番外編 ディートリヒ、犬時代の名残を盛大に引きずる
狼魔女からの呪いが解けたディートリヒ様であったが、犬時代の名残を引きずっていた。
それは――犬のときの行動が抜けきっていないというものである。
主に、私の前でのみ出るのだが……。
「メロディア、帰ったぞーー!!」
ディートリヒ様は全力疾走で私に近づき、ぎゅっと抱き上げてくるくる回る。
それだけならばよかったのだが、最後に頬をぺろっと舐めるのだ。
本人はそれを、盛大に気にしている。
「うわあああ、また、メロディアを舐めてしまったぞ! なんたる甘美な味! ではなくて! す、すまないメロディア~~」
途中、変なことを口走ったものの、毎回反省しているようなので許してしまう。
ディートリヒ様は人としての人生よりも、犬としての犬生のほうが長い。いきなり、人間としての暮らしに適応しようとしても、難しいのだろう。
他にも、ある。それは、「散歩」という言葉に異常に反応したり、走っていたら全力で追いかけてきたり、隣に座る私にすり寄ってきたり、手を差し出したら、お手をしてきたり。
私も、ディートリヒ様のその行動に引きずられてしまう。
あまりにも嬉しそうに「散歩に行くのか!?」と聞くので頷いたり、追いかけっこしたり、すり寄ってきたら「よーしよしよし」と言って頭を撫でたり、お手をした瞬間「いい子でしゅねー」と言いかけたり。
さすがに、愛玩動物用の品物を売るお店のショーウィンドーに並んだ首輪を眺めていたときは、「しっかりしてください! ディートリヒ様には必要のない品です!」と言ったのだが。
しかし、その発言後、ディートリヒ様はしょんぼりしていた。思わず買ってあげようかと思ったが、待て待てと我に返る。
人間の姿で犬の首輪なんかつけていたら、確実に変態だろう。さらに、ご主人様は私ということになる。
変態同士、お似合いの二人になってしまうわけだ。
ただ、可愛い面もある。
ディートリヒ様は夜、熟睡すると大きな体を丸めて眠っているのだ。狼の姿となった私は、その可愛さに床をごろごろ転げ回っている。
あとは、首を傾げる仕草。あれは、完全に犬時代の名残だろう。
成人男性はあまり見せないので、キュン!! となってしまうのかもしれない。
これは、絶対指摘したくないのだが、余所様の家でやったら大変なので、一応注意しておいた。
すると、首を傾げる仕草に私が大変萌えていることを知ったディートリヒ様は、狙ってやってくるようになったのだ。
あざとい!! と思いつつも、毎回可愛い!! と思ってしまうのだった。
と、このように、ディートリヒ様は犬時代の名残を盛大に引きずっていた。
主に私の前でだけやるので、もしかしたら全部狙ってやっている可能性がある。
そのたびに、「愛い奴め」と思うようにしていた。