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フロントワールド、始動!

一年前に書いたものです、ココで供養させてください。

気分が乗ったら続編書きます

 神は三度死んだ。次の死は世界の終焉を意味するー。


「えらく深刻な顔してるな。」

 唯一のゲーム仲間、コウに問いかける。ゲーム仲間とはいっても一緒に協力プレイやらをする仲じゃない。俺は協力プレイなんて言葉が存在しなかった頃のゲーム、平たく言うとレトロゲーを、コウは流行りのゲームをプレイしている。とはいえ、ゲーマー同士話が通じることもある。世界は違えど次元は同じなのだ。

「お前に頼みごとがあるんだ。」

 コーヒーを勢いよく飲み干し本題へと入ろうとするコウ。その顔にはコーヒーのせいではない苦味が浮かんでいた。


 MMORPG「フロントワールド」は良くも悪くもこれまでにないゲームだった。SVR(超仮想現実)という機能によりプレイヤーはゲーム内のアバターを意のままに動かすことができた。レトロゲーマーにとっては信じがたい話だ。しかし、なんせ新技術だ。当然、バグやプログラムの穴は多かった。リリースから一週間も経つとMOD(ゲームのデータを改変するプログラム)が蔓延。当たったらHP関係なく即死の武器だとか、アニメ、漫画のキャラクターの衣装、果てには本来存在しないステージやギミックを作り出す者もいたとか。  


 それに加え、運営は一儲けした山には用はないとばかりに、静観を貫く始末。そこに、あるプレイヤーが立ち上がった。その男の名はGOD。彼は「フロントワールド」内のプログラムの中枢に侵入。プレイヤーの創造の権利はそのままに、バグの除去や不正行為の禁止、ダメージ計算はプレイヤー間の距離や射程を参照する独自の計算式を用意することで、ゲームバランスの調整まで行った。


 GODは言った。

「好きに作っていいよ、ゲーム性は守ってもらうけどね。」

 そんなGODが神としての意味を持つのに時間はかからなかった。彼によって平和が訪れた、と思われた。平和を破ったのはルシファーと名乗る男。GODを二度も倒し、ゲームの仕様によりGODがログアウトしている間にプログラムの中枢に侵入&改変。反撃を行うGODを数人の部下と強化された武器で迎撃した。ルシファーは言った。

「好きにやれ。これはつまらない現実じゃねえ、ゲームだ。」

 そして、全プレイヤーにあるプログラムを適応した。

―ゲーム内の死亡によるログアウトを行った者はアカウントが使用不可になる

 武力に長けているルシファーはプログラムの「カギ」を握るGODに戦いで決着を望んだ、ということらしい。

一方、俺の前の無知な男は、そこら辺のモンスターに倒されアカウントが使用不可になったとか。

「それで、俺に何をしろと?」

 哀れな男に問う。

「ああ、ルシファー討伐作戦に参加してほしい。お前のゲームの腕を見込んでだ。頼む。GODには恩があるんだよ!」

「あのな、第一、SVRのゲームなんてしたことないんだよ。それにー」

 言い終わる前にコウは顔を近づけ囁く。

「地底戦空バミューダ」

 地底戦空バミューダ、箱付きで十万円は下らないファ〇コンソフト。こいつの覚悟は本物だ。別に参加するだけでいいんだ、ちゃっちゃとルシファーとやらに倒されよう。内心そう思いながらもコウと熱い握手を組みかわす。

「よし、交渉成立だ。」

 男の友情は固いのだ。


「OK。電源付けたぞ。」

 グッドサインを送るコウ。

「こんな感じでいいか?」

 そう言って白くて丸い球体に座る。SVR専用機、名はノヴァ・スフィア。価格は十五万円。大人のゲーマーがプレイするものだが、あまりにもゲーム機としては高すぎる。しかし、大衆は購入した。全くちょろい大人たちだ。

「そこからアカウントを作ってくれ。」

「了解。」

 どうやら個人情報の入力が必須らしい。しかも、結構ガチなやつだ。役所や銀行と同じくらい厳格なアカウント作成に、昔は冒険の書を書くだけでガキでもおっさんでも勇者になれたのにな、と愚痴をこぼす。と、同時に納得する。ルシファーが行ったアカウント停止のプログラムは相当、厄介だ。家族であっても別の人間の銀行通帳を作成することは難しい。つまり、一度ゲーム内で死亡したプレイヤーは二度とこのゲームをプレイできないのだ。


 さて、「フロントワールド」の概要を説明しよう。とは言っても、プレイ1時間の感想だ。

間違っているところもあるだろうが、雰囲気だけでも掴んでほしい。世界観は、剣と魔法のRPGといったところ。まあ、王道だ。音響、グラフィックは、ほぼ現実。ゲームもここまで進化したか、とある種の感動を覚えた。本来のジョブは七種。それと恐らくプレイヤーによって追加されたであろうジョブが、たくさん。数えてみようと思ったが何度スクロールしても底にたどり着かなかったため諦めた。この数えきれない大量のジョブが残っているのもGODの意向なのだろう。ジョブは一番上にあった戦士を選んだ。こういうのは途中でダー〇神殿だとかクリスタルだとかでジョブチェンジができる、んで早めに王道のジョブを体験しておくことで次のジョブの特性を把握しやすくなる。ゲームプレイの定石だ。


 ルシファー襲撃隊は冒険者の町、ギルドタウンに集まった。操作の確認をしている者が多くいるところを見るに、彼らも俺と同じ、ルシファー討伐を依頼された初心者なのだろう。

全く、これでは藁人形の集まり、文字通り有象無象だ。ふと、視界を横にやると面白い動きをする藁人形がいた。傍から見ると滑稽な動きだが、俺には分かる。

「なあ、その動き『斬九郎無双丸』の覇王〇のコンボだよな?」

 斬九郎無双丸、永久コンボまみれの、時代を感じる格ゲーである。見たところ、ジョブは魔法剣士といったところか。

「私の名はサクラだ。貴様、『斬九郎無双丸』を知っているのか。勉強熱心なのはいいことだ。」

 おぉ、反応良好!心の中でガッツポーズした。三次元では女の子と普通の話すらできないというのに。文字通り俺の生きるべき世界は次元が違うということか。しかし、さすが格ゲーマーというべきか、サクラは俺の一歩先に行く。

「コンボの一つを知ってるだけで、格ゲーを知っている気になってんのか。くだらんな。コンボは選択肢の一つにすぎん。当然、相手もそれなりの知識はある。だからコンボを避けるための行動をとる。それだけじゃない。位置取り、HP残量、間合い、時間、様々な事象を加味し最善の択を選定する。この択の選定を実戦経験から確かなものへと昇華させる。この作業は誰からも認められることはない孤独な廻廊。そして辿り着く境地!この意識を研鑽する行程を格ゲーというのだ。それをお前は気安くー」

ーどうやら琴線に触れたらしい。やはり女は嫌いだ。


 ゲーム内で十二時を告げる鐘が鳴る。皆が視線を集めた先には大柄な男、いや漢が立っていた。

「ルシファー討伐のため集まってくれた諸君、ご協力ありがとう。早速で悪いのだが、各自音量をできるだけ下げてくれ。」

 下がってきたリフトには金色のモンスターが、これでもかというほどに敷き詰められていたレベル99の文字が何重にも見えるほどに。漢は、その巨体に見合う程の大剣でモンスターの塊に切りかかる。

 ギリジジジギリリー、最初で最後のフロントワールドのレベルアップ音は洗濯機の中にいるような、ひどい爆音だった。

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