(1)どう考えても今じゃない。
「エレノール・ド・ヴァルモン!そなたの悪事はここに全て明かされた!下々を虐げ蔑ろにするそなたのような悪辣な女、王太子妃には相応しくない!今、レアン・ド・リサンドルが婚約の破棄を言い渡す!」
リサンドル王国の第一王子、レアンはまるで罪人への判決を下すように朗々とした声で言い放った。ざわめきが広がり、視線が一人の令嬢に突き刺さる。
ヴァルモン公爵家の長女――彼女こそがたった今婚約破棄を言い渡されたエレノールだ。糾弾されたにも関わらず、背筋はピンと伸び、見るものを畏れさせる威圧感がある。しかし、それはレアンたちには通用しない。
「王太子妃になろうという令嬢が、このような悪事を働くとは。全く、嘆かわしいことです。殿下との結婚を防げたのが不幸中の幸いでしたね」
眼鏡を押し上げるのは宰相の息子である、ダミアン・ド・コルヴォー。
「残念です、姉上。あなたがこんな方だとは。ですがご安心を。ヴァルモン公爵家は僕が正しく導きます」
まだあどけなさが残る、ヴァルモン公爵家の養子であり跡取りであるアレイン・ド・ヴァルモン。
「さっさと頭でも下げたらどうだ?お偉い公爵令嬢サマはそんなこともできねえのか!?」
威嚇するように声を張り上げる、騎士団長の息子であるアドラス・ド・ブレイズ。
「レアン、こんな、みんなのいる場で……。いくら悪いことをしたからって、エレノール様がおかわいそうだわ」
そして、レアン王子の腕の中で目を潤ませ声を震わせているのは、フォブレ男爵家のミレイユだった。そう、彼女こそがこの婚約破棄断罪劇場のヒロインである。
「おお、ミレイユ!そなたはなんと清らかなのだろう!だがこのレアン、王太子としてこのような悪事は見逃せぬ!許せ、同じ被害を防ぐためなのだ!」
「レアン殿下、そこまでお考えになっていらっしゃるのですね……!」
「ふふん、王太子として当然のことだ」
胸を張るレアンにミレイユがしなだれかかる。それを見て、エレノールは形のいい唇から失笑を漏らした。
――ヒロインは、確かにミレイユだろう。だが、主人公は違うのだ。
「エレノール!そなた、何がおかしい!」
「何が?全てでございますわ、レアン殿下。この茶番はいつまで続きますの?」
鋭く言うレアンと対照的に、エレノールの声は淡々としたものだった。しかし一度口を開けば、誰もが彼女の声に耳を傾けてしまう。そんなものだった。
「なんだと……!」
「婚約破棄?ええ、お好きにどうぞ。もちろん、レアン殿下の有責で。稚拙な証拠もありがとう存じます。これで、あなた方が嘘をつきわたくしを陥れようとしたということが明確になりましたもの」
エレノールはうっすら微笑み、扇を取り出した。
「わたくしには王家の影がついております。陛下にそうお頼み申し上げました。真実が何か――すぐに明らかになりましょう」
エレノールの美しい銀髪がシャンデリアに煌めく。彼女が扇を広げるのと、王国騎士たちが断罪劇の舞台であるホールに突入してくるのは、ほぼ同時だった。
そうして、茶番劇は幕を下ろした。
そして――。
「この馬鹿息子が!!!!」
鼻が潰れた。
マジで骨が折れたかと思うような激痛だった。どーすんの俺の顔がめちゃくちゃになっちゃったら!視聴者のみんなたちがびっくりするでしょーが!あっでも今顔出ししてないからなんとかなるか。いやそうじゃなく!
殴っってきた相手を見上げて、俺は一瞬呆然とした。え?誰このオッサン?オッサンと言うには美形なんだけど、まあ中年男性はオッサンだろ。ハリウッド俳優?えっ?あれ?
「レアン殿下をお諌めもせず、揃って男爵令嬢風情に熱を上げるなど!その上ヴァルモン公爵令嬢を侮辱しただと!?自分の立場を弁える能もないのか!!」
怒鳴り声は右から左に通り抜けていく。いや、これ、親父?マジ?まあ親父には殴られるモンというのは、わかっているけど……。
ぶん殴られ脳を激しくシェイクされたからか、知らない記憶が俺――アドラス・ド・ブレイズに芽生えていた。伴って、多分人格も前世寄りになっている。は?前世?
えっ、じゃあなに。俺、異世界転生ってやつした感じ?
「貴様のような者はもう息子とは思わん!廃嫡だ!!」
ちょっと待て今じゃないだろ前世の記憶芽生えるの。どう考えても今じゃない。廃嫡された瞬間人格変わるのおかしいだろ!!!!
詰んだ。
えーと、状況を整理しよう。
俺は、リサンドル王国騎士団長であるブレイズ伯爵を父に持つ、アドラス・ド・ブレイズ。伯爵家の長男だ。アドラスには弟がいる。俺が廃嫡されたってことは、弟が家を継ぐんだろう。ついでに騎士団も。
そんで、親父は騎士団長でありながら、国王陛下の親友でもあった。なのでアドラスは幼い頃からレアン第一王子の側近として共に過ごしてきた。
似たような形で側近入りしてたのが、宰相であるコルヴォー侯爵の息子、ダミアンだ。俺様何様王子様のレアン、自称頭脳派のダミアン、そして脳筋馬鹿のアドラス。こいつらは幼馴染だったってわけだ。
同じく幼馴染枠だったのが、ヴァルモン公爵家のお姫様、エレノールだ。とはいえ男女の差があったので、エレノールは多分俺たちのことを三馬鹿だと嫌ってあまり近づかなかった。
まあ、虫を片手に三人がかりで追いかけ回されたらフツーに嫌になるよな。相手が王子様だろうが何だろうが、死ねカス。って感じだろう。女はそこんとこ一度敵認定すると怖い。姉貴がいたから知ってる。姉とは逆らえない生き物なのだ。
しかしこのエレノールを義姉に持ちながら叛逆した勇者がアレイン・ド・ヴァルモンだ。ヴァルモン公爵家の一人娘とレアン王子の婚約が結ばれた以上、エレノールは家を継げない。てことで養子入りした親戚の子供だと聞いている。
まあ、よくある悪役令嬢モノ小説まんまの展開と思ってもらって構わないだろう。マジでなーんも捻りがない。プライドだけは一丁前で顔以外の出来は平凡なレアンは優秀なエレノールに劣等感と嫉妬心を抱き、貴族の子女が通う学園でヨイショしてくる男爵令嬢にすっ転んだ。最近貴族として引き取られるまで平民として暮らしていたっていう触れ込みの天真爛漫無邪気あざとガール、ミレイユだ。
ミレイユはマジであざとかった。男の落とし方がわかってる女だった。純粋培養の貴族男子なんてイチコロだったに違いない。だってレアンだけじゃなくてダミアンもアレインもアドラスもミレイユにベタ惚れだったからな。逆ハーってやつだ。
ミレイユは王太子妃、そして将来の王妃になろうと画策し、エレノールに冤罪をおっ被せた。話を聞いたレアンと側近の馬鹿どもは全てを鵜呑みにし、存在しないはずの目撃者たちと共にパーティーでエレノールを糾弾。しかし一枚上手のエレノールは最初から王家に監視を頼んでいたので、当然無実が証明されるってわけ。
じゃあ、悪いのはレアンと側近どもとミレイユだよな。王家といえども、ヴァルモン公爵家を敵に回すとか末恐ろしいことはできない。
レアンは当然王位継承権を剥奪されるし、ダミアンは宰相になれるわけないし、アドラスは騎士団長になれるわけないし、アレインは公爵になれるわけがない。ミレイユも王妃なんてなれるわけがないっていうか、一番身分が低いんだから何なら普通に処刑されるだろう。
いやー、怖い話だね!
俺の話なんだけど!
一応殺されずに済みそうなのはよく考えたらホッとしたわ。転生・即・死は物語が始まんねーだろ。廃嫡ってつまり社会的な死なんだけどねー。
あ、今は自室に幽閉されてます!鼻は曲がったけど折れてなかったぜ。丈夫というか、この世界には魔法があるんだな。反射的に肉体強化を使って致命傷を防いでいたっぽい。それでもクソ痛いから物理で魔法を貫通してて、どんな拳だよこえーよ騎士団長。
「廃嫡か~」
ベッドの上で目を閉じて考えてみる。廃嫡ってなると、これまでアドラスが思い描いていた未来予想図は当然全滅だ。まあレアンみたいな俺様が王様になるとかぞっとしないし、ダミアンみたいなアホが宰相になったらおしまいだから、国にとってはグッドエンドなんだろうけど。
今の俺?別に騎士団長とかどうでもいいかな。ブレイズ伯爵って爵位はこの王国騎士団長の肩書に付随しているようなもんだから、弟が騎士団長になんのかー。あのクソガキが騎士団長になるのはむかつくなー。
まあ、もう覆しようがないわけだし。じゃあ婚約も弟にスライドかな。婚約……。
あっ!婚約者いたじゃん、俺!
えーと、これまた定番な話である。アホ側近共にも婚約者のご令嬢たちがいて、しかしミレイユにぞっこんなアホは当然婚約者をないがしろにしまくっていた。俺の婚約者は伯爵家のお嬢さんで、エミリー・ド・シャルヴェという、清楚系美少女だった。ちょっと地味っぽくて、自分に自信がない感じの、でも笑うとかわいくって、隠れファンが多くって、負けヒロインの具現化みたいな。
そう、俺の好みドンピシャの美少女なのである!!
「アドラスの馬鹿野郎!!!!!!!」
オメーがアホやんなきゃ美少女と結婚確定勝ち組人生だったのに!思わず机を叩いた。やべー音立てて割れた。
えっ、素手で机割れることある?転生したらゴリラでした?
「暴れなさるな!!」
その瞬間ドアがバーンと開いて、青筋立てたツルッパゲの騎士がドカドカ入っていた。ガチの槍を携えている。こいつは俺のお目付け役というか、監視役として親父が配置した、親父の側近である。
「えっ、あの机割れたんだけど」
「アドラス様が割ったのでしょうが!」
「そ、そうなんだけど……割れちゃった……えっ、弁償しなきゃダメ?ごめん」
物に当たったのは悪いけど、机真っ二つにするつもりはなかったんだマジですごめんなさい。とっさに謝ると、ツルッパゲ卿は目を丸くした後に咳払いをした。
「まあ、弁償はしなくてもよろしい。……反省なさらぬようなら、外で鍛錬でもしますか」
「いいの?するする」
反省しろって言われてもね、アドラスであって俺じゃないし。俺はアドラスなんだけど。それより鍛錬ってのが気になる。アドラス、どうやら肉体スペック高いんじゃないか?という感じだし。ツルッパゲ卿は俺を叩きのめそうとしてるんだろうが、相手してくれるならなんでもいいや。
青筋立てたままのツルッパゲ卿が俺を連れ出したのは、ブレイズ伯爵家の屋敷の敷地内の鍛錬場である。
ブレイズ伯爵家には無駄に広くていろんな食客的な奴らが滞在している。騎士ってわけじゃないんだけど、腕に覚えがある輩が集まる道場みたいなもんだ。親父に気に入られればワンチャン王国騎士になれるし、どっかの貴族家に紹介してもらうルートもあるっぽい。
アドラスは幼いころからこいつらに揉まれていたので、思い返すと結構強い……はずだ。ヨイショされてる可能性は全然あるけど。しかもミレイユを囲む会を結成してからはさぼりまくっている。
てなわけで、食客どもが見守る中、いきなり訓練用の剣を持たされ手合わせをさせられた。
即負けた。
「なんですかその様は!それでもブレイズ家の者か!」
ツルッパゲオメー当然俺より強いくせに大人げねーんだよ!だって親父の側近だぞ!こん中で普通にトップクラスにつえーだろうが!
「くそ、ハゲがよ……」
「今何と言いました?」
もっかいぶちのめされた。
スキンヘッドの癖にハゲ地雷にしてんじゃねーよ!積極的ハゲだろうが!ダミアンの親父みたいな未練がましいハゲだったら俺もハゲハゲ言わねえよ!言うかも!
とはいえ実際ツルッパゲ卿は強いし、隙がない。槍だとリーチの差がありすぎるからか俺と同じ片手剣で相手をしてくれてるんだが、本当に同じ長さかこれ?!みたいな感じの届き方する。瞬間移動してない?俺もできるかな?あ、魔法使えばいいのか!
五回くらいぶちのめされると、だんだん一撃KOされなくなってきた。こっちも避け方がわかってきたが、なかなか攻撃に転じることができない。くそ、あとちょっとなんだけどな!首さえ掻っ切れば勝てんだろ!
さらに三回くらいぶちのめされたところで、外野から声がかかった。
「はっ、無様ですね、兄上。いえ、もう兄ではないんでしたっけ?」
クソガキ参戦!
そう、アドラスの弟のマデウスだ。今が人生の絶頂期だろうなー、気に食わねえ兄貴がやらかして家督ゲットできたんだから。
アドラスが親父似だとしたら、マデウスは母親似だ。いかにも体育会系なアドラスに対して、線の細い美少年というか。背も高くないので、正直弱そう。
地面に倒れ伏していた俺は立ち上がると、マデウスを見下ろして鼻で笑った。こいつ背が低いの超コンプレックスだから。見下ろすだけで煽れる。
「……ッ、なんですかその態度!あんたはもうブレイズ伯爵家の者ですらないんですよ!」
「え、そうなの?ツルッハゲ卿」
「あと百回ぶっとばしますよ。アドラス様は跡継ぎではなくなりましたが、ブレイズ伯爵家の籍はございます」
「だってさ。事実はちゃんと確認してから言えよ?赤っ恥かくのは自分だぞ~?愚弟くん」
「この……ッ!鍛錬もろくにしてなかったくせによく威張れますね!どっちが上かわからせてやる!」
別に力を示威したわけじゃねーだろ。何言ってんだこのガキ。しかしツルッパゲ卿はやれやれと首を横に振った。
「力で決めるのがブレイズ家のしきたりですからね」
「脳筋一家かよ!」
「双方構え!」
アドラスがアホなのって家の教育が悪いからじゃん!!とか言ってる間にもう始まってた。まーマデウスなんてたいしたことないだろと記憶を掘り返し高をくくっていたが。
普通に即負けた。
「もっかいもっかいもっかいもっかいもっかい」
マデウスの足に縋りつくと足蹴にされる。
「ええい負けたからには潔く認めろッ!」
「一回まぐれで勝てたくらいで威張ってんじゃねーよ愚弟くーん」
「何度でもぶちのめしてやるよクソがッ!」
二戦目。普通に負けた。
「もっかいもっかいもっかいもっかいもっかいもっかいもっかいもっかいもっかいもっかい」
「しつこい!」
「二回くらいはまぐれで勝てんだろ。何度でもぶちのめすんじゃなかったっけ愚弟くーん」
「這い蹲ってるくせにえらそうに!」
三戦目。普通に勝った。
「ハーッハッハッハッ、この俺に勝とうなど百年早いぜ愚弟くんよぉ。ほーらさっきのまぐれだろうがッ」
いや、愚弟くん思ったより強かったけど、ワンパターンなんだわこいつ。お利口な型しかできないっていうか?一戦目はナメてて二戦目は見切れなかったけどもうわかった。こいつに負けることはないぜ。魔法チョトワカってきたし。
「こ、この……ッ!」
「いいよぉ、お兄ちゃん優しいから何度でもぶちのめしてやるよぉ。もっかいやろっかぁ?」
「そうだ……まぐれだ……僕が兄上に負けるはずがない……」
ぶつぶつ言うマデウスはいっそ病的だったが、まあお兄ちゃん知らん。お兄ちゃんでもないし俺。
てなわけであと六回ぶちのめしてやった。
「アドラス様、そこまでで……」
マデウスはまだ立ち上がろうとしたが、ツルッパゲ卿に俺のほうが止められてしまった。まあ絶対勝てるゲームやんの楽しいけど、ずっとこんなことしてるわけにもいかねーか。
「うんうん。ここまでやればどっちが上かわかったもんな?いい運動になったから部屋に帰るわ俺。じゃね愚弟くーん、お元気で」
「死ね……」
「剣の腕だけじゃなくて罵倒の語彙も磨いときな。行くぞツルッパゲ卿」
「五百回ぶっとばしますよ」
ぶらぶらと部屋に戻る。運動したからよく寝れそう!やっぱ健康は食事運動睡眠だよな!あと風呂!謹慎とか言われてるけど普通においしい飯出てくるし、このまま謹慎という名の親の脛かじりライフでもいいかな~。メイドちゃんたちはかわいいしな。手出したら今度こそ殺されるかな。
で、翌日。部屋に急に来た親父にぶっ飛ばされた。
「マデウスに卑怯な手を使ったらしいな!」
「タンマタンマタンマあのクソガキパパに言いつけたの?!だっせ!!!本当にガキ!おいツルッパゲ卿俺の無実を証明してください!」
「一万回ぶっとばしますよ」
俺のお目付け役のツルッパゲ卿は当然一緒にいたので、親父を止めてくれた。サンキューハッゲ。てか一方の言い分しか聞かないで決めつけて暴力ふるってくるの、アドラスと同じじゃん。この親にしてこの子ありすぎる。やっぱこいつが悪くないっスか?
ツルッパゲ卿に昨日の話を聞いて、親父はいったんストップしてくれたっぽい。いやー、普通に骨割れるかと思った。殴られた鼻も曲がったまんまだからね。魔法なかったら死んでただろ。
「マデウスに勝ったのか?お前が?」
「そー言ってんだろ耳遠くなったのか?おん?」
「アドラス様!態度が悪すぎます!」
拳を構えた親父に、ツルッパゲ卿が間に入ってきて取りなしてくれた。でもまあこの親父人の話聞かないじゃん。ムカつくよなあ。親父って生き物全体的に嫌いだけど。
しかしマデウスに勝ったことを疑われるくらいには、最近のアドラスは鍛錬をサボって弱体化していたのだろう。フツーにやってたらフツーに勝てるって。しかも歳の差も体格差もあるんだぜ。負けたら恥ずかしいだろうがよ。
「では私が確かめよう」
「え、何?親父と一戦やるの?何で?俺にメリットある?だるいが?」
フツーに嫌ですけど。顔を顰めてみせるとツルッパゲ卿がデカめに「アドラス様!」と名前を呼んで肩を掴んできた。はいはいそこのボケ親父じゃねーからデカい声出さなくても聞こえてるって。
「ふん。無様を晒すのが怖いのか?」
「誰もそんな話してねーだろうが。俺にメリットある?って聞いてんのよ。話聞いてないどころか勝手に捏造とかもうボケてんの?」
「アドラス様!!」
「うるせーハゲ聞こえてるわ!そこのなんも話聞いてねえボケ親父に叫んどけよ!」
「五億回ぶっ飛ばすぞ!」
「急にインフレすんな!」
「やかましい!!!」
怒鳴り合い大会は親父の優勝だった。騎士団長の肺活量やべ〜。そして親父は咳払いすると、俺をぎろりと睨んだ。
「そもそもお前に拒否権があると思っているのか馬鹿息子」
「ギャー親父つよーい。ばたん。しーん。はいおわり親父の勝ちー。満足した?じゃあうるせーからどっか行け」
「アドラス!」
「本気でやれって?俺の頼み一個聞いてくれたらいいけど」
「廃嫡を取り消すなど無理な話だぞ」
そこまで厚顔無恥じゃないよ俺。今の状態で嫡子の立場に返り咲いたらそれはそれで死ぬほど茨の道だろ。嫌だよそんな苦行。
「エミリーに手紙出したいんだよね。あっ変なこと書かねえから大丈夫、ツルッパゲ卿が検閲してくれりゃいいし。エミリーが嫌なら読まなくてもいいから」
「一兆回ぶっ飛ばしますよ」
「わかった。許そう。では行くぞ」
俺は首根っこ掴まれて親父に鍛錬場まで連行され、バキバキにぶっ飛ばされた。だから嫌なんだよ暴力親父っていう生き物は!絶滅しろ!!




