攻められるだけが女騎士じゃない
鬱蒼と草木の茂る森の中。
なるべく脅迫だったりチート行使だったりを控えたかった僕は、その甘さを改めて思い知らされていた。
全裸のまま。
やばい。
風邪引く。
ってか虫に刺される。
いったいここはどこなんだ。
えっと、確か順調に行けばこの先でゴブリンとかに出会うはずなんだよな。
異世界に来たわけだし。
っと。
向こうの方になんか古い建物が見えるぞ。
石造りの協会、いや小さなお城かな。
傷んではいるけど草木は生えていない。
誰か居るかなー。
でも僕全裸なんだよな―。
どうしよう。
陰からこっそり事情を話せばわかってもらえるか。
僕は物音を立てないように近づいてみる。
するとそこにはツルが巻き付いたままの鉄門が。
「うわっ」
そして、その前にはなんと、槍を持った豚の獣人が二人いた。
オークだ。
間違いない。
あれは数々の姫騎士たちを落としてきた伝説の魔獣。
いよいよ異世界らしくなってきた。
人間らしい装いをしている彼らは腰巻きにベルトをしている。
体格的には僕の3倍ほどあり、あのベルト式の腰巻がどういう仕組みになっているのかはわからないが、もしかしたら僕でも着られるかもしれない。
ふふ。
善良な市民としてこの世界に送られてきた僕だけど。
女神様が言っていたこともあながち間違ってはいなかった。
今の僕は悪党だ。
見ず知らずの相手から物を奪おうとしている。
だが、こちらも四の五の言っていられないのでな。
その服、渡していただくぞ!
△▼
僕は今、小さなお城の中を歩いている。
ブカブカの服を身にまとい。
不格好でみすぼらしいことこの上ないが、下半身のぶらぶらは隠せたのでまあ仕方ないだろう。
この服をどうやって奪ったのかは、皆様方の想像にお任せしたい。
ひとこと言えることは、僕のチートは脱がせるという点において最強の能力を誇るということだ。
ああ、うん、凄まじかった。
思い出したくないのでこの話題はこれまでにしておこう。
薄暗い城内には人影はない。
モンスターらしき姿もない。
だが、たしかにそこに音はあった。
音楽だ。
クラシカルでテンポの良い弦楽の演奏。
その音が大きくなるように歩みを進める。
ドアから小さな光が漏れていた。
僕はこっそりとその中を覗き見る。
そこは貴族がパーティをするようなダンスホールだった。
天井には控えめだが立派なシャンデリアが輝いている。
外観に反して中はキレイに保たれていて、明らかに誰かが手入れしていることがわかった。
中にいるのは数人のようだった。
音楽のせいで会話は聞こえないけど。
てっきりオークだらけのくっ殺大会でも催されているのかと思ったのだが、どうやら何かの取引をしているようである。
片方はツノを生やした褐色の女。
肉付きが良くサキュバスのような印象を受ける。
ジュラルミンケースを広げて、その中身について語っているようだ。
もう一方が、女騎士。
……女……騎士?
女騎士だ!
なぜ、こんな辺境のあばら家に女騎士が!?
ええい女騎士がいるというのになぜくっ殺されていない。
せっかくなら遭遇したかったのに。
じゃなかった。
オークは門番をしていた2人だけか?
ならばどちらかの部下ということになるが、この場合はどちらともありえるな。
なんにしても、ここが取引のためだけに使われていて、戦力が僕が見た限りなら、城内を歩き回っても安全そうだ。
服を探そう。
僕はその場から離れ、部屋という部屋を物色した。
客間には食器類も残されていて、寝室には運良く服がたくさんあった。
ここは王様の城というより地主が住んでいた場所らしく、庶民向けの服もたくさんあって、僕は綿っぽい素材の下着やらベストやらを手に入れることができた。
なんだかカッコつけすぎな気もしたが異世界なので気にしない。
さて、ではここからおさらばしよう。
と思った矢先には事件が起こるが必定である。
寝室の外、廊下にかすかに響く女の声があった。
それがどんどんこちらに近づいてくる。
「本当にいるんだろうな、侵入者なんて」
「表の門番たちがいなくなっていたのよ。私のかわいいペットたちを倒せるぐらいだから、一般人ではないわ」
凛とした声と艶やかな声が掛け合う。
間違いなく先ほどの女騎士とサキュバスだ。
彼女たちがどのような関係かはわからないが、見られて良いことをしていたわけでないことは確かだ。
異変があるとなったらとことん探し回るだろう。
ええいくそ。
僕は服が欲しかっただけなのに。
見つかったら殺されるよな。
とりあえずベッドの下に隠れてやり過ごすことにする。
「この部屋は……むっ!? 物色された形跡があるぞ!」
しまった!
自分に合う服を探すのに夢中でしまうのを忘れていた!
こうなったらベッドの下に気づかないでこの部屋を去ってくれることを祈るしかない。
「もしかしたらこの部屋に隠れてるんじゃないか? クローゼットとか、ベッドの下とか」
ああ、もうダメだ。
見つかってしまう。
重たいブーツを履いた足がクローゼットへ、そして艶やかな褐色の素足がベッドへ、近づいてくる。
こうなったら仕方ない。
女騎士よ、サキュバスを止めるのだ!
「ちょっ……どうしたの!?」
ガタッ。
屈もうとしていたサキュバスの体が女騎士によって押され、ベッドへと倒される。
「美しい……体だ。訓練で筋肉ばかりをつけてしまった私には完成し得ない肉体。堪能させてくれ」
「待ちなさい! たしかに、私たちサキュバスは人間との和平の道を進もうとはしているわ! でも、こういうことじゃ……」
「そんなものはどうでもいい。これは私個人の想いなのだ。お前を喰らいたい。その体の指の一本まで舐り尽くしながら」
「いや、ダメ」
僕は息を殺し、代わりに上部から聞こえる熱い吐息。
ギシ、ギシ、と老朽化したベッドも二人の獣欲に声を抑えきれないようだ。
「ふん。サキュバスのクセに生娘のような反応をするのだな」
「んあっ。だ、だって、あっ、あなたが、取引のために、力を封じろって、んっ、はぁ、この指輪を、するからぁあっ」
「力がなければこのザマか」
「あなただって、初めてのくせにぃ」
「心得くらいはある。男との関わりは許されぬが、いずれ嫁ぐ先では尽くさねばならんからな。メイドたちに色々と教わるのだ。こんな風に」
「ああああんっ!」
そこからしばらく、交わされる言葉はなくなり、代わりにベッドの軋む音と嬌声だけが続いた。
僕は静かに寝室を抜け出し、何事もなかったかのようにその小さい城から出る。
ふう、危なかった。
このチートがなければ即死だった。
彼女たちには悪いが、まあ仲良くやっていくだろう。
やはり異世界は一般人が生きていけるような生温い環境ではないんだ。
僕はそう厳しく心を改め、町を目指して人の手の入った道を進むことにした。