双子のお姫様
むかし、むかし。ある平和な小さい王国に王子様がおりました。
この王子様、年頃だというのに一行に嫁を取ることがなかったので、気をもんだ両親が遠い国から双子の嫁を連れて来たのです。
さて、この双子はお二人とも顔がソックリで美しかったのですが、姉姫は意地が悪く家臣に無理難題を押し付けては嫌われていました。
一方で妹姫の方は心優しく家臣の揉め事をいつも穏便に納めていたので、皆は妹姫のことが大好きでした。
「これ、大臣よ。お前は宮廷で偉そうに威張るばかりで現場の苦労が一つもわかっておらん。兵士達と同じ釜の飯を食べて苦労を分かち合わないか」
と、姉姫が難癖をつけると
「大臣は仕事で忙しいのです。それに、くだらない下仕事でなくもっと重要な仕事をしているのです。そんなに怒らないでください」
と、妹姫が場を収め
「これ、農民よ。自分達だけが食べる分の作物を作るのでなく、もっと余計に作らぬか。飢饉が起きたらどうするのじゃ」
と、姉姫が難癖をつけると
「農民は自分の畑を耕す事で精いっぱいなのです。それに、飢饉などこの王国で起きたことがありません。そんなに怒らないでください」
と、妹姫が場を収め
「これ、王子よ。お前はいつも遊んでばかりだ。もっと勉強をして賢くならぬか。王になったらどうやって国を治めるつもりなのじゃ」
と、姉姫が難癖をつけると
「王子様は偉いお方なのです。勉強などする必要はありません。この王国の王様は代々そうでした」
と、妹姫が場を収めました。
王子様の元には姉姫の苦情が山のように来ましたので、王子様は姉姫が大嫌いでした。
変わって妹姫の方はいつも王子様の傍にいて支えてくれていたので、優しい妹姫の事が大好きでした。
ある日、王子様は姉姫に言います
「姉姫よ。どうしてそんなに嫌われるような事をするのか?どうして妹姫のようにやさしくなれないのだ?」
「王子様。この王国は小さく怠け者ばかりで他の国に攻められれば直に滅んでしまいます。そうならないようにしている事なのです」
なるほど、一理あるな、と、王子様は思いますが
「王子様、姉姫はいつもこうで周りとイザコザしか起こさないのです。このような話は信じないで下さい。この王国を治めるのは私や王子様の優しさなのです」
と、妹姫に言われると、やはり姉姫の方が間違っていると思い王国から追放します。
「わかしました。しかし王子様。これだけは絶対に約束してください。王子様自らが勉強してこの王国を立派な国にすると。絶対に」
姉姫は最後にそう話しました。
「わかった。絶対にそうする。約束しよう。そのかわり姉姫も絶対に王国に来てはいけないぞ。来たら命を失うことになるからね」
王子様は適当に話をして姉姫を追放しました。
それからは王子様と妹姫が仲良く暮らしました。
大臣は書院に籠って仕事をし
農民は自分の食べる分の畑を耕し
王様は勉強せずに伸び伸びとくらしました。
皆、優しく互いの事を思っていたので誰もイヤな思いをせずに暮らしたのです。
※ ※ ※
さて、10年の月日が過ぎました。相変わらず王子様と妹姫様は仲睦まじく暮らし
お世継ぎにも恵まれた頃です。
隣の国から盗賊が攻めてきたのです。
王国は大慌てとなりました。
王子様は勉強していないので、何をすれば良いのかわかりません
大臣は威張り散らしているので、兵士が命令を聞いてくれません
農民は自分の分の作物しか作っていないので、籠城の蓄えもありません
「これは困った。どうすればよいのだ?妹姫よ」
「王子様。国を治めるのは優しさです。盗賊もやさしさで包んであげましょう」
妹姫がそう言うので、王子様は敵を優しく城に迎え入れることにします。
「どうか帰ってはくれまいか。望む物は何でもやるから」
「料理をよこせ。オレ達盗賊が腹一杯に満足するような料理を」
盗賊が腹一杯になるようにご馳走を準備しました。
しかし、農民は自分たちの食べる分の食糧しか作っていなかったので王子様たちはお腹を空かせてしまいます。
「どうかこれで帰ってはくれまいか」
「財宝をよこせ。この部屋を一杯にするだけの財宝を用意しろ」
部屋が一杯になるほどの財宝を盗賊に用意しました。
しかし、大臣は兵士のお金まで取り上げて威張っていたので皆は大怒りです。
「どうかこれで帰ってはくれまいか」
「王国をよこせ。オレ達の欲望が一杯になるような王国を」
欲望を一杯にする王国を盗賊に与えました。
しかし、王子様と妹姫様は大怒りです。これでは、自分達は暮らしていけませんから。
「もういい。これからはオレたち盗賊がこの王国の王だ。ご苦労だったな。出ていけ」
盗賊にそう言われると王子様は泣き泣き王国から出ていきます。
「王国は無くなってしまったが、妹姫さえいれば満足だ。これからも仲良く暮らしていこう」
「冗談じゃあありません。王で無くなったあなたに何の価値があるというのです?金もない、部下もいない、知識もない。そんな方が一人前に暮らしていけるハズがありません。実家に帰らせてもらいます。」
妹姫様は故郷に帰ってしまいました。
困ったのは一人になった王子様です。
これまで身の回りの世話を全て使用人にしてもらっていたので何もできないのです。
農民のように畑仕事をしますが、うまくいきません
大臣のように書院で仕事しますが、うまくいきません
兵士のように王国で仕事しますが、うまくいきません
「私はどうすれば…」
※ ※ ※
一年後
王子様は盗賊の王国で乞食をしていました。
乞食なら仕事をしなくても食べ物を恵んでもらえますから、何もできない王子様にも務まったのです。
いつものように食べ物を求めていると、王子様の前に妹姫が現れます。
「苦労しているようですね。王子様。いえ、元王子様と呼ぶべきでしょうか?」
「ああ、どうか私を不憫に思うなら助けておくれ。」
「助けますとも。私はあなたのお嫁さんなのですよ」
妹姫様は強気です。これも王子様が乞食になったからです
さて、妹姫様は沢山の兵士を連れて瞬く間に王国から盗賊を蹴散らしました。
「おお!すごい。実家に帰るとは仲間を連れてくる事だったのだな!」
「王子様の前からいなくなるというのは嘘だったのです。どうか許してください」
「もちろんだとも!心優しい妹姫」
倒した盗賊を目の前に跪かせると命乞いをしてきました。
「どうか、私を助けておくれ。やさしい王子様」
「王国を統治するのはやさしさだ。私はお前から受けた仇を恩で返えそう」
王子様はそう話すと盗賊の縄を解いて逃がしてやりました。
「よくも王国を奪ったな!」
すると、縄を解かれた盗賊は突然に王子様に襲い掛かりました。
「危ない!」
盗賊は恩を仇で返してきたのです
間一髪のところで妹姫が庇って事なきを得ました。
「ああ!妹姫!」
妹姫は刺されて倒れてしまいます
近くにいた兵士たちが飛び掛かって盗賊は殺されてしまいました。
「なんという事だ!」
妹姫からはドクドクと赤い血が流れており、助けようがありません。
「王子様…。私、離れ離れになったのがとても辛かった。何よりもあなたの事を思っていたから。せめて、最後にキスをして下さい」
王子様は妹姫と過ごした毎日を思い出しました。
結婚式で初めて会った時の事
世継ぎが生まれて共に喜んだ時の事
王様が死んで王になった時の事
そしてキスをしました。
「妹姫…」
冷たくなった妹姫を悲しんで三日三晩泣きました。
大臣の前で泣きました
兵士の前で泣きました
農民の前で泣きました
※ ※ ※
一年後。王子様が王様となられて立派に国を治めていたある時、死んだはずの妹姫が突然現れたのです
「王様!帰ってきましたよ」
王様は驚きました。
「な、なぜ生き返ったのだ?まさかお前はイジワルな姉姫なんじゃないか?」
「違います。死んだほうが姉姫だったのです」
王様は全て理解しました。
そして姉姫を悲しんで三日三晩泣きました。
大臣の前で泣きました
兵士の前で泣きました
農民の前で泣きました