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廃嫡されちまったもんは仕方ない!  作者: 加上汐


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(4)俺のせいにしていいですよ。

 エレノールは、生まれながらに王妃になることが決まっている女だった。

 なのでレアン王子以下三馬鹿と幼馴染で、昔から交流があったのだ。

 だが、あの女は、あるいはヴァルモン家は、ただの王妃の座では満足しなかったのだろう。

 王家と、宰相家と、騎士団。そのすべての力を削ぐために、三馬鹿を利用した。

 ――つまり。あざと男爵令嬢ミレイユは、エレノールの仕込みである可能性が高い。


 とまあ、今更気づいても、後の祭りである。

 俺は辺境騎士団所属だ。辺境は王家直轄地だし、他国との国境から一番遠い。つまり逃げ出す先がそもそもないってこと!

 辺境行きを決めたのは親父だろうけど、まあえらいところを選んでくれたもんよ。政治とか情勢とか気にせず毎日魔獣斬ってればいいってだけなのは気が楽なんだけど。



 辺境で一年経つと、俺は戦果を挙げられるようになってきた。

 二年目になると、小隊を任されたが、これはあんまりうまくいかなかった。俺、戦ってるとき周り見えなくなるタイプっぽい。マネジメント業務向いてねえな。

 三年目、小隊から外されて特殊部隊に入れられた。この特殊部隊こそが辺境騎士の華、って感じのポジションなんだが、出世からはかけ離れている。あと言うても辺境の華なんで別にたいした地位でもないし。

 ただ、強さを追い求める兵士の憧れ――一騎当千と認められた兵士のみが入れる、単独行動部隊なのである。


 この世界には魔法があるため、個人の武力というのは洒落にならない。エミリーが一人で戦況を変える力を持つように、俺も剣を振り回していればそんな感じと見なされ始めたってことである。

 ちなみに兵士以外にも、ファンタジー・ザ・あるあるの冒険者というのも存在する。辺境騎士団は魔獣の森からもりもり出てくる魔獣を間引くが、冒険者はそれ以外の魔獣を倒したり、ダンジョンに挑んだりする。

 ダンジョンにも魔獣が生息しているのだが、古代魔法により基本的には魔獣はダンジョン外には出ないようになっているらしい。なのでダンジョンがある土地の領主が冒険者を募って、ダンジョン内の資源を外に持ち出し売りさばく市場ができているのだ。ファンタジーRPGすぎんね。

 そういう冒険者ってのは少人数パーティーで動くことが多く、特殊部隊もこれに近い。ただ、俺は特殊部隊の先輩のパーティーに入ることはなかった。


 なぜなら、エミリーとバディを組むことになったからだ。


「いいの?」

「構いません」

 アドラスはエミリーと五年ほど婚約していたが、廃嫡されて辺境に来てからの二年ちょっとのほうがよっっぽどエミリーと会話をしていると思う。なのでまあ、それなりに気安い仲になっている。

 エミリーは相変わらず友達が少なく、誰かと会話をしてもほとんど仕事の話しかしないらしい。多分なんだが、単純にコミュ力がない気がする。

 俺はディアンナを振りセシリアを振りマーガレットを振り、そのあたりで俺とエミリーが付き合ってんじゃないかと噂になった。なのでこの「いいの?」は噂がいよいよ手に付けられなくなるけどいいの?の問いでもある。

「アドラス様なら、うっかり氷漬けにしても帰還してくれそうですし」

 以前一般兵士を半分くらい氷漬けにしてしまい、結構怒られたのだ。以来、エミリーは「氷結の魔女」とか呼ばれている。チューハイみたいで草。

「うっかり殺されないように気を付けっか~」

「手加減って大変なんです」

「戦場の死者の十五パーセントがフレンドリーファイアの話?」

「ふふ。まだ殺していません」

 まだって言った!なんかもう付き合ってる噂とかどうでもよくなってきたな。毎日がデッドオアアライブになるからです。


 てなわけで、三年目。エミリーと組んでバチボコに魔獣を討伐した。討伐数がトップだったので、マジで最強になりました母上。

 四年目。同上。


 五年目。

 国王になった第二王子、つまりレアンの弟が、なぜか辺境にやってきた。

「エミリー!君を迎えに来た!」

 そんで、エミリーに求婚し始めた。なんで?

 エミリーに顔を向けると、彼女もなんで?という顔をしている。

「ご乱心なさいましたか」

「何を言う!この四年半、君を忘れたことなど一度たりともない」

 第二王子って、結構レアンに似てるな。話を聞かないところが。

「今の私には君が必要だ!皆のもの、いまこそ立ち上がるときだ!そして毒婦エレノールとヴァルモン公爵家を打倒する!私はそのためにここに来た!勝利の女神は今我が手に!」

 ……、なんて?


 みんなポカンとしていて、事態をわかっている人は誰もいない。エミリーも固まっている。

 しかしよく見れば国王も護衛も薄汚れた格好だ。今、エレノールを毒婦とか言ってたし……、もしかして王都からここまで逃げてきたのか?!

「国王陛下!一体どういうことなのです?!」

 騒ぎを聞きつけたのか、辺境騎士団の団長が転がり出てくる。国王は「うむ!」と大仰に頷いた。

「言ったとおりである!今や王都は毒婦エレノールによって支配されている!そう、我が兄レアンもだ!」

「れ、レアン殿下、ですか?」

 団長が思わずと言ったふうに尋ねる。ここでレアンの名前が出てくるとは思わず、俺も映画を見てる気持ちで固唾を呑んだ。

「毒婦エレノールはあろうことか、レアン兄上の種を孕んだのだ!そしてレアン兄上を傀儡とし、我が王国を乗っ取ろうとしている!」

 え、ええ〜……。

 エレノールが子供を産んだという話は聞いていた。王家の慶事だからな。しかし、その相手が国王でなくレアンってこと?本当ならスキャンダルだろ。

「そして議会はヴァルモン公爵に牛耳られ、税が上げられ、民は困窮している!それは諸君も感じていることではないか?!」

 国王の演説に感じるものがあるのか、兵士たちがざわつき始めた。辺境においては魔獣被害があるからそこまで変化を感じないが、王国全体が不景気で治安が悪くなっているのは確からしい。

「辺境の勇猛なる兵士たちよ!今こそ立ち上がる時!悪しきヴァルモン、そして毒婦エレノールからこの国を救うのだ!王権は我にあり!そして、我が勝利の女神はここにあり!!」

 国王の護衛たちがうおおー!と雄叫びを上げる。それにつられて、兵士たちの何人かは拳を突き上げた。

「国王陛下万歳!」

「国王陛下万歳!」

「リサンドル王国に栄光あれ!」


 えーと、つまり。

 エミリーというつよつよ魔術師を使って、暴力でエレノールを追放したいってこと?


「どうすんのエミリー」

「どうしますかね……」

 エミリーは困ったように首を傾げた。このままだと流されて国王軍に加えられて、ヴァルモン公爵家と全面対決ってことになる。ヴァルモン公爵家が王都を牛耳ってるなら、当然ブレイズ伯爵家はそっち側になる。肉親と殺し合うのって困るよ〜。

 団長もどうやって収拾つかせるんだこれと頭を抱えている。しゃーねーな。


「お待ちください陛下!」

 俺はクソデカボイスで万歳コールを遮った。国王が俺を振り向く。

「お、お前は……!」

「辺境騎士団を連れて王都に向かうおつもりというなら、その間、いったい誰が辺境を魔獣から守るというのでしょうか!!」

 一瞬にして、それはそう。という雰囲気になった。

 そうなんだよ、魔獣を狩る騎士団がいなくなったらそもそも国がヤバい。これはこの国の常識だ。

「そ、それはだな。この二年、魔獣の討伐数は目に見えて増えているではないか!多少離れたとて民への危険は最小限に抑えられる!」

 あー、エミリー狙い撃ちしてきたのってそのせいね。

 エミリーと俺が組んだことにより、確かに魔獣の討伐数は増えた。国王はそれを見て、エミリーという最強魔術師がいれば王城なんて吹っ飛ばせると思ったのかもしれない。まあ、吹っ飛ばせるかもしれんが。


 ちなみに、王都と王城を守る王国騎士団には魔法兵はいない。魔法兵ってのは、辺境騎士団にしか存在しない特殊な兵士なので。

 そもそも魔法を使うための魔力を持っているほとんどは貴族で、貴族の中では攻撃魔法は超マイナーどころか忌避されるものなのである。冒険者のイメージが強く、野蛮だということらしい。肉体強化や剣術はOKなのに攻撃魔法がNGなのはよくわからんが。

 どっちかというと、攻撃魔法ってめちゃくちゃ難しいのが原因な気がしなくもない。あと強すぎるから規制したいのかもね。魔獣を狩る辺境騎士団においては国防に有益、かつ辺境から離れられない存在なのでギリ目溢しされているというところだ。

 つまり、王都において魔法兵が無双できるという国王の考えは間違ってはいない。


 その「辺境から離れられない」前提を、「エミリーが強すぎて魔獣を狩りまくったから可能」という言い訳で国王は覆そうとしているわけだが。

 この言い訳には、全員がしらーっと白けた。こいつ、何もわかってないな……という顔で。

「無理です!魔獣は減っておりません!!」

「討伐数が増えているではないか!」

「はい、増え続けていますとも!なにせ、減っていないんです、魔獣の数が」

 これ、よく考えたら怖い話なんだけど。

 魔獣、マジで減らんのよ。エミリーというつよつよ魔術師の力を以てしても、減ってない。増えていると言ったほうがいいかもしれないが。

 そりゃ、騎士団側の被害は減ったよ。エミリーが率先して魔法で仕留めてくれるからな。でも数が減らず、辺境騎士団が国境を守り続けなければいけないことに違いはない。

「まさか、国王陛下ともあろう者がそんなことも知らないとは!いや!ありえぬ!さては貴様、偽物だな!!」

「なっ、なんでそうなる……!」

「上様を騙る不届き者め!覚悟せい!」

 時代劇のノリで剣を抜くと、国王の護衛が慌てて飛び出してきた。それを斬っては捨て斬っては捨て、国王も気絶させて終了です。俺、強すぎる。

 下っ端に縄を持って来させて国王とゆかいな仲間たちをふん縛っていると、ようやく我に返ったらしい団長が俺の肩を掴んだ。

「あああアドラス!本物の国王陛下だったらどうするつもりだ!!」

「落ち着いてください団長、今ここで話するのまずいんで」

 こそっと耳打ちすると団長はハッとする。こんな誰が聞いてるかわからないところじゃあね。

「とにかくどこか、適当な場所に護送しましょう」

「そ、そうだな」

 団長も国王が本物だと分かってはいるのだろう、恐る恐る部下に指示して運んでいく。


 国王とゆかいな仲間たちが運ばれた先は騎士団本部の屋敷の応接間だった。ギリ礼儀を尽くしてる感じというか、苦渋の決断ですね。

 俺は説明義務があるのでついてきたけど、エミリーも何故かついてきた。声をかける前に団長が振り向いたから話しかけられなかったけど。

「さて、アドラス。どういうつもりだね?」

 ちなみに団長も貴族で、伯爵だ。とはいえ、王家の土地である辺境の治安維持をしているだけだから、ファンタジーによくある辺境伯ってわけではない。

 そして家柄はわりと生粋の王家派。なので国王が本物だったらまずいのはその通り、慌てようもわかる。俺はつとめて落ち着いて説明する。

「一応、この陛下は本物だと思います」

「……ならば何故あんなことを?」

「本物だからですよ。俺たちの責務は辺境を守ることであり、国王陛下の命令だとしてもそれを放棄することは許されません。しかし実際はどうですか?団長はアレを突っぱねることができたと思いますか?」

「う、うむ……」

 国王に協力して辺境を放置し、国を魔獣まみれにして責任を取らされて死ぬか、国王に協力せずに死ぬか。どっちにしろ詰みってワケ。

「俺はまあほら、前科ありますし。陛下を疑いつつ時間稼いでくださいよ。全部俺のせいにしていいですよ」

「アドラス……。しかし、陛下が本物となるとこれからヴァルモン家と戦うのは必然だろう?」

 あれだけ大騒ぎしたんだ。辺境騎士団にはヴァルモン家派閥の奴だっているからね。そりゃすぐ伝わるし、国王は狙われるだろう。

 なにせ、レアンはもうエレノールの手中だ。レアンを傀儡にできるのなら、国王はもう不要なのだ。

「お前のような者がいれば、あるいは……」

 団長が言ってるのは俺が辺境騎士団でも指折りの腕利きだから、ヴァルモン家とやり合うには戦力として数えたいってことだろう。いや内乱のために腕を磨いたわけじゃないってば。

「そもそも、お前にはヴァルモン家と敵対する理由があるだろう」

「いやあ、まあそっすね。でも国王陛下には協力できない理由があります」

「何故だ!」

「だってあいつ、エミリーを利用しようとしたんですよ」

 俺は肩をすくめた。


 さて、国王の台詞を思い返してみよう。

 あいつはエミリーを迎えにきた、エミリーの力が必要、エミリーを勝利の女神と言っていた。俺も最初は求婚かと思ったが、違うね。

 国王ははっきり言葉にしなかった。自分の地位とそれなりにイケてる面を利用してエミリーを釣ろうとしたのだ。

 なにより、エミリーのシャルヴェ伯爵家は、ヴァルモン公爵家の分家だ。エミリーはエレノールの従姉妹でもある。実家と縁切ってるけど。

 仮にあいつがエミリーの協力を得てエレノールとヴァルモン家を打ち倒したとして、ヴァルモン公爵家派閥出身のエミリーを妻にするか?絶対に有り得ないね。


「そ、それは……」

 団長にもわかったのだろう。俺、ここのあたりの罪を重ねるわけにはいきませんのでね。

「まあとりあえず俺を追放してくださいよ。ちょっくら王都行って状況確認してこよっかなと思います」

「私も同行します」

「エミリーも来てくれたら心づよ……本気か?!」

 思わず振り向くと、エミリーはしれっとした顔で答えた。

「私も、私を兵器としか思ってない者に力を貸したくはありませんので。陛下も私がいなくなれば諦められるのでは?」

 そらそうか。エミリーもこんな変態のそばにいたくないよな。なんて男運がないんだ。

「いやまあ、うちには魔法兵が他にもいるしな……」

 一方で団長はガリガリと頭をかき、ため息をついた。

「陛下を辺境で守ることくらいはできるが……。出兵は現実的じゃない。とはいえヴァルモンを退ける必要があるのは確かだ。なんとかうち以外の勢力とコンタクトを取りたい」

「無茶な注文ですねえ」

「はあ。辺境のいいところは政治に巻き込まれないことなんだがなあ」

 魔獣狩ってりゃいいだけだからね。必要不可欠だけど、それだけだ。島流し先にも使われる。

「まあその辺は、まだ向いてる奴がいますよ。俺は実家から縁切られてますんで」

「同じくです」

「……、わかったよ。あまり無茶はするな。無事でいろよ」

 返事はできないので笑っておくと、団長はまたでかいため息をついた。エミリーだけは死ぬ気で無事で返すから、大丈夫だって。

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