしかして、私が気にしたので、見せてくれたのだろうか。

 きゅんと、胸が切なくなった。


「さて、そろそろ庭を見て回ろうか」

「はい」


 庭の冬薔薇は、本当に美しかった。

 ディートリヒ様は薔薇がお好きなようで、いろいろと詳しい。説明を聞くのも、楽しかった。


 一時間ほど歩き回り、デートは終了となる。


「ディートリヒ様、楽しかったです」

「そ、そうか! よかった!」


 ディートリヒ様はホッとしたような表情を見せていた。


「あ、あの、メロディア」

「なんですか?」

「また、デートに誘ってもいいか?」

「ええ、いいですよ」

「感謝する」


 そんなわけで、第二回のデートの開催が決まった。

 一応、念のためにドレスはいらないと釘を刺しておく。


「ペンダントや腕輪だったらいいのか?」

「それもダメです」


 どうしても、何か贈りたいようだ。だったらと、ひとつだけ提案する。


「庭にあるお花を一輪、私にください」

「そんなものでいいのか?」

「それがいいんですよ」

「そうか。だったら、前日の夜から、最高の一輪を探してみせよう」

「いや、そんなに時間をかけて探さなくても結構です!」


 なんていうか、加減というものを知らないらしい。

 あまりにも突き抜けた行動力だったので、笑ってしまったのは言うまでもなかった。 

タイトルにも在りますとおり、フェンリル騎士隊のコミック化&2巻の発売が決定しました!

漫画はゼロサムオンラインで、連載スタートしました。

挿絵(By みてみん)

https://online.ichijinsha.co.jp/zerosum/comic/fenmofu

担当いただくのは、牛野こも先生です。

可愛く楽しく、描いていただいております。

挿絵(By みてみん)

第2巻はオール書き下ろしで、モフモフ姿に戻ってしまったディートリヒと、同時に現れた不思議な子どもを取り巻くエピソードとなっております。

シリアスっぽい内容ですが、コメディ全振りですのでご安心ください。

2月25日発売です。

第2巻も、しの先生に担当いただきました。挿絵もモフモフ盛りだくさんです。ご期待ください。

どうぞよろしくお願いいたします。

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