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Episode.028 俺の国って和睦交渉を纏めれるか?

 シャラクとカレンとの知られざる過去を聞いて暫らく後、二人も落ち着きを取り戻し掛けていた。

 すると突然、国王専属の私室の扉をノックする音が聞こえた。

 俺の発言以上に空気の読めないノック音に、若干腹を立てていたが、直ぐに今が未だに戦時であることを思い出して、襟を正して迎えることとした。


 いつもの様に、いつの間にかシャラクは扉口に立っていた。

 俺が目で合図を送ると、静かに扉を開いた。

 そこに立っていたのは、軍務大臣のパテックだった。


「ラウール陛下、斥候部隊の者から重要な情報がもたらされましたので、報告に罷り越しました」

 パテックは室内の空気を読んだのか?恭しく片膝をついて、奏上していた。


「早速、報告してくれ」

 俺はパテックに報告を促した。


「敵の覇権帝国から新たな軍勢を確認!ただし……騎兵のみでその数一万余り。旗は覇権帝国の皇帝専用旗を掲げているとのことでございます」


「軍務大臣のパテックとしての見立てでは、どう見る?狙いは王都か?それとも俺の首か?」

 俺はやはり、この戦争が未だに終結していない事に、遣る瀬無い失望感を覚えていた。


「敵の意図が分かりません。ただし王都には、パラネイが率いる義勇兵六万以上が帰還しているはず。騎兵の一万では成す術も有りますまい」

 パテックは首を横に振りながら、思案気に答えた。


「それでは、負傷兵を抱えたこのイースター砦を狙っているのか?しかし戦況を、どうやって把握しているというのだ?」

 俺は悔し気に、言葉を漏らしていた。


 それに対して、シャラクが言葉を継いだ。

「敵への内通者が紛れ込んでおったとしても、不思議ではないのじゃが、それならラウール様が放った、攻撃魔法も相手方には伝わっているはずですのぅ。覇権帝国は常に、どこかしらと戦争をしておるもんじゃ。そして戦争には、勝ち負けが付きものでしてのぅ。敵が戦争の引き時を見誤るとは、とても思えませんのじゃ」


 その言葉に更にカレンが、続けて意見を述べた。

「アタシが気になるのは、敵が皇帝旗を掲げていることね。あれは皇帝以外の使用は、固く禁じられているわ。そして騎兵一万とはいえ、皇帝が自ら率いるには兵数が少な過ぎることかしら?」


「確かに。皇帝自らがロレーヌ王国みたいな弱小王国を攻撃してくる意味が、皆目見当が付かないな」


「ラウール様が、自ら弱小と言っておっては臣下の士気が大暴落ですじゃ」

「ラウール殿下みたいに、素直に弱小って言い切るところが清々しいわね」

「ラウール陛下、敵帝国軍への対応を如何なすべきか?御采配を願います」

 俺の言葉に、三者三様の言葉が投げかけられたが、最後のパテックの言葉に対して指示をした。


「取り敢えずは、負傷している帝国兵を含めて、一旦拘束せよ!帝国兵には、皇帝がこちらに向かっていることを隠す必要はない。努めて穏便に虜囚とせよ。但しこの機に反乱を目論むものが在らば、遠慮なく切り捨てろ。砦の城門は、至急に固く閉ざすこと。更に警戒の斥候部隊を放って、敵の侵攻意図を見極めろ!」

 

「ハッ!」

 パテックは一礼すると、直ぐさま私室を飛び出して行った。


(俺はその内に、七人から同時に意見されても、的確に対応できるようになりそうだな)


フゥ――――ッ

 俺は大きく溜息を吐くと、仮の執務椅子に深々と腰を沈めた。

 どうやらここまでの疲れが、一気に襲ってきたようだ。

 

(帝国の意図が全く読めないな……)


 そんなことを考えている内に、いつの間にか深い眠りについていた。



◆    ◇    ◆    ◇    ◆



チュン、チュンチュン、チュン、チュチュチュチュチュ……


 なにやら甘い香りに包まれているような気がしながら目覚めると、いつの間にかベットに横になっていた。

 隣には温かく柔らかい感触が、横たわっていた。


「おはようございます。旦那様」

 ベット脇に()()クリスティーナが、優し気な声音で声を掛けてきた。


(あれ?じゃあ、隣に寝てるのは一体?)


 俺は慌てて振り返ると、横でスヤスヤ寝息を立てているのはネグリジェ姿のカレンであった。


「いや!クリスティーナ。これは誤解なんだ」

 俺が慌てて弁解しようとすると、クリスティーナは朗らかな微笑を湛えながら、こう言った。


「いえっ。誤解なんかではありませんわ。だって、二人をベットに運び込ませたのはわたしですから」

 クリスティーナの背後には、十名程の専属侍女(修道女)控えていた。


(ん?どういう状況なんだろう……まさか!こんどこそ、本物の朝チュンイベント発生なのだろうか?)


 クリスティーナはいつもの祝福の聖印を切ってくれながら、説明し出した。

「わたくしがイースター砦に到着しましたら、既に旦那様もカレン殿も椅子でぐっすりお休みになっておりましたので、専属侍女に申し付けて、ベットまで運ばせましたのですわ」


「ありがとう、クリスティーナ。なんだか疲れも一気に、消し飛んだみたいだよ」


 すると口元に手を当てて、クスクス笑いをしながら答えた。

「旦那様があんまりにお疲れのようでしたので、回復魔法ヒーリングをお掛けしましたのよ。そしたら旦那さまったら、まるで少年のように、可愛いお顔でお眠りになられてしまって……つい見惚れておりましたのよ」


 俺はなんだか、急に気恥ずかしくなってきたが、今が戦時だということを思い出すと、急に表情が引き締まるのを覚えた。

「ところでパテックからは、新たな報告は届いてはいないかい?」


「あぁ!そうでしたわ。目を覚まされたら、真っ先に報告するように頼まれていましたわ。なんだか間道を覇権帝国の先触れが駆け抜けてきて、明日には皇帝が直々に旦那様とお話ししたいそうですわ」


「なんだって!」

 俺はベットから勢いよく飛び起きると、一気に部屋を駆けだそう……と思ったが、隣に寝ているカレンに腕をガッチリとホールドされていた。

 取り敢えず、カレンを起こさなければならない。


「おいっ!カレン起きろ。なんか皇帝との会談になりそうなんだ」

 俺はカレンの肩を揺さぶりながら、無理やり起こした。


「ん?皇帝ぃ……むにゃむにゃ……大丈夫よ。叔父様が直接来るんなら、この戦争は無事に終わったってことよ」

 カレンは完璧に寝ぼけている。


 俺はカレンのホールドから無理やり抜け出すと、後のことはクリスティーナに任せて、イースター砦に唯一ある、作戦会議室に向かっていた。


 作戦会議室にはパテックやシャラク、それに第一軍団長のラソーゲなどの軍団長が揃い、すでに対応について協議している真っ只中であった。

 一同が一斉に略礼を取るのを制しながら、会議の進捗状況を尋ねた。


「先程、覇権帝国の先触れの使者が参ったのですが、当人曰くは『和睦』の使者であるとのことでしたので、一応丁重には向かえましたが、シッカリ見張りを立てて部屋に軟禁しております」

 パテックは初動について、報告した。


(確かにカレンも皇帝が率いるには、人数が少な過ぎるとか言ってたな……)


「それで皇帝が率いる、騎兵一万の状況はどうなっている?)

 先ずは全容を把握することにした。


「はっ!先触れの者が申すには、間道は落石のせいで騎馬で駆け抜けるのは無理と判断して、下馬して落石に注意しつつ、ゆっくりこちらに向かっているとのことです。敵には戦況に関しても、ある程度は把握しているようで、直接イースター砦に向かっているとのことです。先程帰還した斥候部隊からも、同様の報告を受けております」


 俺は続いて、会議の進捗状況について尋ねた。


「現在は覇権帝国の皇帝自らが、騎馬兵一万を率いてイースター砦に向かっているという事実のみに従って、対応を協議している最中です」

 パテックは会議室の一同を見渡しながら答えた。


「方向性はそれで良い。敵の謀略も頭から忘れるなよ。あの王城での襲撃の二の舞は、二度とごめんだからな」

 俺は近衛兵の面々。幼い獣人の少女の犠牲などが、頭に過ぎっていた。

 そう、カレンが俺を庇ったことについても含めてだ。

 

「ただし敵から和睦の使者との言い分も、十分に汲み取った対応も求められる。そもそも我が王国には、覇権帝国と戦争するような継戦能力などないのだからな」

 我ながら矛盾した指示をしていると、自覚しながらも、諸将の顔を見渡した。


「つまり陛下は、敵の意図については協議は後にして、先ずはイースター砦の防備を固めることを万全にした上で、いかに安全な和睦交渉の席を設けるか?その対策を進めよと申されておるのですな」

 第一軍団長のラソーゲが、かみ砕くように説明した。

 俺はその言葉に大きく頷いた。


「戦争を早期に収める王に、俺はなる!」

 俺の言葉が、この作戦会議室に響き渡ると、諸将も深く頷いていた。

 会議の内容は、いかに安全に平和裏にこの会談を実現させるかに力点が動いて、協議が続けられた。


 俺の思考は、このあと訪れる和睦交渉に注がれていた。



(俺の国って和睦交渉を纏めれるか?)

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