僕という善性の塊に与えられたのは男の夢だった
えっちぃのはいけないと思います。
義道奏斗、享年16歳。
死後、悪行の数だけ伸びると云われていた禊の道は、そこにはなく。
ジャストオンで天国の目の前だった。
扉の上に「天国」と大々的に書いてあるのでわかる。
結果的に見れば、僕は善良な市民だった。
ゴミが落ちていたらゴミ箱に入れる。
うずくまっている人がいたら声をかける。
探しものや悩み相談なんかも全力で取り組んで、極力迷惑になるようなことはせず、負った責任はきっちりと取ってきた。
当然、見返りは求めた。
感謝されるために人を救ってきたというのは正にその通りなのだが、ニュアンスとしては微妙に違っていて、僕の中には絶対的に“人間は恩を与えられたら感謝するのが当然である”という考えがあったのだ。
まあ、感謝されなければそれはただの迷惑だったのだろうと思うので、特にどうすることもないのだが。
人のためになることを続けていれば、いずれは巡り巡って自分に返ってくると思っていた。
その見返りが……。
いつかは美少女からのエッチなお誘いになるのではないのかと!
そう信じて、この十六年間、身を削って生きてきたというのに。
人生というものは、なかなかどうして思い通りにいかないものだ。
さて、どうしてこんな身の上話をしているのかというと、実は天国を前にして僕は神様とご対面中であり、その理由が「あなたのような善性を持った魂は若くして失われるにはもったいないので、上層部が特別に異世界に転生することを許しました」というものだった。
異世界転生である。
素晴らしいではないか。
「しかしですね、カナトさん」
「はい」
目の前にいる女神様は逆接の表現から始められました。
「私は気づいているのです。あなた、本当はものすごく邪悪な心を持っていますよね?」
「邪悪? それはどのような意味でしょうか」
僕は悪い人間じゃない。
だからこうして天国に連れてこられたんじゃないか。
「えっと、キレイでない、といいますか」
「キレイでないとは、具体的に?」
「あの、だから、え、えっちぃ、心です」
「純正なる男子の心を邪悪と仰りますか。それは神が自らの失敗を認めることと同義ではありませんか」
えっちぃ心の何が悪い。
種を残す本能。
番を見つけるための道。
本番に向けた練習だ。
「別に、責めているわけではないのです。私も、あなたの異世界転生に異を唱えるつもりはありません。天界にいる全員が、あなたの異世界転生を望んでいます」
「そうだったのですか」
ならあの前置きはいったいなんだったんだ。
「それでですね。異世界転生には、当然の権利のようにチート能力が与えられます」
「存じております」
僕も当然の権利のようにチートを求めるつもりだった。
「そこで今回、私からは“あらゆる生物を抗いようがないほどの発情状態にする”能力を与えたいと思っています」
「それは素晴らしいですね」
あえて僕の願望にピンポイントに当ててくるなんて。
どういうつもりなんだろう。
「ちなみになんですが、その発情というのは僕に向けられるものとは限らないわけですか?」
「そうですね。能力の制約条件についてもお話しておきましょう」
ずいぶんとサービスがいいじゃないか。
善行を積んだ見返りがこんな形で来るなんて。
いよいよ以って世の中わからないものだ。
「制約の原則は“認知”にあります。あなたは視認している相手にしかこの能力は使えません。発情状態にされた相手は、認知可能な任意の生物に欲情します。あなたは相手が欲情する対象を自由に選ぶことができ、相手自身を選ぶこともできます。この能力は比較的万能であり、あなたが視認している間に条件を設ければ、時限式にすることもでき、感度の強弱を決めることもできます」
「ということは、欲情はしているのに全く感じない体にすることもできるわけですか」
「はい。ですが、相手の肉欲をなくすことはできず、能力を行使すると必ず最大になります」
「スイッチのオンオフではなく点火式ということですね」
「そうなりますね」
ふふふ。
素晴らしい。
つまり僕の能力は、視界に捉えらさえすれば相手を自由にできるんだ。
「ところで、能力が解けた人はどうなるんでしょうか?」
「カナトさんの能力が効いている間は常に発情状態になり、解除後は徐々に収まっていきます。冷め方は人それぞれで、その後にどんな反応をされるのか一意に決めることは難しいです」
なるほど。
無闇矢鱈に使うことはできないと。
まあ記憶が消えたりしたら面白くないからな。
やってやろうじゃないか。
「んじゃ早速異世界に送ってください!」
「はい。くれぐれもお気をつけて。死ぬことはないと思いますが、平穏にお願いしますね」
「は、はい」
遠い目で僕を見つめる女神様。
なんだか奇妙なエールを送られ、僕は異世界へと旅立った。