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終わりの女神は愛されたい  作者: のりおざどりる
第一章 終わりの女神と黒い狼
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シスター・ディアナ

更新が遅くなりましたーーー!

また活動再開します。これからまた週一更新目指して頑張るぞ

 シスター・ディアナは戸惑っていた。

 

 ディアナは孤児院で働きだして3年目になる。

 もともと子供が好きだし、面倒見がいい性格で、子供たちからも好かれやすいディアナは子供の世話がそこまで苦にはならなかった。

 孤児院のシスターはまさに天職だったのである。

 

 さらに、自分の子と夫に流行り病で先立たれ、精神的な拠り所を求めていたディアナは、孤児院の子共たちへ愛情を注ぐことで自分の居場所を孤児院に見出していたのだ。

 黒髪黒目で、周りから忌避されるディアナにとって、自分の居場所というものはなによりも大切なものだ。

 ずっと蔑まれながら生きていける人間はいない。子供たちに慕われ、必要とされることはディアナにとって必要なことだったのだ。


 だから、この仕事を紹介してくれて、住み込みで働かしてくれるシスター長には感謝してもしきれない。

 もし、この仕事がなければ、亡き夫と娘を追って自殺していた可能性すらあるのだから。

 

 そんなディアナなので、仕事は常に一生懸命だ。

 手を抜くことはないし、子供たちへの愛情も忘れない。

 

 孤児院の仕事は長いとは言い難いが、子供たちの世話において右に出るものはいないと自負している。


 しかし、そんなディアナは一人の赤ん坊への接し方で戸惑っていた。

 8ヶ月前に孤児院の前に捨てられていた子だ。

 

 拾われた当初は、生まれて間もないようで、髪はまだ産毛しかなかった。

 よくウゴウゴと動き回る子で、抱き上げるとじっとこちらを見つめてくる子だ。

 拾った時は気づかなかったが、綺麗な ーそう思うのはディアナだけだがー 黒髪と黒目をしている子だ。

 ディアナ自身黒髪黒目なので、そのことについて戸惑っているのではない。

 ただ、似ているのだ。流行り病で亡くなった自分の娘に。




「ディアナはいつあの子に名前をつけるんだい?いつまでも黒髪の子とか、黒目の子じゃかわいそうだろ?」

「いえ、それは……」


 部屋の掃除をしているわたしに、シスター長が声を掛ける。

 これもわたしが戸惑っていることの一つだ。なぜかわたしが名付け親になることがシスター長の中で決まっているらしい。

 

「いいじゃないか。あの子もディアナによくなついてるんだし。おまえもまんざらじゃないんだろ?」


 それにあの名前をそのまま使うわけにはいかないしねぇと、シスター長は苦虫を噛み潰したような顔になる。

 捨て子には、すでに名前をつけている場合が多い。

 何かしらの理由で育てれなくなった子なんかは特にそうだ。

 赤子の場合はゆりかごの中に名前を書いた木板をいれていたりするのだ。

 そして、例の子にも名前がつけられていた。

 木板に書かれていた名前は「メルディアス」。一体何を思ってその名をつけたのかと正気を疑う名前だ。

 「メルディアス」、それは誰もが知っていて、誰も口にしたがらない名。終わりの女神の名前だ。間違っても自分の子供に付ける名前じゃない。

 それに、幼名を飛ばして成人名をつけるのも問題だ。


 普通、名前は10歳までは2~3文字の幼名を使い、10歳以降になって初めて4文字以上の成人名を名乗ることができる。

 たとえばこの場合なら「メル」という名をつけて、10歳以上になって「メルディアス」と名乗るようになるのだ。

 しかし、木板には幼名がなく、ただ、「メルディアス」としか書かれていなかった。いろいろ非常識だ。


「そうは言ってもですね……そう、すぐ名前なんてつけれないですよ」


 わたしの煮え切らない回答にやれやれとシスター長は首を振る。


「あんなにあの子に構うくらい気に入ってるから、すぐに名前ぐらいつけれると思ってたんだけどねぇ」

「気に入ってないわけじゃないですよ。でも、だからってすぐ名前がつけれるわけじゃないだけで」

「はいはい、わかったわかった。」


 シスター長がしっしと手を振る。これ以上は話が堂々巡りになるので仕事にいきなさいという合図だ。

 別にわたしが仕事をサボってたわけではないし、仕事中に話しかけてきたのはシスター長なので少しだけ釈然としない気持ちを抱きながら掃除道具を片付け、食事の用意をするらめに竃へ向かう。



 竈へ向かいながら、あの子の名前について考える。

 でも、あの子の姿を思い浮かべながらだとどうしても自分の娘の名前しか浮かばない。娘と同じ名前をつけるのは、なんか嫌だ。娘にも、あの子にも不誠実な気がする。


「でも、それ以外思い浮かばないからどうしようもないのよね。困ったわ」


 あの子が娘の生まれ変わりならいいのに……

 思考の堂々巡りの結果、そんな益体も無いことを考えてしまう。

 あんなに似ているのだからあり得ないこともないような気がする。なんて、何を考えているのだろうか。


「きっとこの前の吟遊詩人の歌が原因ね」


 食材を買いに行く時に、中央広場にいた旅の吟遊詩人。

 黒いローブで顔を隠し、弦楽器と打楽器が合体した楽器のフェストラを奏でながら歌っていた、騎士とお姫様の恋物語。

 最初から聞いていたわけではないので、全ての内容を把握しているわけではないけれど、決して生きて帰れないようなところへ行く騎士が、死んでもまた私として生まれ、あなたに会いに行くと、姫に告白するような話だった。

 やけに耳に残る歌声だったので、それに触発されてしまったのだろう。生まれ変わりなんてあり得ないのに。


 でも、もし、生まれ変わりというものがあったとして、あの子が私の娘の生まれ変わりだったら。それはどんなに幸せなことだろうか。

 私の娘に……セナに与えたくても与えれなかったこの愛情を、全力で注いで、セナの幸せを願う。そんなことができたなら。


「ディアナお母さん」


 声が、聞こえた。

 昔、聞いたような声だ。

 振り返れば、そこにいたのはあの黒髪の子。

 思わず、周りを見渡す。

 タチの悪いイタズラじゃないかと思って。先ほどまでの自分の思考を否定するように。

 だけれど、周りには誰もいない。ここには私と黒髪の子しかいない。


「ディアナお母さん」


 今度は、しっかりと目があった時に呼び掛けられた。

 あぁ。間違いない。

 孤児院の子はみんなわたしをシスター・ディアナと呼ぶ。ディアナお母さんと呼ぶのは、一人しかいなかった。


「セ……ナ……?」


 それでも、信じられなくて、声が上擦る。

 本当に生まれ変わりというのがあるのだろうか。


「はい。セナです。ディアナお母さん」


 黒髪の子は、迷うわたしにそう言った。

 そうか、セナなんだ。ここにいたんだ。

 気がついた時には、かまどの火のこととか、生まれ変わりなんてありえないとか、そういういろいろなことを全て投げ捨ててセナを抱きしめていた。


「あ……あぁ!セナ!セナ!」


 もう離さない。大切な大切なわたしの子。


 強く強く抱きしめられたセナは、満足そうに笑っていた。

亡くなった自分の娘の生まれ変わりだと思い込んでました。

このすれ違いがのちにいろいろなるかもしれません

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