贖罪
「姉ちゃん邪魔なんだけど」
「うっさいな〜」
「つーかその歳で出戻りって…恥ずかしくねえのかよ」
「うるさいなあ、もう!」
そばにあったクッションを夏樹に投げつけた。
実家に出戻りして早2ヶ月。
あれ以来真司とは会っていないし連絡もとっていない。職場も新しくなった。
和人とも、結局会えてはいなかった。
私もまた、誰かを不幸にしてしまうと思うと会えなかった。
「ちょっとコンビニでビール買ってくる」
「じゃあ俺にもデザート買ってきて」
「うん、わかった」
夜道を歩きながらここ何年かの出来事を振り返る。
和人と再会して、付き合って別れて、真司と付き合って婚約して子供を身ごもった。
自分のせいでその子供を殺してしまった。産んであげたかった。いろんな世界を見せてあげたかった。
和人の過去を知って自分がわからなくなって、真司を傷つけた。
こんなにも沢山んのひとを傷つけた私は…生きていていいのだろうか。
冷たい夜風が頬に刺さる。
涙が頬を伝って落ちていく。
もう、いいやーーーーーーー
橋の上から足をかけた。
「夕夏!」
思い切り名前を呼ばれ手を引っ張られる。
そのままコンクリートに強くお尻を打った。
「いた…」
痛むお尻に手を添えながら顔を上げる。
「……和人」
どうしてここにいるの。
「何してんだよ…」
「和人、どうしてここに」
「何してんだって聞いてるんだ!」
声を荒らげた。
その時舞さんのことを思い出した。
私はなんてことをしようとしたのだろう。
和人にまた同じ痛みを味合わせるつもりだったのか。
「ごめんなさい…私…」
和人の大きな手が夕夏の頬に触れる。
その手は震えている。
優しく撫でてくれる。大切なものを扱うかのように。
「怒鳴ってごめん」
首を横に振った。
「逃げようとしたの…いつも逃げてばかりで嫌になる…」
「夕夏は逃げてなんかない」
「逃げてばかりだよ。本当に」
「そんなことない。川越さんから聞いた。俺のこと聞かせてほしいって言ってたって。夕夏は……俺からは逃げなかった。逃げないでいてくれた」
その言葉をきいて突如涙が溢れ出した。
「嬉しかったんだ。昔からそういうところは変わらない。そういうところが好きだなんだ」
「和人……私…」
たくさん、人を傷つけたんだよ。
その罪は重い。本当に重いんだ。
償わなければならない。
それなのにーーーーー怖い。
「どうして…どうして今更現れるの…っ」
「ーーごめん」
「和人の…っ」
和人のせいでーーーーーー
そう言おうとした。
ちがうーーー
全部。全部。全部。
「私のせいでーーーー」
私が、和人を好きにならなければ舞さんは死ぬ事は無かった。
和人がいなくなった後、全て一人で背追い込めば真司を傷つけることも、命をひとつ失うこともなかった。
私のせいでたくさんの人が傷ついた。
「違う」
和人は夕夏の身体をそっと自分の方に寄せた。
優しく髪を撫でる。
温かくて大きなその手はあの頃と何も変わらない…
色んなことがあった。
罪を償いたいと思った。
私がいなくなることで贖罪ができると思った。
でも、怖かった。
一人はいつだって怖い。
だけどーーーー
「私…和人となら地獄に落ちてもいいよ…」
そう思えるくらいそばにいたい人がいるーーー
「うん……償っていこう。一生一緒に」
それは、私にとって世界で一番美しいプロポーズだった。




