表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信終了!え?俺Vtuberだったよな..?  作者: マスク餃子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

第一章 ― 最高司令は、まだ画面の向こうにいる ―


モニターの向こう側では、世界が崩れていた。


燃え盛る城壁。

砕け散る魔法障壁。

視聴者数は五十万を超え、コメント欄は歓声と悲鳴で埋め尽くされている。


『――ここで切り札を使う!』


マイク越しに響く声は、よく通り、少しだけ演技がかっていた。


画面中央に映るキャラクター。

黒と紫を基調にした軍装、銀灰色の髪。

その名は――


《グリンド・ユーステイス》


某国の軍最高司令。

史上最年少、19歳。

魔法の実力のみでその地位に上り詰めた、冷酷無比な支配者。


――という“設定”。


『赤と青を同時展開。はい、ここで紫属性』


画面内のグリンドが腕を振ると、

赤い放出魔法と、青い引力操作が重なり合い、

敵軍の中心が圧縮されるように消失した。


コメントが爆発する。


〈紫きたああああ〉

〈司令官マジ容赦ねぇ〉

〈でも理屈ちゃんと説明するの好き〉


「……」


モニターの前で、配信者本人――

現実世界のグリンドは、無言で画面を見つめていた。


(やりすぎ、か……?)


設定上は冷酷。

だが、配信の中であまりにも虐殺描写が続くと、胸の奥がざらつく。


(助けられるなら、助けたい)


それが本音だった。


だからこそ、

魔法の仕組みを丁寧に説明し、

「無駄な殺しはしない」という演出を混ぜる。


――おせっかいで、優しい性格。

それが、演じきれない“素”だった。


配信終了。


「ふぅ……」


ヘッドセットを外し、椅子にもたれかかる。


「今日は……ちょっと疲れたな」


机の上には、設定資料の山。

魔法体系、政治構造、神々の関係。


特に気に入っているのは、三属性理論。


赤――放出。

青――引力・操作。

緑――修復。


(青で電気を説明したの、我ながら上手かったよな)


電気とは、粒子の偏りと移動。

つまり――引力操作の一種。


自分で考えた設定に、自分で感心する。


「……まあ、所詮は設定、だけど」


その時。


視界の端で、モニターが歪んだ。


「……?」


最初は目の疲れだと思った。

だが、歪みは広がり、画面全体が――


引き込まれる。


青。

いや、紫に近い。


「ちょ、待――」


椅子ごと、身体が前に引っ張られる感覚。


耳鳴り。

視界が反転し、上下の感覚が消える。


(……これ、設定と同じ……?)


赤と青が混ざると、紫になる。


圧縮。

吸引。

世界そのものが、折り畳まれる感覚。


――そして。


静寂。


石の冷たさが、背中に伝わった。


「……は?」


目を開けると、そこは――


高い天井。

荘厳な柱。

見知らぬ紋章が刻まれた大広間。


ざわめき。

ざわめき。


「最高司令が……目を覚まされたぞ」


「まさか……本当に?」


視界に映る人々は、

全員が自分を知っている顔をしていた。


(……冗談、だろ)


ゆっくりと身体を起こす。


その時、

視界の端に立つ人物と、目が合った。


執事服。

銀縁眼鏡。

感情の読めない表情。


「お目覚めですか、グリンド様」


低く、静かな声。


「私はベルモット。

 あなたの――執事でございます」


(……設定通り、だ)


背筋に、冷たい汗が流れた。


これは夢か。

それとも――


「ここは……どこだ?」


問いかけると、

ベルモットは一瞬も迷わず答えた。


「王都リセルディア。

 あなたが最高司令を務める国の、王宮です」


世界が、確定した。


――画面の向こうだったはずの世界が、

今、現実になっている。


() ()()()()()()()()()()()()()()()() ()()


 王宮リセルディアの回廊は、やけに静かだった。


赤い絨毯。

高い天井に描かれた壁画は、戦と勝利、そして神々の姿。


(……全部、設定で作ったはずなのに)


一つひとつが、現実の質量を持って迫ってくる。


「最高司令としての公式謁見は、まもなくです」


隣を歩くベルモットは、足音ひとつ立てない。


「……公式?」


「はい。王女殿下がお待ちです」


その言葉に、胸の奥がわずかに軋んだ。


(エニーランド・フォバイン……)


王女。

政治的象徴。

そして、設定上は――


“最高司令に唯一、対等に口を出せる存在”。


「ベルモット」


「はい」


「……俺は、本当にここで最高司令なのか?」


足を止めずに問いかける。


ベルモットは、わずかに首を傾けた。


「その問い自体が、最高司令である証かと」


「……どういう意味だ」


「権力に疑問を持てる者だけが、権力を正しく扱えます」


淡々とした口調。

だが、そこに皮肉はなかった。


(忠誠……なのか?)


それとも、

もっと別の――


考えがまとまらないまま、巨大な扉の前に立つ。


重厚な音を立てて、扉が開いた。


そこは、玉座の間。


だが王は、いない。


玉座の横、

一段低い場所に立つ、一人の少女。


金髪。

深い蒼のドレス。

年齢は、見た目で言えば――十七、八。


だが、その場の空気を支配しているのは、彼女だった。


「――久しぶりですね、グリンド・ユーステイス」


透き通る声。


「……初対面のはずだが」


自然と、口調が硬くなる。


(冷酷で、威圧的……“最高司令”らしく)


演じる必要がある。

そうしないと、この場では――


「ええ。ですが」


少女――

エニーランド・フォバインは、微笑んだ。


「あなたがここに立つ未来を、私はずっと前から知っていました」


その瞬間。


背中を、冷たいものが撫でた。


(……何だ?)


直感が、警鐘を鳴らす。


彼女は、ただの王女ではない。


「まずは、お帰りなさい。最高司令」


「……その言葉の意味を、教えてもらおうか」


エニーランドは、少しだけ視線を落とした。


「あなたは、この国にとって“必要な存在”です」


「それは設定上の話か? それとも――」


「どちらでも、ありません」


きっぱりと、言い切る。


「これは“誓い”の話です」


(誓い……?)


ベルモットが、わずかに一歩下がる。


まるで、

これ以上踏み込んではいけない領域があるかのように。


「王家には、代々受け継がれる誓約があります」


「神との、か?」


問い返すと、

エニーランドは否定もしなければ、肯定もしなかった。


「知るべき時が来たら、知ることになります」


「……ずいぶんと都合がいい」


「ええ。ですが」


彼女は、真っ直ぐにこちらを見る。


「私は、その誓いを守っています。

 だから――」


一瞬。


空気が、震えた。


目には見えないが、

確かに“何か”がそこにあった。


(……魔力? いや……)


「この国で、私の言葉は軽くありません」


脅しではない。

誇示でもない。


事実の提示。


「最高司令であるあなたと、

 私は、同じ天秤に乗っています」


沈黙。


(……王女が、軍最高司令と対等?)


設定では、そうだった。

だが、ここまで圧があるとは。


「……分かった」


短く答える。


「俺は、最高司令として振る舞う」


エニーランドの表情が、ほんの少しだけ緩んだ。


「ええ。それで結構です」


「だが一つだけ、覚えておいてほしい」


視線を逸らさずに、言う。


「俺は、無意味な犠牲は出さない」


その言葉に、

エニーランドは目を伏せた。


「……それを聞けて、安心しました」


(……?)


「では、正式に」


彼女は、深く一礼する。


「王女エニーランド・フォバイン。

 この国の未来を、あなたに託します」


その瞬間。


“役職”ではない。


責任が、肩に乗った。


(……配信じゃ、ねぇな。これ)


逃げ場はない。


ここは、

設定の世界ではなく――


選択の世界だ。




() ()()()()()()()()()()() ()()

 王宮を出た瞬間、空気が変わった。


重厚な石造りの回廊を抜け、城壁内の訓練場へ向かう。

朝霧がまだ残り、土と鉄と汗の匂いが混じり合っていた。


(……リアルすぎる)


兵士たちの声。

鎧が擦れる音。

魔力を循環させる際に生じる、耳鳴りのような低音。


配信で見てきた光景と、構図は同じ。

だが――


「全軍、停止!」


号令が響く。


数百の兵が、一斉に動きを止めた。

その視線が、こちらに集まる。


(……全員、“俺”を見てる)


最高司令官。

この場で、最終判断を下す存在。


逃げたい、と思った。


だが、それ以上に――

背を向けたら終わりだと、本能が告げていた。


「……進捗報告を」


声は、思ったより低く出た。


前に出てきたのは、壮年の将軍。

傷だらけの顔。歴戦の気配。


「北境第三軍団、展開完了。

 魔法部隊は即応可能。歩兵は補給待ちです」


「想定より遅いな」


「……はい」


将軍は、視線を伏せた。


「理由は?」


一拍。


「民の避難が、想定より進んでいません」


(……民?)


地図が広げられる。


北境の村落。

魔物発生域の、すぐ近く。


(避難勧告は、三日前に出したはずだ)


「なぜ、残っている」


問いは、冷たい。


だが将軍の答えは、即座だった。


「畑がある。

 家がある。

 そして――」


将軍は、言葉を切る。


「逃げ場がない者も、います」


(……あ)


配信では、

「避難勧告→全員避難完了」

それが、前提だった。


だが現実は――


「魔法部隊は?」


話題を変える。


「第一陣、準備完了しています」


合図とともに、数名の魔導士が前に出た。


詠唱。

魔力の収束。


炎が生まれる。


――だが。


「……っ!」


一人の魔導士が、膝をついた。


「魔力酔いです!」


周囲がざわつく。


(設定では、魔力消費は数値管理だった)


MPが減る。

回復する。


だが、ここでは――


「人が、限界を迎える」


ベルモットが、小さく囁いた。


「魔法は、身体を削ります。

 慣れていない者ほど、顕著に」


「……」


胸が、重くなる。


「最高司令官」


将軍が、こちらを見る。


「魔物討伐を優先すれば、

 民の避難は間に合いません」


(分かってる)


「だが、避難を優先すれば?」


「魔物が村を越え、被害は拡大します」


盤面は、理解している。


だが――

どの手も、血を伴う。


「……被害想定は」


声が、少し掠れた。


「最小でも、民間人に死者が出ます」


その言葉で、

世界が、はっきりと色を変えた。


(……数字じゃない)


配信で扱ってきた“犠牲”は、

ただの数だった。


だが今は――

名前があり、生活があり、

生きている人間だ。


「……」


沈黙が、重く落ちる。


全員が、待っている。


この場で、

誰かの生死を決める言葉を。


(……俺は)


逃げるわけにはいかない。


「……方針を変える」


静かに、だがはっきりと告げた。


「魔物討伐と避難を、同時進行で行う」


ざわり、と空気が揺れる。


「魔法部隊は前線維持に専念。

 主力は防衛線を構築し、

 機動部隊を村落救出に回す」


「しかし、それでは戦力が――」


「足りないのは承知だ」


将軍の言葉を、遮る。


「だから」


一歩、前に出る。


「俺も出る」


一瞬、

時間が止まった。


「……は?」


「最高司令官自ら、前線へ?」


「魔法運用の最適化は、俺が一番理解している」


嘘ではない。


理論も、構成も、

全部――自分が作った。


だが。


ベルモットが、低く言った。


「……危険です」


「分かってる」


それでも。


「ここで机上の判断をしたら、

 俺は“設定”のままだ」


視線を、兵士たちに向ける。


「現実を見ない司令官に、

 命を預けられるか?」


誰も、答えない。


だが。


その沈黙こそが、答えだった。


「……行くぞ」


命令は、震えていなかった。


だが胸の奥は、

確かに――恐怖でいっぱいだった。


(……これが、現実)


魔法は、便利じゃない。

軍は、完璧じゃない。

民は、数字じゃない。


それでも。


「生きて、全員で戻る」


それだけは、

命令じゃなく、誓いとして口にした。


兵士たちが、剣を打ち鳴らす。


その音が、

初めて――


自分の選択に、命が応えた音に聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ