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ダンジョン攻略


 窓の外には見慣れた街並み。

 これがあと数日で変わる。


 慣れたと思っていられるうちはいいんだ。

 飽きたとなったらすでに無駄。

 移るべき時は、すでに過ぎている。


「今戻った」


 僕が宿で休んでいると、リミールが部屋に入ってきた。

 今はもう昼も過ぎている。


 リミールはあれから、朝に僕のところにやってきて、それから暗殺など計画していたものをすべて取り消しするよう命令されて各地を走り回っていた。

 それと、しばらく会えなくなるリュナを知人に預けたらしい。


「では、行こうか」


 リミールは僕に気を使わない。

 敬語も使わない。

 そうさせることもできるが、させていない。


「ダンジョンに潜った経験はあるかい?」


 僕は集会場で集めた情報をもとに、ダンジョンの入り口へと向かう。

 リミールを伴って。


「ないな。だが、あの森の一角はダンジョンのようなものだった。それなりに対処はできよう」

「そうか。頼りになるよ」


 リミールはダンジョンに行くこと自体にはむしろ積極的だった。

 彼女は妹一筋ではあるが基本的には良心的で、町の異常で人々が消え去ったとなって救出に向かう心が強くなったようだ。


「はあ」


 リミールはよくため息をついた。

 流れで奴隷になってしまったなどと頭を抱えて。

 彼女にとってこの状況はそれほど深刻ではないのだろうか。


「なんというか、あれだけのことがあったのに敵意が落ち着いているね」

「ああ。殺したい気持ちはまだ残っているんだがな。リュナに色々と言われたんだ。だから、当面はお前に従ってやる」


 従ってやるもなにも奴隷なんだけど。

 色々言われたくらいであの所業を許せるのか。

 本当に妹本位だなこの人は。


「着いたね」 


 ダンジョンの入り口はいきなり階段からなのだが、その前に門が設置されている。

 おそらくこの数日で町の人が作ったのだろう。

 噂によると、もう何人かは潜っているのだとか。


「ところでその荷物、私が持たなくていいのか?」


 リミールは僕が背負っているものを指さした。


「ああ、いいんだ。こういうのは慣れてるからね。それに、君には身軽でいてもらいたいんだ。僕は動く必要がないからさ」

「そうか」


 僕は荷を持って歩くことを苦としない。

 前世から救助活動を繰り返してたおかげだ。


「じゃあ入るよ」


 ダンジョンは火もないのに不自然なくらいに明るかった。

 壁自体がわずかに光を発しているようだ。

 通路は床も壁も石造りになっていて、手入れされた鉱山の中を進んでいるようだ。


「モンスターがいないな。それに、矢印も書いてある」

「先人たちが残していったものだろう。ありがたく進ませてもらおう」


 浅い層は本当に楽だったのか、先行した部隊が優秀だったのか、五階層くらいまでは簡単に進むことができた。

 第六階層に差し掛かると、開けたところでキャンプ場が設営されているようだった。

 こうやってダンジョンを攻略していくんだな。

 どうやら、何人かは残っているらしい。

 話を聞こう。


「あの、すみません」


 テントの中にある人影に話しかける。

 するとそれが近づいてきてジーッとテントが開かれた。


「あ? なんだ女とガキか。食料の配達ならさっき来てもらったはずだが」


 出てきたのはあまり戦闘員っぽくないひょろい男だった。


「あ、いえ。僕たちは攻略部隊なんですけど。どうやってダンジョンを制圧しているのか聞きたくて」


 モンスターを倒しながら進んでいるにしても、まったくでないというのはいささか変だ。

 それにリスポーンしないのかどうかというのも気になる。


「は~。後ろの姉ちゃんはまあわかるが。お前さんは魔法使いか何かかい」

「そんなところです」

「なるほどな。どれだけ実力があるのかは知らないが、ダンジョンのことを何も知らないなら、帰った方が良いぞ」


 以外にも辛辣な回答。

 ダンジョンのことは調べたつもりだったけど。

 何か致命的に知識が欠けてるのか。


「戦闘部隊を集めたときにしか話してなかったから知らないかもしれないが、ダンジョンには各階層にコアがあるんだ。モンスターやトラップを生み出す、な。そいつを壊せばその階層はクリアしたことになって、下に行くための階段が出現する。常識だぜ」


 そういうことか。

 僕もだいたいの時間は仕事に費やしてたからな。

 モンスターはてきとーに散らせると思ったし、階段は最初からあると思ってたし、思い込みのせいでそんな重要なことも調べ損ねてしまっていた。


「コアを壊すのに特別な処置が?」

「ない。剣なりハンマーなりで割ればいい。で、なんだ。行くつもりか」

「ええ」


 僕がそう答えると男は大きくため息をついた。


「なら、これを持っていけ」


 そう言って男は一枚の板を取り出す。

 すると、そこには複雑に入り組んだ地図が描かれ、いくつかのマークが光っていた。


「これは?」

「ダンジョンマップさ。まだコアが壊されていない階層の地図が表示される。そこには同じマップを持ってる人間の座標も示されるんだ。とりあえずそこの奴らと合流しろ」

「それはまたずいぶんと便利ですね。いいんですか? いただいちゃって」

「どうせみんなキャンプに戻る。総数が変わらなきゃいいんだ。壊すなよ」


 男はそれだけ言うとテントを閉めた。

 いい人だな。

 もしかしたらこういった地形を把握するのに特化した魔法使いの人なのかもしれない。

 他の町ならいざしらず、あの複雑なユーガの町の地図を作り、ナビゲーションまで作成できるほどの技術がここにはあるんだ。

 こういうマップが作れても不思議じゃないよな。


 僕は仲間がいるところを目指して進んだ。

 リミールと二人だけで直接コアを目指すつもりなのだが、どうせ同じ通路を通るので合流することになる。


「カナト」

「ああ」


 リミールが注意を促した。

 いる。

 モンスターが。

 オーク以来のご対面だな。

 さて、どんなのが出てくる。


「任せていいのか」


 リミールが僕の後方から訊く。

 僕は曲がり角から出てきた獣型のモンスターの群れを見て言葉を返した。


「構わないよ」


 僕はこちらに向かって走ってくる数匹の獣の群れに対し、高らかに声をあげた。


「神の力を以て命ずる。お前ら全員、交尾でもしていろ!」


 獣の群れにチートが走り抜け、一斉にその足を止めた。

 そして、狂うようにじゃれ合う、モンスターたち。

 これで無力化。

 簡単だな。


「これが神の力……」


 ごくり、と息を飲むリミール。

 自らが呪いと考え続けてきた圧倒的な力を目の当たりにして、何を思ったのか。


「さあ、行こうか」


 僕は進んだ。

 こともなげに。

 幸いにも生物系のモンスターしか出現はせず、今までと同じくらい楽々とダンジョンを歩くことができた。


「こんにちは、みなさん」


 そして、先を進んでいた部隊と合流する。

 戦闘していたモンスターたちを、散り散りに無力化して。


「退魔士のカナトと申します。これからしばらくは私が先行しますので、みなさんはキャンプで休んでいてください」


 一礼だけし、部隊の只中を切って歩く。


 これこそチートの真骨頂だ。

 さあ、さっくりとこのダンジョンを攻略しようじゃないか。



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