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あなたがいれば私は。  作者: 浜辺 琴乃
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恋を忘れるには恋

 和人に振られてから気づいたら2週間が経過していた。生まれて初めてご飯が喉を通らないというのを体験した。生まれて初めて目がパンパンに腫れるまで泣いた。まだ好きになったばかりだと思っていたけれど、再会した日からずっと好きだったのかもしれない。とはいっても、たった1カ月くらい。和人が私を好きだと言ってくれた時はもっと長く私を好きだったはずだ。私は初めて、和人の痛みを知り、本気の後悔をしたのだ。


 もう、和人に関わるのはやめよう。2週間経ってやっとそう自分に誓うことができた。自分のためにでは無くて、こんな気持ちにさせた私が和人に関わっていいはずがないと分かったからだ。


 休日だというのに今日もまた夕夏は枕に顔を埋めたまま動けなかった。その時、電話が鳴った。



『もしもし、夕夏ちゃん?』

「大島先生…」

『どうしたの?凄い鼻声だね。…あ、少し付き合ってくれない?』



 ***



「おまたせ夕夏ちゃん」


 気分転換にもなると思い大島先生に“新しく出来た中華料理屋さんで辛いもの食べない?”という誘いに乗った。



「さっそく行こうか」


 向かってる途中に大島先生は「辛いもの大丈夫?」「そこオープンする前から気になってて」「そういえばこの前食べたところはあまり美味しくなかったんだよ。リベンジかな〜」だとか夕夏に気を遣っているのかずっと他愛のない話を明るく話してくれた。



 幸い、夕夏は辛いものが大好きだった。こんな日は好きなもの食べて気分転換になりそうだ。



「まずビールと…あと何か食べたいのある?」

「んー、四川風麻婆豆腐ですかね。麻婆豆腐大好きなんで。特に辛いやつ!」

「お、いいね。テンションあがってきてるきてる」



 ニコニコ笑っている大島先生につられて夕夏もようやく笑うことができた。

 他にも何品か注文して、次々運ばれてきた。辛いものとビールがよく合う。気づいたら結構酔っ払っていた。



「私振られたんです」



 酔いが回ってか突然泣きながらそんな話をしてしまった。お酒のせいだ、抑えが効かない。



「えっと…和人くん、だっけ?」

「はい…」

「見る目ない男もいるんだなあ」

「も〜大島先生真面目に話してください」

「なんで?言ってなかった?俺、夕夏ちゃんのことすごく好きだけど」



 突然のことで驚き、でもすぐに我に返った。



「お酒飲んでるからってからかわないでくださいよ〜」

「付き合おうよ」

「だから…」

「本気だよ。ずっと可愛いなって思ってた」



 私のことが好きだったから彼女ができなかったと言った。これは夢だと思った。和人に振られたショックでこんな夢を見ているんだ。


 ギュッとほっぺたを引っ張った。


 ああ、なんてことだ。夢じゃない。目の前にいるお兄ちゃんのように慕っていた大島先生に告白されている。イケメンで優しくて誰もが彼と付き合いたいと思うような人に、私が。



「とりあえず、次の日曜日遊びに行かない?俺のこと、まだそんなに知らないでしょ。いうつもりなかったけど、言っちゃったし。こうなったらちゃんと俺のこと知ってもらってから返事してほしいかな。俺ももっと夕夏ちゃんのこと知りたいしね」



 大人だな、と思った。

 淡々とデートのお誘いをしてきているのだ、この人は。でも何故だろう。全然嫌じゃなかった。むしろ嬉しくて、私のことを見てくれている人がいたことがまるで奇跡のように感じた。



 日曜日の約束をちゃんとしてその日は帰ることになった。今までと大島先生に対しての気持ちが一気に変わった日だった。


 バイバイしたあとにも、気をつけてねと一言だけラインがきた。その優しさにも少しだけ惹かれたような気がした。


 恋を忘れるには恋。いつまでもウジウジしたくない。そもそも和人への気持ちなんて一種の気の迷いみたいなものだ。久しぶりに会って昔の記憶とか蘇って、かっこよくなった和人に少しドキッとしてそういう錯覚に落ちただけだ。


 私の恋はこれからだ。きっと大島先生を好きになる。そして本気の恋をする。



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