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しょっぱなから難易度高すぎたけどチートがあったからなんとかなった


 目が覚めると、気持ちのいい風が通り抜けた。

 葉の擦れる音が心地よく耳を刺激する。

 全身がとてもスースーした。


「なんで僕は裸なんだ!?」


 なんということであろうか。

 僕はどこかの森の中と思われる湖のほとりで、全裸になって立ち尽くしていたのである。

 これではまるで変態みたいではないか。


「仕方ない。水浴びでもするか」


 湖はとてもキレイだった。

 大きな木が中心に生えていて、その根本まで透けて見えるほどである。

 まさかこんなところが細菌だらけでお腹を壊すなんてこともあるまい。


 僕はあくまでも水浴びをするために服を脱いだんですよというていを装うため、湖へと足を進めた。

 とても浅く、腰辺りまでしか水深がなかった。

 冷たくて気持ちがいい。

 バサバサと水上を走れないバジリスクのように駆け込み、一気にダイブする。


「うひょー! 僕は自由だー!」


 大声で叫んだ。


 うん。


 なにやってるんだ僕は。

 こんなところで遊んでないで早くこの森から脱出しないといけないのに。


 僕は無駄にずぶ濡れになった身体を眺めながらしばらく呆けていた。


 そんなときである。


 ポチャン、と木の反対側から音がした。

 もしかしたら魚でも泳いでいるのかもしれないと思い、ヒョロっと木の裏側を覗き込んで見る。


 するとそこには、なんということか一人の女の子がいたのである。


「ひゃあっ!」


 やたらと可愛らしい悲鳴が聞こえた。

 ざぶっと肩まで身を沈めて全身を包み隠す。

 しかし湖の透明度が透明度なので肌の色までバッチリ拝めてしまう。


 まさかこんなところに僕と同じ境遇の女の子が?

 しかも僕より若いぐらいの子なんて。

 助かった。

 仲間がいたんだ。


「助けて! 助けてお姉ちゃん!」 


 少女は溺れるように泳ぎながら逃げていく。


「待って! 何で逃げるんだよ!」

「いやぁぁぁあああ! 追ってくる! 助けて! お姉ちゃん! 早く!」


 まずい。

 このままだと僕が殺される。

 さっさと取り押さえて説得しないと。


「誤解だ! 僕は善良な市民だよ! 天国にだって行ってきたんだ!」

「ヤダぁああ! 変なこと言ってるよぉ! お姉ちゃぁああん!」


 くそうこのお姉ちゃんっ子め。

 こうなれば実力行使だ。


 僕だって男だ。

 水中移動だろうと女の子に負けるわけにはいかない。


 もう少しだ。

 あと少し。


 もう、捕まえ…………られた!


「きゃあっ!」


 腕を引っ張った拍子に倒れこんだ。

 水の中で取っ組み合いになる。


 ふふふ。

 ボランティアで鍛えた僕の力を舐めるなよ。

 おばあちゃんを背負って歩道橋の登り降りを繰り返した僕の筋力に。

 そのか細い腕で勝てるものか。


「ひっ。い、やぁ」


 ついには両手を捕まえて引っ張りあげた。

 ずぶ濡れになっているのでわからないが泣いてるっぽい。

 とても悲しそうな顔をしている。

 おっとおっぱいが丸見えになってしまうので屈んであげないと。


「ぐすん。もうお嫁にいけない……」

「聞いてくれ。僕は決して君に危害を加えるためにここに来たんじゃない。ほら、なにもしないから。ね?」

「嘘だもん。両手が痛いもん」

「わかった。放すよ。放すから。落ち着こう」

「うっ……んぐっ……」


 予想以上に号泣だった。

 まあ、裸で男に迫られたら誰だって怖いよね。

 これは悪いことをしてしまった。


「えっと、僕、カナトって言うんだ。信じてもらえないかもしれないけど、気づいたらここにいて、服がなくてさ。困ってたんだ」

「うぐっ……うぅ……」

「と、とりあえず、名前を教えてもらってもいい?」


 なんだこの罪悪感は。

 まるで僕が悪いことしてるみたいじゃないか。


「リュ」

「リュ?」

「リュナ」

「リュナちゃんか! とってもいい名前だね!」


 ここは褒め倒す作戦でいく。


「うん……お姉ちゃんが付けてくれた……」

「そうかそうか。きっととてもステキなお姉さんに違いない」

「そうなの。お姉ちゃんは、優しくて、キレイで、強くて」

「やっぱりだ。ネーミングセンスの良さから容易に想像がついたよ」


 よしよしいい感じだ。

 心なしか顔も上向いている気がする。

 ここはリュナの姉を持ち上げてご機嫌を取ろう。


「すぐに信じてとは言わないけど。本当に敵意はないんだ」

「う、うん」


 順調に心を開いてくれている。


 もしかして、意外と仲良くなれるのでは?

 男女の出会いって、こんな形もありなのでは?


 なんてことを考えていると――――僕の背後で、ザバーンと大きく飛沫が飛んだ。


「私の妹に手を出したのが運の尽きね。変態さん」


 首元に、鋭い物が当てられる。

 背中になんか柔らかいものもあたっている。


 あ、これヤバイ。

 色々とヤバイ。


 こんな状況でお姉さまが降臨してしまった。


「か、勘違いです。僕はただお話をしてただけで。だよね? リュナ」

「え……あの……」


 リュナはまごまごしている。

 まだ時間が足りなかったか。

 もう少しアイスブレイクできていれば……くそう。


「嘘を吐かないで。リュナの悲鳴が聞こえたから駆けつけてきたの」


 リュナ姉は僕を押さえる力を強くしながら、顔を近づけてくる。

 耳に息が……おふっ。


「リュナの前だから。今ここであなたをバラバラにするつもりはないわ。痛くして欲しくなかったら、無駄な抵抗はしないことね」


 感じてる場合じゃなかった。

 この姉本気だ。

 このままじゃ殺される。


 ええいしかたあるまい。

 乱用は避けたかったが、背に腹はかえられぬ。


「お姉さん。何を勘違いしてるのかわかりませんが。犯されそうになったのは僕ですよ!」


 リュナに罪はないが。

 僕は生きるために手段を選ばない。

 ここにチートを発動する!


「私の大切な妹を侮辱するなんて……許さない……もう容赦はしない――――!」


 激昂するリュナの姉。


「ダメッ! お姉ちゃん!」


 僕の首が切られそうになったところで、リュナが僕に飛びついてきた。


「何をしているのリュナ!? こんな汚らわしいものからは離れなさい!」

「嫌! 嫌なのっ! 殺しちゃいや!」


 一心不乱に抗議するリュナ。

 そこに便乗して僕は言う。


「いいのかい。このまま僕を殺したら、リュナちゃんがどうなるかわからないよ」

「クッ……キサマ! いったい妹に何をした!?」


 グワングワンと揺れる僕の視界。

 く、首がもげる。

 ちょ、やめてやめて。


「カナトさん!」


 そんな僕に張り付いてくるすべすべとした肉質。

 まだ未発達で肉の少ないその身体が、僕を包んだ。


 ああ、なんということだ。

 異世界にきてこんなにも早く女性の裸体とまぐわえるなんて。

 全てはこのチートのおかげ……ひいては今までの僕の善行のおかげ……。


 とても心地が良い。

 心がふわふわする。


 おや。

 遠くから何か話し声が聞こえるぞ。

 どうしたんだろう。


「正気に戻れ! これがどれだけ汚いものなのかわかっているのか!」

「やだぁ……これがいいの……これがほしぃ……」

「こ、こら! そんなものにそんなところを擦り付けるんじゃない!」

「あ……お姉ちゃん……わたし……なんだか下のほうが熱くなってきた……」

「わわっ! ちょっ、こ、こうなったら……!」


 不意に僕の身体が軽くなった、と同時に、目の前で鈍い音と水が弾ける音が。


「あれ」


 いつのまにか開放されていた僕。

 眼前では、意識のなくなったリュナを抱えたまま肩で息をしているリュナの姉の姿があった。


 白い髪を三つ編みにした、強気な目の長身の女性。

 タレ目がちで小柄だったリュナは成長してもこうはならなさそうだ。

 どちらも色白でふつくしいのだが、僕としてはやっぱりロリ感のあるリュナの方が好きだな。

 肉付きはもう少し良くなって欲しいけど。


「おい」


 ドスの利いた声、というより殺意に満ちた声が僕の鼓膜を刺した。


 やばい。

 人を殺す目をしている。


「今すぐ妹を治せ」

「嫌だと言ったら?」

「キサマを殺す」

「どっちにしても殺すよね?」

「まあな」


 正直すぎるよこの人。

 交渉とかできないタイプだな。


「さっきも言ったけど、僕を殺したって妹さんは治らないよ」

「構うものか。私が慰め続ければいいだけの話」


 やっぱりダメ側の人だ。

 このシスコンめ。


「それは呪いだ。僕が死ねば更に強くなって一生ついてまわるよ。そして、今の症状については、僕にも治すことはできない」

「なんだと!?」

「まあ落ち着いて。治らないとは言ってないよ。離れてくれればいいんだ。そのまま。僕を生かしたまま。そうすれば、時間とともに薄れていく。それだけのことだよ」


 僕の瞳を鋭く見つめるリュナのお姉さん。

 信じれくれないかな。

 害のある嘘は言ってないけど。

 そういえば名前はなんていうんだろう。


「ずいぶんと都合のいい話だな」

「うん。そちらにとってね」

「なに?」

「わからないかな。このまま帰れってことは、僕は何もしないってことだよ。もし面倒を避けたいだけじゃなかったら、今すぐ君を妹さんと同じ状態にしていたところだ」

「なっ……!」


 頬を赤らめ、僕の下腹部を一瞥してから目をそらす。

 おやおや。

 田舎暮らしのお姉様は、そんなにもウブなのかい。


「カナト、と言ったか」

「うん」

「我が名はリミール。森はいつでもキサマを見ているからな。もし妹の症状が治まらないようであれば、必ずキサマを探しだして殺しにいく」


 リミールはそう捨て台詞を吐いて森の中へと消えていった。


 まったく転生初日からなんて目に遭うんだ僕は。

 でも、まあ能力も確かめることが出来たし、いい物も見られたしな。

 よしとするか。


「……あれ?」


 しまった!

 服の問題が解決してなかった!

 っていうか森の案内までさせればよかったぁあああああ! 




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