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あなたがいれば私は。  作者: 浜辺 琴乃
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隠せない想い

 


 11月半ばごろになると、本格的に冬の寒さになり始め、吐いた息が白くなった。

 あれ以来、和人から連絡はなかった。これ以上しつこくするのは流石にやめようと思い、夕夏からも連絡はしなかった。


 今日は奈美恵からまた合コンの誘いがあった。気分はのらなかったが、こういう時こそ気分転換に行くべきかもと思いOKの返事をしてあった。


 今までで一番可愛い私で行って、今度こそいい男を捕まえてやるんだ、といつも以上に張り切ってお洒落をした。


 前回の遅刻を思い出し、待ち合わせより15分前に着くように行った。

 誰もまだついていないと思っていた夕夏に突然話しかけた。



「あれ、もしかして今日の合コンに参加する奈美恵ちゃんのお友達?」



 背が高くて目元もキリッとしていて少し和人に似ていた。


「あ、そうです。今日はよろしくお願いします」


 パッと見た感じ年はあまり変わらないかもしれない。最近見ていた男の子があまりに若かったからか少し老けて見えた。


「先行こうよ」


 力強く腕を引っ張られ、気付いた時にはホテル街の方まで歩いていた。



「ちょっと、あの。どこに行くんですか?奈美恵たち待たないと」

「いーじゃんいーじゃん、先遊ぼうよ」

「遊ぶって何…やめてくださいほんとに!」



 何度も振り払おうとするけど男の力が強すぎてなかなか解けない。



「はあー?あんたもう20代後半でしょ。そういうの目当てで来てんじゃねえの?」

「ち、ちがいます!本当にやめて!」



 もうホテルは目の前だった。

 このまま知らない男にやられてしまうのかと思うと怖くて身体が震えた。26歳、恋愛もそこそこしてきたつもり。ただ…まだ“処女”だった。



「本当あんたはどんだけバカなの」



 引っ張られていた腕を男から強引に離し「こいつ俺のなんで」と一言吐き捨てると、夕夏の手を掴んでホテル街を出るように歩いた。


 どうして、ここにいるの?…和人。

 こんな情けないところ見られたくなかった。



「怖かったろ」


 後ろにいる夕夏をまったく見ずに言う。しかし握っているその手には力が入った。


 涙がポロポロ溢れる。こんな姿、恥ずかしい。恥ずかしいのに、振り向かないでくれるから…少しだけ…。



「怖か、った…!でも…ありがとう、和人。私、ほんとださい、よね…っ、和人より5つも上なのにほんとなにやって…「そういうのいい加減やめたら」

「…え?」

「年上とかそんなの関係ねえだろ。あんたはひとり女なんだ。俺はひとり男。もう21歳だしあんたより力も強い」



 そのまま偶然見つけた公園のベンチに座ると、和人ははあ、と息を吐いた。



「俺が偶然通り掛からなかったら、どうしてたんだよ、アホかお前は」


 なにも言い返せなかった。



「まあでも…なにもなくてよかった」



 ポンっと夕夏の頭に手を置いた。

 和人がとても優しい顔をした。

 それを見たら心臓が聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいバクバクと鳴り始めた。


 再会してからずっと違うなって思ってた。昔の大切って気持ちとなんだか違うなって。和人が変わってしまったからだっておもった。でも…この顔は昔のまんま。それなのに私はおかしい。変わってしまったのは私だ。


 和人が大切。和人のお姉ちゃんでいたい。ずっとずっとそのままでいたい。そのはずなのに。



「この前のあれ…だけど」

「……あんたのこと、許してみようと思う」



 いつもは夕夏の顔なんて見ない和人が、この日は初めて夕夏の目を見て言った。優しい目をしていた。和人の手は暖かくて笑った顔も目も優しくて…こんなの、初めてだよ。


 許してくれるって和人が言ってる。嬉しい。すごく嬉しいはずなのに。



「…ごめん、和人」

「私…和人のことが好きになっちゃった。許してくれるだけじゃ…嫌だ…。もう今更遅いよね、わかってる!!!だけど、和人は私のこともう少しも好きじゃない…?」



 あの頃はあんなに突き放した私が和人にこんな事を言うなんて誰が想像しただろう。自分でも驚きを隠せなかった。拒絶されるのも覚悟してた。気持ち悪いと思われるのも覚悟してた。


 そんな夕夏に俯きながら小さく和人が話し始めた。



「ずっと…遠い存在だったんだ。身長も高くて歳も離れてて、友達の姉ちゃんで。それでも、近づきたかったんだ。相手にされないこともわかってた。

 振られた時、悔しかった。年の差がどうのってことじゃなくて、俺のことをどう思ってるか聞きたかったんだ。


 本当に…好きだったんだ」


 と打ち明けた。

 しかし、


「でもそんなことは過去の話だから」


 …え?


「付き合っている女がいるんだ。…ごめん」


 次々いろんなことが頭に入ってきて追いつきそうになかった。ただ、ひとつわかること。私は今、振られたんだ。過去にひどい振り方をした男の子に、振られたんだ。



「合コンの日ひどいこと言って…悪かった。

 俺のことちゃんと男として見てくれてサンキュな。


 …あんたは本当に綺麗だから…もっといい奴がいるよ」



 ちがう。ちがう。ちがう。

 和人がいいんだよ。和人じゃなくちゃダメなんだよ。こんなダメな私をいつも笑顔にさせてくれてた。弟だった和人は、今はもう弟じゃない。男の人、なんだよ。


 和人もこんな気持ちだったのかな。



 振られて初めて夕夏は自分の過去の過ちに気付いた。もしあの時あんなことになっていなければ。全て…やり直せたら…。

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