表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりの女神は愛されたい  作者: のりおざどりる
第一章 終わりの女神と黒い狼
8/42

神殿長と吟遊詩人の会話2

もうひとりの主要人物のお話の続き

「ロア神殿長。グエムニル様をお連れいたしました」


 応接間へ入ってきたデルメールは左手で剣の柄を抑え、右手で左胸を一度叩く。兵士の敬礼のポーズだ。

 デルメールは視線だけで素早く部屋全体を見渡す。シュランクがいないことに気づいたのか小首を傾げた。

 身長に似合わない可愛らしい仕草に思わずくすりと笑ってしまう。


「ありがとうデルメール。こちらへお招きして」

「はっ!お呼びいたします」


 デルメールが応接間から出ていき、すぐに戻ってくる。

 その横には真っ黒なローブで顔を隠した人物が入ってくる。

 そう、人物としか言いようがないのだ。顔はかろうじて鼻から下が見える程度であり、それで前が見えるのか問いかけたいぐらいだし、真っ黒なローブはとてもゆったりとしており、身体のラインも完全に隠してしまっていて、男性か女性かすらわからない。

 背負った大きな楽器はフェストラだろうか、正面からでは先っぽの方しか見えないのでそれも断定できない。

 デルメールは女性と言っていたが、どうやって確かめたのだろうと不思議に思った。


「やぁ、小さな神殿長さん。ほんとうに小さいですね。今五歳でしたでしょうか」


 真っ黒ローブの人物がわたくしにそう話しかけてくる。

 鈴を転がすような声を聞いてやっと、あぁなるほど、確かに女性だとわかった。

 しかし、その言葉は良くない。

 『古い友人』と言っていたので、ある程度気安い感じなのはわかるが、どう考えても初対面の言葉だ。

 デルメールの目が鋭くなっている。


「グエムニル。わたくしにも立場というものがあるのです。確かにまだ若輩ではありますが」

「これは失礼いたしました。ロア神殿長殿。お目通りいただき感謝しております」


 グエムニルは恭しく礼をする。デルメールのグエムニルへ向けた視線が若干マシになった。


「デルメール。わたくしはグエムニルと二人きりで話がしたいわ。席を外してくれないかしら?」

「なっ!?そ、それはできません!」


 デルメールが目を白黒させながら抗議する。

 自分が守るべき対象とよくわからない人物を二人きりにすることが許せないのはわかるけれど、二人きりにならないと話ができないのだ。

 なんとか言いくるめないと。しかし、良い言葉が思いつかない。

 ふと、グエムニルと目が合う。いや、目はローブに隠れていたのでそんな気がしたというだけだが、彼女はやれやれと言った感じで肩をすくめてから話しだした。


「デルメールさん。会ったばかりのわたしを信用できないのはわかります。しかし、ここはわたしではなく、ロア神殿長を信じていただければと存じますわ。自らの主を信ずることができる騎士こそ、本当の騎士。そうは思いませんか?」


 グエムニルはローブに手をかけ、顔を出しながらそう言った。

 ぱらりと紫色の長髪がローブからこぼれてくる。紫の瞳で柔らかく微笑みながらデルメールに顔を向ける。

 わたくしが女性でなければ見とれてしまうような美人だ。デルメールも女性なので色仕掛けは効かないだろうと思うけど、容姿というものが与える印象というのはなかなか侮れない。

 デルメールは「ですがぁ」とか「そのぉ」とか「しかしぃ」とか言いながらたじたじになっている。

 グエムニルは微笑みながらデルメールの言葉を一つずつ論破していく。これは任せておいて良さそうだ。


「うぅ、わかりました。ですが、扉の外に控えさせていただくのはご了承くださいぃ」

「うふ、ありがとうデルメールさん。こんな無理を言ってしまって申し訳ないわ。よければわたしとお友達になりませんか?」

「あうぅぅ。神殿長ぉぉ」


 グエムニルはデルメールを論破しながら少しずつ距離を詰めていっていたので、今はグエムニルとデルメールがキスをするのではないかと思うぐらい近い。

 デルメールは壁際に追いやられ、縮こまっている。とはいえデルメールが長身なのでそれでもグエムニルが見上げる形なのだが。


「グエムニル。デルメールを虐めるのはそのぐらいにしていただけないかしら?」

「あら、虐めてなんていませんよ?とても可愛らしい方なので少し近づきたかっただけですわ」

「はぁ……デルメール。貴方は部屋の外へ。グエムニル、ソファにお座りください。お話をしましょう」


 デルメールは名残惜しげに視線をわたくしに向けながら部屋から出ていく。

 ソファに座ったグエムニルはテーブルの果実水に口をつける。あら、美味しいとにこやかに笑う。


「さて、グエムニル。単刀直入に聞きます。貴方は誰ですか?」

「あらあら、予測はついているのでしょう?いきなり答えを求めるのは無粋だわ」

「えぇ、そうね。当ててみましょうか?」


 グエムニルはクスクスと笑う。


「まぁ、最初のヒント……『小麦畑、狼、運命の糸は知っている』でほぼ答えを言っているのですけどね。」


 わたくしは果実水で口を湿らせる。

 ほぼ間違いないけれど、もし違っていたら致命的になる答えを言うのだ。少しばかり緊張している。


「『運命と物語の女神』グエランシエル。そうでしょう?」

「うふふ、正解。さすがは私の妹、フロディアちゃん」

「妹ではないですよ。オルディナ様に貴方よりあとに作られたってだけじゃないですか」

「あら、あとに生まれたのだから妹のようなものじゃなくて?」


 グエムニル、いや、グエランシエルがクスクスと楽しそうに笑っている。

 わたくしは思い出す。生まれ変わる前のことを。

 そういえば、この女神はいつもわたくしをからかってくるから苦手だったのだ。……嫌いではないのですけれど。


「それでお話というのは?会いに来ただけというわけではないのでしょう?」

「そうね、貴方が物語に上がった。だから会いに来たの。」

「そう……貴方の権能ね」


 『運命と物語の女神』グエランシエル。彼女の権能は特殊だ。

 未来と過去を見る力。そして望む結末を手繰り寄せる力。

 しかし、いつでも好きに使えるわけではない。彼女が見えるのは物語のみ。

 自分の運命は見えず、凡百の人の運命もまた見えない。

 見えるのは英雄譚や悲劇喜劇、あらゆる物語として後に語られるような者の運命のみ。

 手繰り寄せる運命もまた、その人物の物語を劇的なものにする手助けが出来るぐらいだ。


 そして、その物語に、わたくしの名前が出てきた。

 名前が上がったという言い方から、主役というより登場人物として出たということだろう。多分。


「フロディアちゃんの名前が物語に上がったから、貴方が生まれ変わってることに気づけたのよ。だから来ちゃった」

「来ちゃったじゃないですよ……。わたくし、これでも今中央神殿の神殿長やってますので、そう気楽に会える立場じゃないんですよ?」

「うふふ、それは知ってるわ。でも私の権能の裏技を使えば……ね。この通りよ」

「はぁ、ということはデルメールも物語の登場人物なのね。」


 権能の裏技とは簡単な話だ。物語として登場人物の性格とか考え方を事前に知っているので、どう対応すれば望む答えにたどり着くのか事前に予想が立てれるというだけの話だ。

 もちろん完璧なものではないので、うまくいかないことも多いらしい。


「まぁいいでしょう。で、もう一度聞きますけど、ただ会いに来ただけではないのでしょう?」

「もう、すぐ結論を聞こうとするのはフロディアちゃんの悪いところですね。でも、まぁ、いいでしょう。答えましょう」


 答えましょうと言ってから、ゆっくりと果実水を口にする。グエランシエルはいつも勿体ぶる。


「私とフロディアちゃん。生まれ変わりはこの二人だけではないわ。もうひとり。いるの」


 勿体ぶってグエランシエルは告げる。

 しかし、これはわたくしの予想の範疇だった。


「それは居るでしょう。だってわたくしが居るのですから。わたくしだけが特別と思うほうが可怪しいのです。」

「あらあら、びっくりする顔が見れると思ったのに」

「うふふ、それにですね。実は生まれ変わる可能性がある神々にはある程度予測がついているのです。今日貴方が来たことでより確信を持てました。」


 今度はわたくしが勿体ぶって果実水に手を伸ばす。

 コクリと甘い果実水で喉を潤し、指を五本立てて手を突き出す。


「わたくしの予想では、生まれ変わる可能性があるのは五柱です。貴方とわたくしを含めてなので、残りは三柱ですね」


 グエランシエルがびっくりした顔をしている。彼女にこんな顔をさせれることが滅多にないので気分が良くなってくる。


「フェンリルによって殺された神々。それが条件です。寿命……終わりの女神メルディアスの力によって定められた終わり以外に死んだ者。といったほうが正確ですね。最初にフェンリルに殺された貴方、次に殺された『水と流れの神』エンデリンデ。そしてフェンリル討伐に参加した三柱、『原初の女神』オルディナ様、『戦いの女神』ヴァイラリント、そしてわたくし。どう?」


 わたくしは自信満々に指を折りながら生まれ変わる可能性がある神々を上げていった。

 グエランシエルはうんうんと頷いて話を聞いていた。


「すごいすごい、そこまでわかってるんだフロディアちゃん。それじゃあ私が答えを言わなくても大丈夫だね」

「ふふん、もちろんよ。」


 得意げになっていたわたくしは見逃していた。このときのグエランシエルの顔はいたずらを思いついたときの笑顔だった。


「そうそう、フロディアちゃんが物語に関わってくるのは四年後からだから、もうひとりの生まれ変わりに会えるのはその時になるわ」

「四年後……ずいぶん未来ね。」

「あら、フロディアちゃん。もう完全に時間間隔が人間になっているのね。」

「それは仕方ないですよ。だってもう人間なんですもの。」


 それもそうね。と言いながらグエランシエルは肩にかけていたフェストラに手を伸ばす。


「それでは、せっかく会えたのだし、私の新作をお披露目しましょう。」


 わたくしがなにか言う前にトントンとフェストラを叩きながら奏でだす。

 グエランシエルは物語の女神だ。だから生まれ変わる前もこうして自分がしった物語を歌にして歌っていた。


「これはまだ完結していない物語。ある一人の騎士の物語。」


 そうして、グエランシエルは歌いだした。

 それは悲哀の物語。フェンリルに戦いを挑む騎士と愛する姫の物語。

 たとえ死んでも、生まれ変わって貴方に会いに行くと告げた騎士は、フェンリルに噛み殺されて死んだ。ただ、それだけの話だった。

ということで、終わりの女神以外の転生女神が出会う話でした。

次は少し時が飛んで四年後になります。

セナの赤ちゃん時代が終わって幼少時代。ようやく物語が動き出せる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ