誰かの囁き
掲載日:2024/12/25
「起きて」
その声を聞いた少年は目覚める。
誰が呼んだのだろう?
時計を見るとまだ午前四時だった。
十歳になったばかりの少年にとっては未知の時間だった。
お母さんもお父さんも起きていない時間。
冬だからだろう。
外はまだ真っ暗だった。
「良かった。起きてくれたね」
夢を見ていたのではないか。
そう思った少年の思いを打ち消すように再びの声。
「誰?」
思わず問いかける少年に対し、姿の見えない声の主は答えた。
「ごめんね。今はそれを伝えられない。だけど、助けてほしいの」
少年の心に奇妙な興奮が沸きあがり、胸が高鳴った。
これはまるで漫画やゲームの世界のようだ。
自分にしか聞こえない、姿の見えない相手が助けを求めてくるなんて。
「何をすればいいの?」
少年が問いかけると声の主が言った。
「助けてくれるの?」
「うん。だから教えて。何をすればいいの?」
「それじゃあ、まずは……」
冬空の川の中。
少年の身体は浮いていた。
誰も居ない時間。
誰も居ない空間で笑い声が響いていた。
「馬鹿な奴」
声の主は恐ろしい悪魔だった。
もう、数え切れないほどの数の命を奪っている、度し難い存在。
「何で姿形が見えない奴の言う事をすぐに信じるんだ」
悪魔の笑い声を知ってか知らずか、少年の身体は冬空の下で漂い続けていた。




