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六.震 源

 一風変わった研究をすることで有名な○○大学は学術界の異端児的存在でだった。

 例えば、「鳥にフンを落とされやすい車種と色の関係性」や「極寒地での高温麺類食品サンプル化に適した屋外諸条件」、「抹茶によるアレルギー性鼻炎抑制メカニズムの解明」といった具合に、とにかく変わったことを研究したがるので、毎年イグノーベル賞候補にその名を連ねている。

 もっとも、大学側は「ユーモアと笑いに(あふ)れたユニークな研究によって殺伐とした社会の潤滑油の一助になることを旨とする」と(うた)っている。


 さて、本題に戻るとして、ズレの暗号が示す場所に着いた律は、研究所の玄関に掲げられた木製の縦看板に注目した。

 看板には「○○大学付属科学技術研究所 別館」と記され、似たようなフォントのズレないかと、律は改めてノートを見直した。


(暗号は館内に入ることを示しているが、勝手に入っていいのか?)


 一応は私学とはいえ、れっきとした公的な学術研究機関である。

 しかも、助成金という名の税金が投入されているとなれば、行き付けの呑み屋のように、おいそれと入れないのが常である。

 しかし、辺りを見渡しても警備員の詰め所らしきものはなく、エントランスにはドアホンも見当たらない。


(不用心にもほどがあるな)


 こんな緩いセキュリティなら、カギすら掛かっていないんじゃないかと、律は大胆にもエントランスの両開きガラス扉のドアハンドルに手を掛けた。。

 案の定、ガラス扉は簡単に押し開き、律は難なく中に入れたが、逆に心配になってきた。


(大丈夫なのか? でも、さすがに防犯カメラくらい……)


 と思って天井付近を見たものの、こちらもない。

 あると言えばホール受付に置かれた内線専用の白い電話機くらいである。

 その電話機の横には「御用のある方は受話器を上げて、下記の番号を押してお待ちください」と、お馴染みの文言記されたプレートが置かれていた。

 律はノートを広げて類似したフォントのズレを探した。


(確かゴシックのUDかUPに似たようなズレがあったばずだが……)


 ページを二、三枚めくたところで、律は思わず口元を(ゆる)めた。


「やはり、ここがすべての“震源”だったか」


 意味深なことを呟いた律はノートを閉じると、別館の仄暗(ほのぐら)い廊下を突き進んだ。

 律がホールを後にして間もなく、エントランスに若い男が二人現れ、律の後を追うように廊下の奥に消えた。

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