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あなたがいれば私は。  作者: 浜辺 琴乃
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過去の過ち

「…夏。夕夏!」



 あ、 そうだった。合コンの最中だった。つい、忘れていたことまでいろいろ思い出してしまった。さっきから最初に目があってからは一度も合ってない。気づいていないのかもしれない。


「夕夏さんって彼氏いるんですか〜?」

「い、いません、よ」

「え〜綺麗なのに!」


 自己紹介をしっかり聞いていなかったがために褒めてくれるこの男の名前がわからない。なによりその奥にいる和人のことが気になって仕方がない。

 あんなにチビで眼鏡で細くて女の子みたいだったのに。座っている姿を見てもわかる。身長は私よりはるかに高いし、肩周りとかもがっちりしている気がする。今風にワックスでまとめられた茶髪にキリッとした顔は誰が見てもかっこいいって分かる。眼鏡、やめちゃったんだ。


 少ししてから席替えタイムになり、和人の隣になってしまった。

 とても気まずい…。



「あ、あの」



 意を決して話しかけてみる。



「はい」



 んんん?まさか和人のやつ、私のこと忘れなんじゃないだろうか。顔色1つ変えず、なんですか?と続ける。

 そしてなぜだか一気に肩の力が抜けてしまった。ああ、よかった。あの時のこと引きずっていなかった。ずっと気がかりだったけど、たかが中学生のころの恋愛なんて今更覚えていないか。罪悪感が1つ消えた気がして、気持ちが楽になったのだ。



「終わったら、少し話せないかな?」

「…いいけど」


 和人は依然として顔色を変えもしなければ、夕夏の顔さえ見ていなかった。



 ***


 無事合コンが終わり帰るふりをして和人と落ち合った。

 やっぱり、すごく背が伸びている。180はあるんじゃないだろうか。本当に和人なのか、不安になった。



「あ、えっと…その、久しぶり」



 …無言。あれ、もしかして本当に和人じゃないのかも。よくよく考えたらあんなチビがこんなに身長伸びるかな。そもそも一応私のこと好きだったわけだし、こんな形で再開したら眉毛ひとつくらい動くと思うの。

 ああ、早とちりだ。恥ずかしい。謝ろう。



「ごめんなさい、人違…「夕夏さん」」



 夕夏の言葉にかぶせてきた和人の声。

 “夕夏さん”って…



「…っ、やっぱりあなた和人じゃない!」

「俺がいつ和人じゃないつった?」



 口角1つ動かないその表情は、やはり和人とは別人かと思わせるものだった。



「な…随分変わったわね。昔のあなたとは大違い」

「昔の俺って、なに?」

「…自分に自信がなくておどおどしてて…チビでメガネで…」

「子供だった?」

「そ、そうよ」

「あんたからしたら今もだろ。あんたも随分変わったな。昔はもっと冷静で落ち着いてた」



 なにも言い返せなかった。歳ばかりとって、中身はなに1つ成長できていない私。それをまるで見透かされているようだった。



「…忘れてなくて残念?罪悪感が1つ消えたと思った?」



 夕夏は目を見開いた。あの時よりさらに憎しみに溢れた顔の和人がいた。私の知ってるあの顔だった。



「悪いけど一緒忘れねえよ。あんたのこと、一緒恨んでっから」



 遠くなる背中。その背中を見ても、やっぱり昔の和人はいなかった。私が大切にしたいと思ったあの子の背中はこんなんじゃなかった。私が変えてしまった。あの日のことを誰よりも後悔しているのは…私だよ、和人。


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