偽装の余白【エピローグ:記憶のかたち】
2025年11月3日、東京・世田谷。
私立美術大学の展示室には、静かな光が差し込んでいた。
白い壁に貼られた一枚の作品。
その下には、しっかりと名前が記されていた。
「佐伯遥/グラフィックデザイン科3年」
「2025年度文化祭展示作品」
「常設展示指定作品」
三浦拓真は、その前に立ち尽くしていた。
作品は、余白の美しさを語っていた。
沈黙の中に、遥の声が確かに響いていた。
彼は、ポケットから小さな冊子を取り出した。
『現代視点』特別号——遥の遺稿と作品を特集した号。
表紙には、遥の装丁がそのまま使われていた。
今度は、彼女の名前とともに。
三浦拓真の最終稿(抜粋)
|佐伯遥は、声を上げた。
|その声は、誰にも届かなかった。
|だが、作品は語っていた。
|それは、彼女の命のかたちだった。
|私たちは、創作の余白に耳を傾けなければならない。
|そこには、語られなかった真実がある。
|そして、消された声がある。
三浦は、展示室を後にした。
外の空気は冷たく、秋の終わりを告げていた。
だが、遥の作品はそこに残り続ける。
誰かが見つけ、誰かが耳を傾ける限り——
それは、もう奪われることのない記憶だった。
(おわり)