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エピローグ それから二人は……

 狼魔女は滅んだ。正確に言ったら、呪いが解けたと言ったらよかったのか。

 光魔法の発動後、私は気を失ってしまった。ディートリヒ様が、運んでくれたらしい。それを大勢の騎士に見られてしまったのだ。

 もう、王立騎士団には戻れないと思った瞬間である。

 狼魔女は砂の一粒も残らずに、消えてしまったらしい。古城は封印がかけられ、誰も立ち入ることができないようにしたようだ。

 狼魔女の呪いは恐ろしいものだった。

 フェンリル家の愛する人に姿を変え、愛する人が狼魔女に見える呪いをかけていたなんて。

 ディートリヒ様の弟であるギルバート様が呪いにかからなかったのは、愛する存在がいないからだった。そのおかげで、戦力面においては大変助かった。フェンリル家の兄弟が二人揃って襲いかかってきたら、対処できなかっただろう。

 勝利の鍵は、ギルバート様が握っていたのだ。


 狼魔女は滅んだが、フェンリル騎士隊第一騎兵部は存続するように決まったようだ。

 王立騎士団で対処できない事件を、継続して引き受けるようだ。

 ディートリヒ様率いる第一騎兵部は、ほどよく忙しい日々を過ごしている。

 私はディートリヒ様を支えるばかりだ。

 ある日の休日、ディートリヒ様に呼び出された。

 何やら緊張の面持ちでいる。


「ディートリヒ様、どうかしたのですか?」

「うむ。まず、座ってくれ」


 そう言って、ディートリヒ様は自身の膝を叩く。座ってくれと勧める位置がおかしい。

 私はディートリヒ様の向かいに座った。すると、ショックを受けたような表情となる。


「メロディア、なぜ、私の膝に座らない」

「膝を勧めて、では失礼しますねと座る人はいないと思いますが」


 再び、ディートリヒ様はショックを受けた表情を浮かべていた。しかし、すぐに真顔に戻る。ゴホンと咳払いをしたあと、本日二回目のとんでもない発言をしてくれた。


「では、フェンリル騎士隊の隊長として命じる。メロディア・ノノワール、私の膝に座れ」


 そうきたか。しかし、その命令はお断りした。


「今は勤務時間外ですので、命令は聞けません」

「そうだった!」


 ディートリヒ様は頭を抱えて悔しがる。


「むう、どうしたらメロディアは私の膝に座ってくれるのだ!」

「あの、勤務時間内でも、座りませんからね」

「なぜだ!」

「恥ずかしいので」


 今度は、しょんぼりとしてしまう。何度も言っているが、ディートリヒ様のしょんぼりに私は弱い。


「メロディア……お願いだから、私の膝に座ってくれ。内緒話がしたいんだ」


 下手したてに出られると、さらに弱くなる。少しくらいならば、座ってあげてもいいだろう。私は立ち上がって、ディートリヒ様に声をかける。


「私、重たいですよ?」

「大丈夫だ」


 私の体重が重たいのを否定しないディートリヒ様が面白すぎる。

 恐る恐る座ったが、ディートリヒ様の膝は安定感があった。


「メロディアの尻は、柔らかいな」

「その感想はいりません」

「すまない……本心が口から出てしまった」

「お願いですので、頭の中でだけ考えておく、ということを覚えてください」


 ディートリヒ様は本当に、素直な人だ。こんな人を、他に知らない。


「こうして、ゆっくり話をするのは、久しぶりだな」

「だってディートリヒ様、一時期私を避けていましたよね?」

「そ、それは……私は、メロディアに剣を向けてしまった」

「けれど、待てと言ったら、待ってくれましたし」

「メロディアが待てと言ったら、絶対に待つよう心に決めていた」


 ディートリヒ様は、呪いに打ち勝る精神力を持っていたのだ。


「しかし、剣を向けたことは消えやしない。あの時は、本当にすまなかった。もう、メロディアと共に過ごす資格など、ないのだと思っていた」

「ディートリヒ様……」

「しかし、私の人生に、メロディアは欠かせないことに改めて気づいた」


 ディートリヒ様は私を抱きよせ、耳元でそっと囁いた。


「愛している」


 熱烈な愛の言葉を聞き、胸がぎゅっと掴まれたようになる。


「私はもう、フルモッフの姿になれないが、結婚してくれないだろうか?」


 求婚の言葉に、笑ってしまった。


「ディートリヒ様、なんでフルモッフを出すのですか?」

「メロディアは、フルモッフの私のほうが、好きなのだと思って」

「大丈夫です。フルモッフでなくても、ディートリヒ様のことはお慕いしておりますので」

「え?」


 ディートリヒ様がきょとんとした顔で、私を見つめる。


「え、ってなんですか?」

「いや、まさか、メロディアが私を好いていることなど、思ってもいなかったから」

「あの、好きでもない相手の膝になんか、座らないですからね」

「私が駄々をこねたので、仕方なく座ったのだと」

「ありえないです」

「そ、そうか。よかった。本当に、よかった」


 ディートリヒ様は私の胸に顔を寄せ、深い深い息をはいている。

 まさか、私の好意が伝わっていなかったとは。ディートリヒ様の正体がフルモッフだったということ以上に驚いてしまう。


「ディートリヒ様のほうこそ、私でいいのですか? 夜、狼になりますし、平民育ちですし」

「メロディアがいい。メロディアしか、いないのだ」

「ディートリヒ様……」


 ディートリヒ様を抱きしめ、そっと囁く。


「ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いいたします」

「メロディア!」


 泣きそうになりながらも、嬉しそうな表情を浮かべるディートリヒ様の額に、そっとキスをした。

 すると、お返しに頬に唇が寄せられる。


「メロディアは、お肌がすべすべだな。食べてしまいたい」

「だから、そういうのは、言わなくてもいいんです!」


 もうダメだ。笑ってしまう。

 ディートリヒ様と話をしていると、心の中が温かいもので満たされていく。

 私は、本当に幸せ者だ。


 ◇◇◇


 それから、一年半後に私達は結婚した。

 私が平民なので、貴族の家に養子に入ったり、礼儀を習ったりするのに時間がかかってしまったのだ。 

 ディートリヒ様はヤキモキしていたようだけれど、私は少しずつ家族ができることの喜びを噛みしめていた。


 長年、狼魔女の呪いに苦しめられたフェンリル家だったが、今はみんな楽しく暮らしている。

 物語は、めでたしめでたしで幕を閉じるのだった。


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