表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりの女神は愛されたい  作者: のりおざどりる
第一章 終わりの女神と黒い狼
10/42

4 終わりの女神のお手伝い2

筆がのったときは更新するに限る。

 さて、なんのかんのとトラブル回避のお話をしましたが、孤児院の周辺は安全なので本当に念の為でしかない。

 孤児院は貴族街と平民街の間にある商業区の貴族街寄りの場所にある。


 なんでこんな立地かというと、まず孤児院が国営なのが一つ、平民街やスラムに作ると管理が難しいからという理由。もう一つは貴族のお客様が来やすいようにだ。

 小さい頃……今も小さいけど……は気づかなかったが、どうやら貴族様が孤児たちを従者として召し上げていくことがあるらしい。

 聞いた話ではそう悪くない待遇らしいので召し上げられるのを目標にしている孤児もいたりする。

 どういう基準で選ばれてるかは私はよくわからないので私やベアが召し上げられるかどうかはわからない。


 まぁそんな訳で、孤児院はキュラストで2番目に治安がいい地区にあるのだ。

 そうそうトラブルなんて起こらないのだ。


 ベアとお話ししながら牛車を引いて孤児院の門をくぐる。


「おい、そこの孤児ども。」


 門を出た瞬間呼び止められた。声色に若干の敵意を感じる。

 あれぇ、治安いいはずなのになぁ……




 呼び止めてきたのは3人組の子どもだ。見た感じ私と同い年ぐらいに見える。

 先頭にいるの男の子は何度か見たことがある。茶色いショートヘアで紺色の瞳をしている。確か貴族の……名前なんだっけ。


「アルさま。なにかごようじですか?」


 ベアが先頭の子どもに返事をする。貴族が相手なので敬語を頑張ってる。

 っていうか、そうだ!思い出した!アルだった!

 名前を思い出してスッキリした私は思わずポンと手を叩いた。

 アルが物凄く怪訝そうな顔でこっちを見てくる。やめて、見ないで。


「おま、お前……もしかして俺様の名前を忘れてたのか!?」


 アルが愕然とした顔で見てくる。

 取り巻きの子どもたちが有り得ないものをみた表情をしている。

 仕方ないじゃない。だって興味なかったんだもん。


「まさか、そんなはずありません。アルさまの名前を忘れるものなど、このキュラストにおりませんよ!」


 取り巻きがそう言いながら私をガン見してくる。

 なんと反応したらいいのかわからないので曖昧に微笑んでおこう。にこー。


「セーねぇなら忘れてても仕方ないよ。だってアルさま。セーねぇに勝ったことないもの」


 敬語はもう何処かへ置いてきてしまったようだ。いつもの口調でベアが火に油を注いでいく。

 私は神童としてここら辺では有名だ。その弊害として、子どもたちがいろいろな勝負事を挑んでくるのだ。

 それはかけっこだったり腕相撲だったり果ては計算勝負や読み書き勝負、ボードゲームもあった。

 私はその全てで勝利を収めてきた。立場の弱い孤児院の子どもだ。舐められるわけにはいかないのだ。

 勝ち続けるうちに相手もどんどん変わっていった。農民の子から商人の子、果ては貴族の子とも勝負をした。

 アルはその中の一人というわけだ。


「まえの計算はや解き勝負で、アルさまは解き終わるまでの時間も正解数も負けてたでしょ。セーねぇはぜんぶ正解ですぐに解いちゃったもん。セーねぇの方がすごいの!」


 ベアがふふんと胸を張る。かわいい。でも貴族様を怒らせるようなこと言わないで。


「ぐぅ、敗者たる俺様ではまだ言い返すことができない。」


 アルが悔しそうに強く握った拳を震わせる。意外と素直だ。

 その後、キッと鋭い視線で私を見た。

 嫌な予感がする。


「神童セナ!お前にアルが勝負を挑む!」


 ビシィっと私を指差して宣言する。

 えぇぇ、私今ディアナお母さんのお手伝い中だから嫌なんですけどぉ。早くお使い終わらせて「セナ大好きよ」って言って貰いたいんですけどぉお!!

 断ろうと口を開きかけたが、ベアの反応の方が早かった。


「望むところよ!セーねぇはアルさまになんか負けないもん!何で勝負するの?選ばせたげる。」


 ちょっとベア何言ってるの!?

 このときにすぐになにか言っていたらもしかしたら回避できたかもしれなかったが、私は唖然として何も言えなかった。


「よし、では木剣で決闘だ。木剣は自分で用意するんだ。無ければ代わりに使えそうなものならなんでもいいぞ」


 アルとその取り巻きがニヤリと笑う。

 なにそれ、めちゃくちゃ私不利じゃん。

 アルは確か専属の騎士に剣の訓練を受けているって話を以前聞いたことがある。しかもとても優秀だそうだ。

 それにそもそも私は木剣なんて持ってない。多分孤児院にもない。木剣が用意できない以上、箒とか、そこらへんの枝とかで代用するしかない。

 いや、流石にこれは不利過ぎて話にならないし断ろう。


「あの、流石にそ」

「もっちろんそれでいいわ!セーねぇが負けるわけないもん」


 ベアぁぁぁあああ!!!!

 私は心の中で叫んだ。声に出して叫んだら近所迷惑なのでそれは我慢できた。

 ベアを睨みつける。あ、ダメだ。期待に満ちた目で私を見つめてきてる。

 切れ目な青い瞳がキラキラと輝き、私に対する絶対的と言っていいほどの信頼を写している。

 あぁもう!そんな目で見られたら、頑張ってみるしかないじゃん。


「わかりました。それでいいです。いつやりますか?」

「今からだ。俺様の木剣はここにある」


 アルが腰に差している木剣を指差した。

 なるほど、しっかりとした作りの木剣だ。半端な枝を選んだら数合の打ち合いで枝が折れてしまいそうだ。

 さて、となると私の剣はどうしようか。箒は確かに頑丈な樫の木で作られているけど、長さや重心が振り回すには向かない。手頃な長さの枝を探すのも街中では難しい。

 うーんと頭をひねっているとベアが木の棒を持ってきた。

 え、形は不恰好だけど私が振り回すのにすごくちょうどいい長さなんですけど。どこにあったの?


「ベアこれはどこにあったの?」

「牛車の車輪にさす車止めだよ。かたい木の枝だからたぶんだいじょぶ。」


 どう?とベアが首を傾げながら私を見る。かわいい。

 車止めに使う枝なら多少雑に扱っても折れない頑丈さがある。流石にあの木剣とまともに打ち合うとすぐに折れてしまうだろうけど、まともに打ち合う気はないので充分な強度だろう。

 試しに軽く振ってみる。ビュンと風を切る音が鳴る。うん、問題なく振れそうだし、これなら勝負できそう。


「大丈夫そうね。アル様、詳しいルールはどうしましょう?」

「そうだな、剣を落とすか、剣が折れたら負けだ。もちろん降参してもな。」


 私の枝でアルの木剣を折るのは不可能だ。木剣をはたき落とすか負けを認めさせるしかない。

 アルの剣を下手にガードしたら私の枝が折れてしまって負け、場合によっては私の攻撃をアルが弾いただけでも枝が折れてしまって負ける可能性がある。

 やっぱりめちゃくちゃ不利だなぁ。

 でも、これだけ不利なルールで勝てたらアルとの格付けは終わりそう。そうなったら、これ以上ちょっかいを出されることもなくなると思うし……

 あれ、これは今後のために圧倒的な勝利をもぎとるべき?

 そうと決まれば全力で相手をしよう。


「わかりました。ルールはそちらが決めたのですから、審判は私が指定しますね。ベア、お願いします。」

「え、ちょ」

「うん!任せて!」


 アルが何か言う前に審判をベアに決めてしまう。これで多少は優位性を手に入れたかな?

 アルは一瞬だけ悔しそうな顔をする。やはりあの取り巻きに審判をさせるつもりだったのだろう。そうは問屋が卸さない。


「では、今から木剣による勝負をはじめます!2人ともかまえて」


 ベアが声を上げる。

 アルは慌てて木剣を抜き、正面に構える。

 子どもの手には重たいであろう木剣を両手でしっかりともち、堂々とした構えだ。勝負にこれを選ぶだけはある。

 私は木の枝を片手で持ち、左手は軽く握り腰へ回す。身体を横に向け半身で構える。

 ふふふ、剣が使えないと思ったら大間違いだ。

 私は前世で剣術もしっかりと学んでいるのだ。努力家時代バンザイ!

 武器の差が勝負を決めるわけではないと言うことを教えてやろう。


 アルは私の雰囲気が変わったのを感じたのかジリと少し後ずさる。しかし、木剣を握りなおしキリと睨んできた。


「はじめ!」


 ベアの声が響く。

 ジャリとアルの靴が地面を踏みしめる音が聞こえた。


 来る!


「やあああああ!」


 カーーーン


 アルは掛け声とともに木剣を振り上げる。

 と同時に、私は右足を踏み出しアルが振り上げている木剣を下から跳ね上げる。

 アルが木剣を持ち上げる力に私の力を足すようにして跳ね上げることで枝へのダメージは抑えつつ、大きな衝撃をアルに与えることが出来る。

 アルは木剣の重さと勢いに振り回されるように後ろに仰け反る。不意を突いたのに木剣を手離さないのは見事だ。

 私はがら空きになったアルの懐に滑り込み、首に枝を当てる。

 アルの取り巻きは何が起きたのかわからなかったのかただ驚いた顔をしている。ベアはキラキラとした目で私を見る。


「参りましたは?」

「う、うるさい!木剣を落としてないし、降参してないからまだ負けてない!」


 アルはそう叫び、体幹の後ろに流れた木剣を無理やり横薙ぎにする。

 無茶な体勢からの攻撃、子どもの力では速度がでない。後ろに下がり木剣の届く範囲から離れる。


 アルはなんだかんだでセンスがいい。

 今の横薙ぎも速度こそ出なかったが、あの体勢からバランスを崩さずに出せるのは天賦の才能だろう。私にはできない。


 距離をとった状態でアルはゆっくりと木剣を大上段に構え直す。

 ……正解だ。本当にセンスがいい。


 アルの筋力では重い木剣を早く振ることはできない。横薙ぎや切り上げは私の驚異にはならない。注意すべきは上段。木剣の重さを乗せた上からの振り下ろしだけだ。

 振り下ろしならアルの筋力でも速度がでるし、私の枝では受け止めたらすぐに折れてしまうほどの威力も出る。とはいえ、振り下ろしは前動作として木剣を振り上げが必要だ。ここが隙きとなるんだけど、アルは最初から大上段に構えることでその隙きを無くしたわけだ。

 大上段の構えは相当の技術が無ければ振り下ろし以外のすべてを捨てる構えとなる。だけどそれが今は一番有効な構えだ。

 思い切りが良い。このまま成長したら、私は絶対勝てなくなるなぁ。でも、それは今じゃない。


 アルが木剣を振り下ろす。

 私は枝を振り上げる、木剣の横に添えるように。

 そのまま横へ木剣を逸らすように誘導する。全力で振り下ろしているアルにはこれに逆らうことはできない。

 木剣は私の横を素通りし、地面を強く打って停止する。

 動きの止まった木剣を上から踏みつける。私の体重と木剣の重み、地面を打った衝撃でしびれた手では耐えることはできない。


 アルの木剣が地面に落ちる。

 私は枝をアルに突きつけた。


「参りましたは?」


 木剣を落とした時点で私の勝ちだ。でも私が欲しいのは格付けが決定するほどの圧倒的な勝利。もちろん降参ももぎ取る。


「降参……だ。」


 アルが本当に悔しそうな声で答える。

 私はベアにニコリと微笑む。


「勝者!セーねぇ!」


 ベアは高らかに宣言した。

買い物に行く予定が何故か決闘してました。

次回、買い物を終わらせて「セナ大好き」って言ってもらう。お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ