三大欲求はさすがに三大だった
森を出ると、すぐに町が見えた。
中央に背の高い建物が見えるが、城壁などはない。
奇妙なことに、街道をある程度進むと、かなり外側の部分から一面が石畳になっている。
僕がその街の中に足を踏み入れると、途端に石畳が盛り上がって人の形を成した。
「初めまして! ユーガの町にようこそ! 私は外部から来たお客様にユーガの町を案内させていただいております、ゴーレム系女子のゴーちゃんです!」
ゴーレム系女子と言われても、見た目はただの石人形だから声ぐらいしか女の子要素がないんだけど。
というかどっから声出てるの。
「ユーガの町を利用される方には、まず訪問者登録、または住民登録をしてもらいまーす!」
ふむふむ。
よくわからないから素直に従おう。
僕はしばらく町を連れ回された。
内部は階段と袋小路がやたらと多い迷路みたいな構造になっていて、居住区はもはや技巧派抽象絵画みたいで意味不明だ。
ナビがないと絶対に迷う。
そして市役所的な場所に連れてこられて僕はそこに名前を書いた。
何か魔法的な意味があるらしく、登録はそれだけで十分なのだという。
登録の意味は様々あるようだが、僕にとっで一番ありがたかったのは商売をする権利を得られることだ。
当面の目的だけど、やっぱりお金がいる。
衣住はチートでどうにかなるにしても、食は普通にお金を払って自由にご飯を食べたい。
もう日も暮れてきた。
お腹もすいたし、ひとまず人のいるところに行こう。
異世界に来たらまずは酒場だな。
主要な施設は一通り案内されたし、本当に多くの人が使う場所はわかりやすい場所にあるからとても助かる。
酒場は西武スタイルとでも言えばいいのか、入口が小さな両引きの扉で区切られていて、中からは活気のある声が聞こえてきた。
今の僕は一文無しだ。
この服と一緒に金目のものでも物色してくれば良かったのだが、余計な邪魔が入っちゃったからな。
ここは腹を決めよう。
酒場に入った僕はカウンターに座り、そのメニューの中でも最も高い肉を頼んだ。
どこもかしくも声と体が大きい男ばかり。
肉体労働を終えての一杯をやってる感じだ。
着ているものがそれなりにいいものであるせいか、ウエイトレスさんは特に金の有無を確かめてこなかった。
頼んだ豪勢な食事を見て、僕はかぶりつくように喰らう。
できるだけ美味そうに。
なんの肉かはわからないが、実際のところすごく美味しい。
「おーうボウズぅ」
そうやって食事をしていると、無精髭を蓄えたおっさんが絡んできた。
「ずいぶんと景気よく食ってんじゃねえか」
ふふっ。
かかったな。
「まあ、ボチボチ儲かってますよ。いい薬があるものですから」
僕が爽やかにそう返すと、男は怪訝な顔をする。
この世界において薬という言葉が指すイメージがどんなものであるかはわからないが、少なくともよくない印象らしい。
「ただの媚薬ですけどね」
そう付け足すと、男はぐいと顔を近づけてくる。
酒臭い。
「おいおいそいつぁどんくらい効くもんなんでぇ」
いやらしい笑いをする男に、僕も少し合わせてニヤと笑った。
「そりゃもう、大人しいあの子も獣に変わるほど」
「くっくっく。ええ? そんなものが本当にあったんか。一度くれぇ騙されてみてもいいかもしれねえな」
「ただし、中身を調べられるわけにはいかないので、僕の目の前で飲んでもらうことになりますけどね」
「なんでぇ。じゃあ宿に入る前に効果が表れちまったらどうするんだ」
「その場で致してもらうしかないですね。効果がありすぎて止められないので」
「ふっはぁっはぁっ!!」
男は僕の肩を叩きながら大笑いする。
ちょっ、痛い痛い。
「おいお前。俺は今夜あの女とヤりてぇ。薬をよこしな」
男は酒場の喧騒に消えるくらいの声で話しながら、カウンターの一番端にいる女を指差した。
なるほど脂の乗ったいい女だ。
おっさんくらいの歳になるとああいうのが好みになるんだろう。
「10000ギールもらいます」
「10000か。思ったより良心的だな」
だいたいこの食事が3回できるくらいの値段だ。
「実は僕、ここにきたばかりで。最初のお客さんということで特別価格ですよ」
「へっ。調子いいこと言いやがって」
もしかしたらこのおっさんは、媚薬の効果は最初から期待してないのかもしれない。
僕に対する絡み方が、柄の悪い荒くれ者のそれと違っていて、僕に話しかけたことそのものも何かの感情の表れだった可能性もある。
「お酒に混ぜるのが一番でしょう。僕が薬を入れてから、ウエイトレスさんにそちらに渡してもらうよう頼むので、あなたはあの女性と話していてください。自分からの奢りだと言って飲ませれば良いはずです。その後、外に出て宿屋の近くまで散歩してください。その頃には効果が表れていますよ」
「おう! しっかり頼むぜ、ボウズ!」
おっさんは細かい確認などせずに10000ギールを置いて女のところへ行った。
とりあえずは行く末を見守りつつ、僕はおっさんが選んだ酒を女の席へ運んでくれるよう頼んだ。
二人の話をしている感じを見るとそこそこ仲良くはなれている。
女の方も荒っぽい男と接することに慣れているのか、終始楽しそうだ。
僕は食事を済ませ、二人と一緒に外に出る。
そして、宿屋の近くに来たときにチートを発動。
女がおっさんに欲情する。
いきなり飛びつき気味に迫ってきた女に困惑していたおっさんだったが、状況を理解したようで、僕に向けて親指を立ててから宿へと入っていた。
よし、まあこんなもんだろう。
女へのせめてもの餞として感度をビンビンにしておいた。
お金も手に入ったし、僕も今日は休もう。