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最後の戦い その五

 ディートリヒ様は王立騎士団に狼魔女の討伐協力を依頼。すぐさま、承認されたようだ。

 ギルバート様は騎士達のもとへ出向き、狼魔女についての説明を行う。

 今まで、狼魔女の存在は隠されていた。しかし、協力を得ることになった今、隠し通すことは止め、包み隠さずに告げたようだ。

 狼の魔女の手下である狼の中には、強力な呪いを持つ存在がいる。咬み付かれたら出血が止まらないなど、大変な事態となるのだ。

 呪い付きの狼は、光を怖がる傾向にあった。そのため、聖なる刻印が刻まれた光の加護付きのお守り(アミュレット)を作成し、騎士一人一人に配られることになった。

 狼魔女の狼と戦う訓練も始まる。ディートリヒ様も騎士団に行って、指導しているようだ。

 一方、私はディートリヒ様の代わりに執務を行う。一日中部屋に籠りきりの生活を送っていた。

 忙しい日々を過ごしているので、ディートリヒ様と逢えるのは夜だけだ。

 ロマンチックな夜の逢瀬に──なるわけがない。

 私は狼と化し、喋ることができなくなるからだ。

 夜、何をしているのかと言うと、庭に出て楽しい楽しいボール遊びをしていた。


「ほ~ら、メロディア、ボールを飛ばすぞ!」

「わふ~~」


 ……いや、「わふ~~」じゃなくって。

 自分の鳴き声に内心突っ込みつつも、ボールが飛ばされると追わずにはいられない。

 跳ねるボールを、跳躍して口で受け止めた。すると、ディートリヒ様が拍手をして喜ぶ。そこから、全力疾走で戻り、ボールを返す。


「メロディアは偉いな。ボールを拾いに行くのが早くて」

 ディートリヒ様が私の頭を優しく撫でてくれる。自然と、尻尾が揺れてしまった。


 しようもないことで褒められたのに嬉しいのは、犬の習性なのか。

 そういえば、ディートリヒ様も返事ができて偉いと褒められた時も、誇らしげだった。きっと今の私も、誇らしげな顔をしているに違いない。

 息切れするまでボール遊びをした私達は、庭の真ん中で敷物も敷かずに座った。

 今日も、すごく楽しかった。

 最近はもっぱら、趣味:ボール遊びになりつつある。昼間は運動不足なので、ちょうどいい。

 ディートリヒ様が、天に向かって指を差す。


「わ……!」


 空には、大地に降り注いできそうなほどの星空が浮かんでいた。今まで、ボール遊びに夢中で気づかなかった。

しばし星を見上げていたが、ディートリヒ様が独り言を囁くように話し始める。


「とうとう明日から、遠征が始まるな」

「くうん」


 三ヵ月にも及ぶ準備の末、ついに明日から『人喰いの森』への遠征が始まる。

 私も、光魔法を武器として戦いに参加する。

 私の調子もいい今が、きっと最終決戦のタイミングなのだろう。


「長かった……本当に、長かった」


 千年という時は、想像できない。その年月を、フェンリル騎士隊は果敢に戦ってきた。その戦いに、決着を付ける時がきたのだ。


「フェンリル騎士隊は、千年も魔女と戦ってきた。信じられないな。それに、幼いころから父や周囲の親戚に、絶対に近寄るなと言われていた、人喰いの森へ行くのだ」


 ディートリヒ様を見上げる。表情が強張っているように見えた。

 狼なので、夜目が利く。そのため、表情もはっきり捉えてしまうのだ。


「メロディア……」


 ディートリヒ様はいつも堂々としていて、隙がない。けれど、まだ二十三歳の青年なのだ。一族の悲願のすべてが、ディートリヒ様の背に圧しかかっている。日々、感じている重圧は、半端なものではないだろう。


「ギルバートには、ついて来いとか、大丈夫とか、大きな態度でいるが、本心は、違うのだ。ものすごく、恐ろしい」

「くう……」

「情けないな、私は」


 肩が震えているように見えた。

 やはり、私には想像できないほどの期待が、ディートリヒ様のもとに集まっているのだろう。

 ディートリヒ様の地面に突いている手に、私の手を重ねる。

 狼の手なので、微妙に「お手」っぽくなっているけれど、「傍にいるよ」という気持ちは伝わるだろうか?

 ディートリヒ様はハッとなり、私を見下ろす。少しだけ、泣きそうな顔をしていた。

 肩に身を寄せ、冷え切った体を温める。運動で温まった犬科動物はぬくぬくなのだ。


「メロディア……ありがとう。勇気が出た」


 そう言って、淡く微笑んだ。私の気持ちは、どうやらきちんと伝わっていた。

 再び空を見上げていたら、キラリと星が瞬き、流れていく。流れ星だ。

 流れ星に願いを三回唱えると、叶うという。

 私の願いは──フェンリル騎士隊が、狼魔女に勝つこと。

 一瞬、ディートリヒ様の幸せもと思ったけれど、これは流れ星に願うことではない。

 たぶん、ディートリヒ様は私が一緒にいたら、幸せなのだ。だから、彼の幸せは、私が叶えてあげることにした。

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