何でもいいって言ったよね?
なんちゃってファンタジー、エセ逆ハー。
褒美、ですか……?
あぁ、魔王を倒した褒美に、国王陛下から何か賜るのでしたっけ。旅に出る前のことなのですっかり忘れていました。もう3年になりますからねぇ。
しかし気が早くはありませんか。倒すどころか、まだ魔王の根城に踏み込んですらいませんよ。そういうのを私の故郷では捕らぬ狸の皮算用とか死亡フラグとか言うんです。要するに、何事も成し遂げてから成果を望むべきであり、為さないうちに望めば足元をすくわれると言う事です。
……はぁ。
え? いえ、何でもありません。ちょっとツッコミが欲しかっただけです。私の我儘です。お気になさらず、殿下。
はぁ、ごまかしているつもりもないのですが。
士気を上げるって……程々の緊張も必要ですが、リラックスも大切ですよ、団長。そうやって力むから大事な時に失敗するんです。ただでさえ脳筋なんですから、これ以上思考を一本化しないでください。
え、魔術師長……遺言、ですか? あぁ、万一、倒せたのに死ぬなんてことがあったら嫌ですもんねぇ。
私、死んでも死に切れませんよ。褒美の為に異世界で魔王を倒すなんていう割に合わないことやってるんですから。
忘れてただろうって? ……気のせいじゃないですか?
……うるさいですねぇ。縁起でもないって、何言っているんですかお二方。倒せばいいんでしょう、倒せば。九割九分九厘で倒せるんですから、こんなもの食事時の余興ですよ。話のタネにすぎません。
で、何の話でしたっけ。
あぁ、褒美でしたね。
魔術師長は何か望みがあるんですか? ……へぇ、素敵ですねぇ。ご自分の育った孤児院へ寄付を。そういえば孤児院を経営していた貴族の横領があって、随分と苦しい生活だったんでしたっけ。
実際、身寄りない子供であったあなたが魔王を倒した英雄となれば、国も埋もれた才能の発掘に動いた方がいいでしょう。魔術師長、この際だから教育や福祉関連全体への長期的な投資を褒美として要求しちゃえばどうですか。子供が生き生きとできる国、というのは、未来的には悪い話じゃないでしょう。
魔術師長もそう思いますか。さすが、生粋のペドは迷いがないですね。
ペドの意味ですか? 子供好きの一種ですよ。……、あぁ、はい。悪気はあります。よくわかりましたね。
さて、団長はどうです? なんでそんなキョトンとするんですか。ゴツイ、ムサイ、暑苦しいと三拍子そろったあなたの天然顔なんてマジ誰得ですから。
名誉があればいい? 何を言ってるんですか、この際だから毟りとればいいでしょうに。こっちは命と人生かけてるんですから。私なんて、花の乙女のティーンエイジャーだったのに、肌はボロボロ身体はムキムキ。今じゃ可食植物の見分けばかりうまくなって……どうしてこうなった。
えぇ、この際ですから爵位と領地でも貰ったらどうですか。お父さんと仲悪いんですし、自分が初代となって家を興してしまうというのは。
はい? 外聞? 魔王殺しの英雄騎士ですよ? そんなの適当に言いくるめちゃえばいいでしょ。幸い、あなたの親友である魔術師長は口が達者ですし……ほら、本人もやる気じゃないですか。え、領地全体で子供に対する支援? ……まぁ、私は口出ししませんが。
さて、食事も終えたことですし。片づけて寝ますか。明日はいよいよ決戦日ですからねぇ。
……え、殿下ってば、そんなにご自分の褒美について語りたいんですか?
まぁまだ眠くもないですし、子守唄代わりに聞いておきましょう。途中で寝るかもしれませんけど、火の番はいつも通りに殿下からお願いしますね。
……冗談ですよ、ちゃんと聞きますよ。悪かったです。だからその、女の子に袖にされて意地を張る小学生男子みたいな態度止めてください。成人男性にそれやられると痛々しいですから。
それで、殿下は一体何を願うんです? ここは順当に王位ですか? このまま魔王殺しの英雄となれば、わざわざ願わなくとも叶いそうなものですが。
……はい?
いえ、その。
……まぁ、こういったのは個人の自由ですしねぇ。
そうですか。
えぇ、いや、ちょっと予想外というか。
好きな人と結婚する権利、ですか。
殿下、婚約者さんいるじゃないですか。どうするんですか。……いや、そんな顔されましても。まぁ、確かにちょっと性格きつめですけど、いじらしく可愛らしい方じゃないですか。
殿下がどうしてもと望むなら、まあ、止めはしませんけど。もし実行するなら、アフターケアは万全にしておかないとダメですよ。適当にポイなんて女性の敵ですからね。しっかりと、殿下に勝るとも劣らないような素敵な殿方を紹介しなくては。
は、そんな男がいるのかって……これだから俺様系は。いえいえ、何でもありません。不敬罪なんてとんでもない。殿下は身分も能力もご立派で、魔王殺しの英雄となればまさしく、非の打ちどころない美丈夫でしょうよ。
……殿下って、乙女ですねぇ。いや、男なのは分かってますよ。見た目が少女漫画だとは思っていましたけど、中身までとは思いもよらなかったです。
馬鹿にはしてませんよ。呆れてはいますが。
ほら、片付けも終わりましたし。私はもう寝ます。見張りお願いしますね、殿下。
……私の願い、ですか?
そんなに気になりますか? ……まぁ、無欲とは程遠い人間だと常々言ってますしね。聞いておいて隠すつもりかって……嫌ですね、女性の秘密を無理やりに暴こうだなんて。モテませんよ。
……冗談ですって。
大したことじゃないんですけどね……まぁ、ちょっと恥ずかしいんですよ。子供っぽいというか、そんな感じでして。
……食い下がりますねぇ。今日はごまかされませんか。
仕方ないですね、他の二人には内緒ですよ。変に勘ぐられたくないですからね。特に魔術師長は勘がいいですから、絶対にダメですよ。
はぁ、全く。
仕方がありませんねぇ。
誰にも言わないでくださいね?
……殿下と、一緒ですよ。
はい、これ以上は何も話しませんよ。私は寝ます。う、うるさいですねぇ、相手なんて誰だっていいでしょう。殿下にお話しするつもりはありません。は? 団長と魔術師長? いやいや、私そこまで男の趣味悪くはないですよ。
どうしても知りたいなら、魔王を倒した後にしましょう。どうせ国王陛下に申し上げるときには一緒にいるんですから。その時でいいじゃないですか。そうしましょうよ。こういうことは口に出さないのが粋ってものです。
……そうですね。また明日。
それじゃ。おやすみなさい。
後日、魔王を倒し世界を救った王子が褒美として「勇者との婚姻」を願うが「故郷においてきてしまった恋人との結婚」を願った勇者によってあっけなくフラれ、勇者だった彼女が永遠の喪女としてひっそりと隠居するのは、また別のお話。
勇者
異世界召喚されたごく普通の女子高生、だった。4年の間に心も体もたくましくなり、実質世界最強。全てを奪い、全てを押し付けた異世界の住人全員に「地獄に落ちろ」と思っている。発言に迂遠な表現が多いのはわざと、言葉は通じても心まで通じようと思っていない。
第二第三の魔王になってやろうかとも思っていたが、それも面倒でやめた。魔王を倒した後に生まれた子供に罪はない、として拾った赤ん坊を可愛がったりする。
殿下
勇者に振られた(ある意味)鈍感男。仲間や友人以上の存在として見られてなかったのに気付かず、好意を感じて特攻して玉砕。残念な俺様系イケメン。
団長
騎士団長。格式高い貴族の生まれだが、腐敗している親戚一同に嫌気がさし実力で騎士として成り上がる。当時は多方面からいろいろと言われた。勇者のアドバイスにのり、爵位と領地を賜り、良い領主となる。脳筋系。勇者は弟子であり妹感覚。
魔術師長
元々は孤児だったが才能を見いだされて成り上がった。いろいろからかわれるがペドではなく、純粋に孤児院が好きなだけ。唯一、勇者の暗い感情に気付いていたが、止める理由もないと放置。ある意味似た者同士で、ケンカ友達。
最近流行りのざまあを読んでたらどうしてこうなった。




