3 終わりの女神は役立ちたい1
日曜日更新といったな。あれは嘘だ。
なんといくつかコメントを貰っていました!
もちろん全部拝見してます。お返事は……緊張しちゃうのでしない方向で。
コメントありがとうございます。やる気がモリモリ湧いてきたので筆が走って更新しちゃいます。
神話 7日
原初の女神オルディナと最初の女神ルルフェナは、6日間語り明かした。
1日目は空について。空が殺風景では寂しいとルルフェナは月を作った。
2日目は火について。何も無い作りたての大地は寒く、暖かくあれと、オルディナは火を作った。
3日目は海について。オルディナの涙でできた海はしょっぱくて飲めなかった。ルルフェナは真水を作って湖や川を作った。
4日目は木について。大地にはまだほとんど何も無いので、オルディナが木々や草花を飾り付けた。
5日目は大地について。なだらかな草原だけしかなかったが、変化が欲しいとルルフェナは山脈を作った。
6日目は再び空について。ルルフェナが作った月を羨んだオルディナは太陽を作った。そして夜と昼をそれぞれ管理することになった。
6日間の語らいで、世界は見違えるほど美しくなった。
しかし、世界には二柱の女神しかいなかった。
それを二柱は惜しいと思い、命を生み出した。
数多くの獣、数多くの鳥、数多くの魚、数多くの虫、そして人間。
こうして7日間で世界は作られた。
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少し、落ち着いてきた。
大好きショック、通称DSKSから立ち直った私はもう何度目になるのかわからない自分の状態の確認を行った。
ちなみに、立ち直るのに三日かかった。
たった三日で立ち直った私に拍手である。
さて、ではその間に集めた情報も加味して考えていこう。
まず、私は人間の赤ちゃんだ。これはもう間違いない。
女神というのは、役割を持って完全な形で生まれる。つまり赤ちゃんという期間が無いのである。
今の私は赤ちゃんであるからして、逆説的に女神ではないと言えるわけだ。
そして自分の身体は人型であり、しっぽなどはないし、ツノも鱗も毛皮もない。
手と足がそれぞれ2本。指は5本。
私が知る限りで、この特徴の生き物は人間だけだ。
ということで人間の赤ちゃんだという確信を得たわけである。
さて、となると二つほど確かめねばならないことがある。
一つ目は権能はどうなったのかだ。
権能とは女神が持つ世界に対する絶対的優位性のことだ。
女神として生まれたものは必ず役割とそれに見合った権能を持つ。
例えば豊穣の女神フロディア様なら生命の輝きに対する優位性である「生命」だ。
手をかざすだけでタネから芽が出て大樹になったり、枯れ果てた草木を蘇らせたり、人々の怪我を治したり出来るすごい権能だ。
人々の役に立つとてもうらやましい権能である。
ちなみに私、終わり女神の権能は「死と期限」。
終わりが無いものに終わりを定める力と、既に定まっている期限を短くする力だ。
終わりを定める方は私の意志にほぼ関係なく発動する。
その結果、女神として生まれた瞬間、終わりのなかった神話の世界の全てに期限を定めてしまったらしい。
制御もできないので自分の意志で発動もできない。
なので自分にだけは期限を定めることはできなかった。
もう一つの力である期限を短くする力は制御可能で、自分の意志で発動でき、対象も定めれる。
出来ることは終わりの期限を短くするだけで、それ以外は出来ない。
ただ終わりが定まっているモノなら、手をかざすだけで期限を0にできる。つまり殺せるのだ。
強力無比だが、期限を短くするしか出来ず、伸ばすことは出来ない。
そして、終わりの無い存在にはなんの意味もなさない。
汎用性はなく、あまり使いたい力では無い、忌むべきものだ。
そんな権能だが、人となった今も使えるのかどうか。これは調べる必要があるだろう。
もし、使えないのであれば、それはつまり私はもう終わりの女神でもなんでもないただの人間ということだ。
世界の全てに終わりを定めたという赦されることのない罪を私は背負っている。
だが、死んで力を失い、ただの人となったのなら……それはもしかしたら許されたということなのではないだろうか。
この第二の人生を普通の人のように生きていいということなのではないのだろうか。
誰かに、愛されることも出来るのではないだろうか。
そんな期待をもってしまう。
そういう期待をしてしまうことも許されないはずなのに。
とはいえ、試さないことには実際のところはわからないし、試すとしても試して良いものが必要だ。
それが手に入るまでは、わかりようが無いのでとりあえずは保留である。
二つ目は自分に終わりがあるのかどうかだ。
女神でなくなって人になったし、そもそも一度死んで転生したのだし、以前のように終わり無き存在ではなくなっている可能性が非常に高いと思われる。
これを試すのはわりかし簡単だ。
つまりは致命傷を負えばいい。
もし、以前のように終わり無き存在のままなら致命傷は即座に癒えてなくなる。とてもわかりやすい。
問題は試したときに終わり無き存在で無くなっていた場合は、自分が死んでしまうことだけ。
……以前の私ならじゃあ試そうってなるけど、それはできない。
もし終わりの女神としてではなく、人間として普通に生きられたなら、誰かに愛される普通の人生を生きれたなら。
それは、私が追い求め、決して手に入れることが出来なかったものだ。
生まれ変わったことで、もしかしたら、それが手に入るかもしれないのだ。
私がそれを願うのは、わがままかもしれもしれないけど。
致命傷を負うことは試せない。試したくない。
ということでこっちも保留だ。
うむうむ、今できることがなくなってしまったな。
ではどうしようか。と、思考し始めたときにそれはもうすごい不快感が私を襲った。
赤ちゃんの身ではその不快感を堪えることができず、私は思わず泣き叫んでしまう。
んぎょおおおおおお!とか、ぶええええああああ!みたいな品性のかけらもない叫び声をあげる。
恥ずかしいがこれはもうどうしようもないのだ。
理性を総動員して止めようとしても、赤ちゃんの本能は凄まじく理性のほうがねじ伏せられてしまう。
それはこの三日間で嫌という程わかった。
お腹が空いては泣き、眠くなっては泣く。
そういうものなのだ。
そしてこの不快感で泣くパターンは……!
「あらあらどうしたの?この泣き方はうんちかな?」
そう、うんちである。
そして私の泣き声にすぐに反応し、さらに泣き声だけでうんちだと見抜いたこの女性は、三日前に私にDSKSを起こさせた張本人。ディアナさんである。
というかディアナさんはすごい。
泣いてる本人ですらわからない違いを聞き分け、的確に何をして欲しいかを察知し、さらにどんなにびちびちうんちでも嫌な顔一つせず綺麗に拭き取ってくれる。
おかげで私のお尻はかぶれ知らずのさらさらのキューティヒップだ。
これが、その、……だ、大好き……パワーなのかな、フヒッ
そんなことを考えていると思わず顔がにやけてしまう。
女神の時ならまるで不審者のような顔になっていただろうけれど、今は赤ちゃんなのだ。ニヤケつらも愛らしくみえるらしい。
その証拠に
「可愛い笑顔ね。お尻キレイキレイで気持ちよかったのかな?」
とディアナさんが言っている。むふー。
しかし、この三日間。ディアナさんから「大好きよ」が聞けたのは最初の2回だけである。
まるで麻薬のように強力な多幸感に包まれる「大好きよ」を私はもう一度聞きたい。何度でも聞きたい。
強く強くそう願っているのだが、なかなか聞けないのだ。
やはり、赤ちゃんという身に甘んじて、世話をされているだけではダメなのだろう。
そもそも待っているだけで「大好きよ」と言われるなら、私の前世の努力は一体なんだったのだと憤慨してしまうだろう。
そう、前世の私は、誰かから愛されるためものすごい努力と勉強をしたのだ。
最後のほうには結局どれだけ頑張っても終わりの女神のままでは愛されないという結論に達して、自暴自棄のぐーたら女神になってしまったが、そうなるまではそれはもうものすごい努力をしていたのだ。
どれぐらいの努力かというと、その時の私の研究施設と居住区の文明レベルは軽く数千年分は先に進んでいたほどだ。
役に立つ権能を持っていないのだから、別の分野で役立って、人々に愛されようと、女神の知力をフルに活用し、研究に明け暮れた。
そしてひたすらに知識を溜め込み、いつか誰かの役に立ち、愛されたいと願った日々。
そして結局最後まで愛されなかった前世。
……あ、なんかすごく落ち込んできた。
とにかくだ。その時に得た知識はまだこの頭の中にある。
生まれ変わるのに何千年何万年もかかって、今の文明レベルが私の研究成果を上回りましたとかいう話で無い限り、この知識は必ず役に立つはずだ。
なので知識面ではたぶん問題はない。
あとはこの知識を活かすために、まず立てって歩けるようになること。
そして、泣き叫ぶだけじゃなくてきちんと話せるようになること。
当面の目標はこれでいいだろう。
そしてディアナさんの役に立って、また「大好きよ」って言ってもらうのだ!
ということで、さっそく立って歩けるようになるために、身体を鍛えることにする。
じたじたととにかく身体を動かす私。
そして身体を動かすだけでなく、動かしながら口を動かし、発声練習も並行して行う。
最初に言う言葉はもう決めている。
その言葉を口にだすために、必死に何度も発生するが、口から出るのは「いえあおぅああ」とか「いえああおおぁあ」とか何言ってるのかわからない音だけだ。
でも諦めない。
練習して練習して、そして何より最初に「ディアナお母さん」って声を出すんだ!
私はディアナお母さんと呼びかけて、ディアナさんが「大好きよ」って返してくれる情景を妄想しながら、ひたすらじたじたと身体を動かすのだった。
?
そろそろ世界観の話をしたい。
多分次回はそんな感じ