3 終わりの女神は役立ちたい2
日曜日にあげる予定だったのが少し遅くなりました。
最低週一更新したいという目標は守れてるので、まぁ良しとしましょう。
赤ちゃん時代はできることが少ないのでサクサクと行きたいですねぇ
それからの8ヶ月の月日が流れた。
その間にやったことといえば、自由に動けるようになるためのトレーニングと、発声練習だけだ。
発声練習の成果として、とりあえず話せるようになった。
しかし、まだ拙くて舌っ足らずだ。
ディアナお母さんに発表するにはもう少し上手く話せるようになってからと決めていたのでまだ披露できていない。
私はわりかし完璧主義者なのだ。
運動の方は4ヶ月ぐらいたってからハイハイができるようになり、さらに最近になり、なんと立ち歩きができるようになった!
立ち歩きができるようになったのがとても早いので、ディアナお母さんもすごく驚いてた。
うっふっふ、私、やれば出来る子!
立ち歩きができるようになったことで、色んな所へ行けるようになり、情報収集も今までに比にならないほど捗った。
ということで、集まった情報を吟味してみよう。
まず、ここはオルト女神教孤児院というらしい。
オルトというのがこの孤児院が属する国の名前で正式にはオルト王国、そのオルト王国唯一の孤児院で女神教傘下の施設なので、オルト女神教孤児院。
ちなみに、王国の首都に孤児院があるわけではなく、馬車で3日ほど離れた街にあるらしい。
孤児院がある街の名前はキュラストという。
キュラストはオルト芋が特産品らしく、街の外に広大な芋畑が広がっている。
オルト芋は栄養価が高く、成長も早く、大量にでき、塩害にも強い。
味は良く言えば淡白。悪く言えば味があまりしない。
塩ゆでにしたり、魚醤で味付けしたりして食べるのが主流だ。
さて、オルト芋のことで、塩害に強いとか、魚醤とかの単語が出てきたことから分かる通り、キュラストは海にも面している。
オルト芋と、塩と、魚介。それがキュラストの経済を支えている。
それらを王国や近隣の町へ卸すことで、王国に匹敵するほどにキュラストは発展した。
人々はそこに夢や生活を求め更に集まる。
しかし、もちろん全員が成功するわけではなく、こういった街にありがちなスラムなんかも存在する。
結果、孤児が溢れ、孤児院が出来たというわけである。
孤児たちは孤児院に預けられ、そこで育ち、一般常識や、キュラストで生きるための知識として、オルト芋の栽培、塩業、漁業について学ぶ。
そして10歳になると、その中で一番得意なところへ仕事にいく。
オルト女神教孤児院は、子どもたちが働いて得たお金、国からの援助金、そして女神教のお布施で運営されているわけである。
15歳になると、完全に孤児院からでていく。
大体は普通に仕事につくが、中には冒険者となって魔物狩りをしたり、遺跡探索をしたりするものもいる。
魔物というのは神話の時代からいた、別名「ルルフェナの失敗作」と呼ばれるものたちだ。
総じて凶暴で繁殖力が強く、人に害なす存在だ。
人に害なす存在であるがゆえに、誰かが魔物を狩らねばならない。
魔物を狩った者には冒険者ギルドから褒賞金がでる。
冒険者にはギルドに登録さえすれば誰でもなれるため、定職に就けなかった者の最期の仕事と言われている。
中には大活躍をして英雄のような扱いを受けている冒険者もいるらしいが、これは極々一部である。
次に文明や文化の話だが、文明レベルはまだ私の研究結果には追いついていないようだ。
電気はもちろん、蒸気機関もまだなさそうである。
動力はもっぱら人力や馬や牛など動物が賄っている。
キュラストは比較的発展した街だ。ここで見当たらないなら、きっと世界的に文明はそのレベルということだろう。
これは大いに活躍する事ができそうだ。
あと、特筆すべきことは、魔法の存在だ。
魔法……人が人の身で起こす奇跡の力。
これは神話の時代には無かったものだ。
誰もが使えるものではなく、選ばれた才能あるもののみが使うことができるらしい。
魔法が使えるものは魔法使いと言われ、王国に召し上げられる。
魔法が使えるだけで、人生勝ち組というわけだ。
一度、孤児院に魔法使い様が来た事があった。
土の魔法使い様らしく、孤児院の壁のひび割れを瞬く間に補修していった。
土の神が持つ権能とくらべ、出来ることは少なく力も弱い。
魔法とは、神の権能の力の一部を使っているように感じた。
神話の時代にはなかった力に私は目を輝かせた。
人がこれほどの力を持ったのかと感動した。
そんな目で土の魔法使い様を見ていたら、魔法使いに憧れる子供と思われたのか頭を撫でられた。
とまぁ、この街と、孤児院についてはわかったことはこんな感じである。
これ以上は誰かに聞いたり、学んだりしなければいけないだろう。
例えば……ディアナお母さんに教えてもらったり。
ディアナお母さんは、あれ以降「大好きよ」と私に言ってくれることはなかった。
それに最近は、私を見て戸惑ってるような、ともすれば避けられているような気がする。
なんでだろう、わからない。
だけど、このままだとディアナお母さんが離れていきそうで、ただただ不安だ。
だから、今日、ディアナお母さんが一人でいる時に「ディアナお母さん」って呼びかけることにした。
8ヶ月で一人立ちできて、しかも話せるとなるととんでもなく早熟だ。
だからきっと優秀な子としてディアナお母さんに認めてもらえる。
そうしたら、きっとまた私を見てくれる。
それと、どうしても気になることが一つ。
私の名前って、なんだろう。
まだ、一度も誰からも名前で呼ばれたことがない。
呼ばれるときはいつも、「黒髪の子」とか「黒目の子」とかだ。
いや、そりゃまぁ私は黒髪黒目ですけど。それってただの特徴じゃん。
確かに黒髪黒目の子が少ないらしいのはなんとなくわかったよ。
だけど、同い年でまだハイハイしかできない赤毛で青目のベアちゃんはちゃんと名前で呼ばれてる。
不公平じゃん。私も名前で呼ぶか、ベアも「赤毛の子」とか「青目の子」って呼ぶかしないと不公平じゃん。
ということで、今日の目標は「ディアナお母さんと呼びかける」と「名前を聞く」の二つだ。
そして、今まさにその目標を果たすために行動している。
この時間帯はディアナお母さんはみんなの食事の準備のためかまどに居る。
火を起こして、オルト芋を塩水で茹でるのだ。
ちなみに私の食事はヤギの乳にオルト芋と豆を煮溶かせたものだ。
これは朝に作ってるので、今は作っていないだろう。
よたよたと転ばないように気をつけながら、かまどがある中庭へ行く。
そこには目論見通りディアナお母さんがいた。
ディアナお母さんはかまどに火を入れているところだった。
起こした火を育てるためかまどの方に注意が向いている。
そのため、まだ私には気づいていないようだ。
私は落ち着くため深呼吸する。
落ち着け、落ち着いてゆっくり話せ。完璧にこなしてみせろ。
意を決して、声をかける
「ディアナお母さん」
ビクリと、ディアナお母さんが反応する。
ゆっくりとこっちに振り向き、私と目が合う。
そしてキョロキョロと辺りを見渡す。
あれ?思ってた反応と違うぞ?
もしかしなくても、これは私が声をかけたと気づいてない?
そりゃ今まで話せなかった子が、ママみたいな簡単な言葉じゃなくて、いきなり名前で呼びかけてくるなんて思わないよね。
では、もう一度。今度はこっちを見ている時に
「ディアナお母さん」
再度呼びかける。
今度は私が喋ったと間違いなく認識したはずだ。
その証拠に、ディアナお母さんの顔が驚きで染まっている。
「セ……ナ……?」
声かけ作戦が上手くいって安心した私に、ディアナお母さんはそう答えた。
ん?
セナ?
誰それ?
落ち着け、冷静に考えろ。
今、この場には私とディアナお母さんしかいない。
そして、私がディアナお母さんに呼びかけた反応がこれだ。
それが意味することは……
ある閃きが頭によぎった。
私は応える。
「はい。セナです。ディアナお母さん」
そう、簡単な推理だ。
私とディアナお母さんしかいなくて、返事が「セナ」
ならば、それはつまり私の名前がセナだと言うことだ。
私はこれしかないと思い、自信満々に「セナです」と言い切る事にしたのだ。
「あ……あぁ!セナ!セナ!」
ディアナお母さんは火を起こしている途中のかまどをほっぽりだして、すがりつくように私を抱きしめた。
お?おぉぉ?
この反応は想定外だぞ?
想像では「もう喋れるなんて凄いわ。自分の名前もわかっているのね!偉いわ!大好き!」って言う感じになるはずだったのだ。
でも現実では、名前を連呼されながら抱きしめられてる。
あ、でもこれはこれで悪く無いかも。
なんだか久しぶりにディアナお母さんに抱きしめてもらったかも。
むふむふと、鼻息を荒くしながら、ディアナお母さんの抱擁を満喫していると、ほっぺにディアナお母さんの唇が押し付けられた。
こ、ここここ!これはまさか!
ほっぺにチュー!?!?
た、確か、ほっぺにチューは愛情表現だったはず!
あ!ああああ!愛情表現!!!愛!!情!!表!!現!!
興奮しまくった私は、にへにへと笑いながらディアナお母さんの熱い抱擁を満喫するのだった。
ということで、主人公の名前がやっと判明しました。
次回は幼少期ぐらいまで一気に飛ばします