過去の過ち(3)
「じゃあまたね、お疲れ様」
同期が軽く手を振って逆方面に歩く。
今日は忙しかったな。季節も変わり始め肌寒いから少しずつ寒くなってきている。毎年この季節は何を着たらいいかわからず少し薄着になってしまう。
くしゅんっ、と夜道に夕夏の声が響く。
「そんな薄着してっと風邪ひくぞ」
しゃがみこんだ状態で和人が言う。この前風邪ひいていたのはそっちではないか、と答える前になぜ彼がここにいるのか。
「この間は…サンキュ」
と、夕夏が渡した折り畳み傘と小さい可愛らしい紙袋を渡した。
なんだこれは、と驚きを隠せない夕夏。お礼にしてはしっかりしすぎているのではないだろうか。
中身を開けるとハート形にピンクのダイアがついたピアスが入っていた。
「お礼。…と、誕生日プレゼント」
ぶっきらぼうに和人が言う。
誕生日…?
慌てて携帯の画面で日付を見ると“10月30日”私の誕生日だった。この歳になると誕生日なんてむしろ嬉しくなくて気にしていなかったけど、和人は覚えてくれていたのだ。
夕夏は目頭が熱くなった。あの頃とは似ても似つかない彼だけど、そのぶっきらぼうな優しさは素直に嬉しかった。
「はは、もう26歳だ…。誕生日なんて嬉しくなかったのに……今日は嬉しい。ありがとう」
「おう」
「私、ハート型が一番好き。好きな色はピンク。アクセサリーはほとんどつけないけど、ピアスは昔から大好き。…これって、偶然?」
「当たり前だろ。お前の好みなんか知らねえし、誕生日だってたまたま思い出しただけだ」
本当はそうじゃないのかもしれない。それでもどっちでもいい。たまたま思い出して、わざわざお礼と一緒にプレゼントを渡してくれたのは和人の優しさだから。私はあの時、あんな風にしか和人をひき離せなかった。それなのに彼は、変わってしまったと思っていた彼は、こんなにも優しく成長している。
「お人好しなところ、変わんないね」
「えっ?」
「…傘助かったよ、ありがと。じゃあな」
待って、と引き止めたかったが引き止めて何を話せばいいのかわからず遠ざかる背中を見ていることしかできなかった。
***
「姉ちゃんも和人と会ったんだ」
和人のことをいろいろ聞こうと思い実家に帰った。夏樹はもうすでに和人に何度か会っているみたいで、和人がこの街に戻ってきたのもあの合コンの時くらいだったという。
それまでは少し離れたところから大学に通っていたみたいだが、今は一人暮らしをしているそうだ。
「和人、姉ちゃんのことすきだったよなあ」
突然夏樹がそんなことを言うもんだから、夕夏は思わず飲んでいた麦茶を少しこぼしてしまった。
「だってあいつ、姉ちゃんの好きなものはなんだ、とか姉ちゃんの好きな色はなんだ、とかよく俺に聞いてきてたもんなー」
ドクン、と心臓の音がなる。
その時夕夏は確信した。あのプレゼントが偶然ではなかったこと。誕生日も覚えていたのではないか、と。
それと同時に疑問も生まれた。あの時私はとてもひどい振り方をしてしまった。仮にも私のことを姉のように信頼して懐いていたまだ幼い和人を裏切るような突き放し方をしてしまった。そしてあの日の表情も、再開した時の表情も私を恨んでいた。
それなのに、なぜ。
「ねえ、夏樹。お願いがあるの」